「盗撮」に狙われた陸上選手の苦悩 被害女子アスリートが独占告白(上)

 競技会で女子アスリートのパフォーマンスを撮影するのではなく、性的な視線で選手の姿を狙う「盗撮」まがいの行為が後を絶たない。撮影された画像や動画は会員制交流サイト(SNS)などによって拡散され、インターネット上に残された中傷は削除が難しく「デジタルタトゥー」として半永久的に選手を苦しめる。 盗撮に狙われた日本代表経験のある陸上選手が共同通信の取材に応じ、被害の実態を告白してくれた。その選手はツイッターのダイレクトメッセージ(DM)機能で、知らないアカウントから男性の性器の画像や、自分が競技をしている写真に体液をかけたように合成された写真を送りつけられたことがある。ファンからの応援メッセージに紛れた悪意ある行為を見つけてしまったときの気持ちは計り知れない。(共同通信=鎌田理沙)

性的な撮影被害、SNSでの拡散被害を打ち明ける陸上の女子選手=9月、東京都内

 ▽「尊厳考えて」悲痛な叫び

―最初に「おかしいな」と思ったのはいつごろですか。

 高校3年とか、大学1年の頃でしょうか。SNSを使うようになり、高校時代の競技を終えて鍵付きアカウントにせずにやり始めたあたりからです。大学でタイムが伸びて、いろいろなところで取り上げられるようになってから、DMが来るようになりました。普通のメッセージだと思って開いたら(性的な画像で)「何これ」ってなりました。

―嫌な気分になりますね。

 そうですね。いざ自分がそういう風に見られるようになったと感じると、「うわ」って気持ち悪く感じました。

―SNSでの被害はDMが多かったのですか。

 DMのほか、ツイッターのアカウント自体が拡散目的で、投稿に私が写っているものもありました。(隠し撮りではない)普通の写真を使って、書いている内容が性的なツイートも見たことがあります。

―普通の写真投稿でも、書いている内容が性的なのですか。

 そうですね、明らかにそういう目線で見ているものがあります。

―動画なども女性の顔を切り取って加工するなど、尊厳を傷つける編集が横行しています。

 アスリート以前に、人としての尊厳を考えてほしい。「応援しているなら、そのくらい分かるでしょう」という行動をする人は結構います。

陸上の世界リレー大会で競技をする女子選手たち=19年5月、横浜市

 ▽活躍するほど好奇の視線

 競技場で走っている姿が観客席から隠し撮りされ、ネットに流出する。大会で活躍すればするほど、送りつけられる迷惑なメッセージ。表彰式での記念写真をコラージュし、卑わいな言葉が自分の名前と一緒にリツイートされたこともある。「好きなスポーツをしているだけなのに、どうして踏みにじられなければいけないのか」「応援してくれているファンや、親がこれを見たらどう思うのか」 。SNSの普及でアスリートも自ら意見を発信したり、ファンと交流したりする場としてツイッターやインスタグラムを利用する機会が増えた。この選手は高校時代は鍵付きのアカウントだったが、大学進学を控えて陸上の情報発信用として使い始めた時に被害に遭うようになった。迷惑なメッセージを見る度に履歴を消して、アカウントをブロックしていたが、際限がない。今年8月ついに被害に耐えられなくなり、関係者に相談を持ちかけた。

陸上の世界選手権で、スタンドに手を振りながら場内一周する女子七種競技の選手たち=11年8月、韓国・大邱

―8月に相談した時はどのような思いでしたか。

 そういうアカウントからフォローされているということは(変な視線で)見られているわけだから、安易に自分の写真とかも上げられないし、投稿したくない。見られたくないと思ってしまう。自分の競技とかの写真を上げたくなくなるし、怖いというよりも気持ち悪いと思ってしまいます。

 ―相手が見えないからこそ余計にそう思いますか。

 そういう画像をみんなで共有しようというのが、どういう考えなのかと思う。(ネットでは)そういう人が集まるからさらに拡散されるじゃないですか。だから、安易に写真は上げられなくなります。

―他人との共有、拡散はSNSのメリットでもありますが、今回のような行為は被害の拡散ですよね。

 皆が見られるところに送って、本人が見たときにどう思うのか考えないのでしょうか。ネットに一回出たものは消えない。それを親とか知り合いとかが見たときに悲しみます。そういう風に使われてしまうと思うので。

―相談して良かったですか。

 こう言うことが起きていると知ってもらうのが一番だと思うので、良かったと思います。

―ビーチバレーの選手で今回の報道を見て「嫌だと言ってもいいんだと気付いた」「最初に声を上げてくれた陸上の選手にありがとうと言いたい」と話した方がいました。

 この問題ってやっぱり、陸上だけじゃないと思います。

 性的画像問題は、この陸上選手が関係者に相談を持ち掛けたことで、日本オリンピック委員会(JOC)が対策に乗り出すことになった。しかし、ネット上では「露出のあるユニホームを着ている方が悪い」などの心ないコメントも散見された。SNS時代で情報発信が容易になり、悪意のある情報や画像は想定を超えて拡散することもある。この陸上選手だけでなく、どの女子アスリートが次の被害者になっても不思議ではない社会問題だ。(つづく)

「性的画像」対策、世間の理解を  被害女子アスリートが独占告白(下)

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競技場の盗撮、対策はいたちごっこ 被害女子アスリートが独占告白(番外編)

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