カレー沢薫の時流漂流 第117回 Go To狂騒曲で現場は混乱、鳥貴の錬金術師が大発生

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政府が打ち出した「Go To」企画が何かと物議を醸している。

「Go To」と言われたら「HELL」と続けるのが礼儀みたいなところがあるが、政府がまず打ち出したのは、意外にも「トラベル」であった。

「外出は控えて、でも旅行には行こう」と始まったGO TO トラベル

私は、金を払ってでも外に出たくない派なので今の今まで概要を調べもしなかったが、「Go To トラベル」とは、ざっくり言えば旅費の半分を国が負担してくれるキャンペーンである。

対象となるのは宿泊費や交通費で、一人一泊あたり20,000円を上限に支援されるという。支援の7割は直接旅行代金から割引され、残り3割は旅行先で使えるクーポン券や電子クーポンで支払われるそうだ。

かなり得なキャンペーンであることは否めないが、実施されたのがちょうどまたコロナウイルスの感染者が増加しはじめたころだったため、「感染防止のため外出は控えるように、でも旅行には行こう」という、一刻も早く一休の召集が待たれるとんち状態になってしまった。

もしくは「、」の間に何者かに殺され、別の人物に入れ替わったのだと思う。

もちろん「今やることか」という批判は相次いだ。しかし、新型コロナウイルス自体も深刻ではあるが、その影響により観光業が受けた打撃も深刻である。もはやコロナで死ぬか、コロナによる経済難で死ぬかという死因の違いの問題になりつつあるところも多く、何もしないというわけにはいかなかったのだろう。

実際「こんな時に旅行なんて」という声が大きいように見えたが、実施されてみれば利用した人は結構多かったように感じる。

やはり「コロナ」という言葉が現れて早や半年、人々もただコロナにビビるだけの生活に飽き、「逆に考えるんだ、罹っちゃってもいいやと」という大らかな気持ち、もしくは「罹って村八分にされたら、猟銃、日本刀、懐中電灯を2本ずつ買って応戦すればよい」という戦う気持ちが芽生えてきたのかもしれない。

「コロナに負けるな」というスローガンがやっと有言実行になってきたと言える。ただ、戦う相手がもはやコロナでなくなってきているような気もするが、何と戦っているのか良く分からなくなるというのは、我々人間にとってお馴染みの現象である。

“等価交換”でポイントゲットする錬金術師が続出「Go To Eat」

そして「トラベル」の次に「Go To」することになったのは「Eat(イート)」、観光業と並んで打撃を受けた「飲食業」を救済するキャンペーンである。

私は外に出て衆目の中飯を食うぐらいなら、床に置いた牛皿をおドッグ様のように召しあがった方が良いと思っているほうなので、当然こちらも今概要を調べた。

「Go To Eat」とは、ぐるなびや、食べログなど飲食店予約サイトから、Go To Eat加盟店に予約をすると、ランチなら500円、ディナーなら1,000円分のポイントがもらえるというキャンペーンである。

こちらもトラベル同様、かなり高い還元率であり、外食を嗜む性癖があるなら利用しない手はないだろう。

しかし、このシステムを悪用とまでは言えないものの、穴を利用して店側を困らせる存在が各地に現れたという。

その名も「鳥貴の錬金術師」だ。

もう名前だけで「これはカッコ悪いことをしているぞ」というのが一目瞭然だが、一応説明すると、焼き鳥居酒屋の「鳥貴族」のメニューは、串一本「298円(税込327円)」である。よって、ディナーを予約し、串1本だけ頼めば、1,000円分のポイントと差し引きして673円分の「利益」を出せることになってしまう。

この穴を利用して「鳥貴マラソン」を行い、ポイントを荒稼ぎする猛者が現れたようだ。

だが、プロに言わせればそれすら児戯に等しく、ホンモノは「七輪焼肉安安」で席だけ予約し、「コチュジャン単品10円」だけを舐めて退店するのだそうだ。

この約「990円」という鳥貴を遥かにしのぐ利益を出す方法は、コチュジャンを舐めて帰るという所作から「コチュペロ」と呼ばれ、673円と人間の尊厳を等価交換したはずの錬金術師たちも「さすがにそこまでは」と感嘆しているという。

ポイントは店ではなく国が出すものだが、予約サイトの利用料を差し引くと串一本の客では98円程度の売り上げしかなく、材料費や人件費、さらに錬金術師に席を与えている間、他のまともな客を入れられないことを考えると完全にマイナスである。

鳥貴が窮状を訴えるも、当初キャンペーンをはじめた農林水産省は「制度上問題はない」と黙認の構えであった。そのため、鳥貴は夜のネット予約をコース付きにし、席だけの予約は電話応対のみにするなどして錬金術師の猛攻に対応、Go To Eatによってかえって仕事が増えてしまっていた。

だが、最初から「飲食店を救済します、ただし鳥貴、てめーはだめだ」と宣言していたならまだしも、飲食業界を救うためと言っておきながら、飲食店をさらに困らせて捨て置くという態度に批判が殺到し、今では「Go To Eat」のHPにそっと、「Go To Eatキャンペーンを利用する場合は、付与ポイント以上の飲食が必要となります。」と申し添えられている。これによって、鳥貴の錬金術師のみならず、コチュペロの民の「錬金」も収束を迎えた。

キャンペーン制度の精査がずさんだったことは否めないが、新しいキャンペーンやシステムには、ほぼ必ずその穴を突いて儲けようとする人間が現れるものである。

そういう人間の発想というのは「何故その才能を他で生かさなかったのか」というぐらい頭が良い時があるので、もはや穴を突かれるのは仕方がないのかもしれないが、見つけられた穴は広がる前に、早急に塞いでほしい。