『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』

(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

 境川部屋と髙田川部屋の稽古場に密着した大相撲のドキュメンタリー映画だ。撮影も編集も一切奇をてらっていない。言い換えれば、何の趣向も凝らされていないシンプルな作品なのだが、でも、そこがいい。ドキュメンタリーの良し悪しは、ほぼ被写体の力で決まるから。相撲が力士が、こんなにも被写体向き=フォトジェニックだとは思いもしなかった。

 前半の主人公は、100キロのダンベルを軽々と扱う妙義龍と大関の豪栄道。ぶつかり合う強靭な肉体、その体から立ち昇る蒸気、我々のウエストよりも太い太腿…をカメラが間近から捉える。その一方で、境川部屋の力士たちが慰労会で焼き肉店の肉を全て食べ尽くすユーモアや、様式的で無駄な動きのない土俵作り、手際のいいちゃんこ鍋作りの様子などが見事な緩急を生んでいる。寡黙な豪栄道にすっかり魅了されてしまった。

 ところが、後半の主人公となる髙田川部屋の竜電が、「ちょっと待った!」と物言いをつけるのだ。豪栄道が剛なら、彼は柔。ガムシャラに相手にぶつかるだけでなく、「押してダメなら引いてみな」と、あたかもこの映画の“緩急”を体現しているかのよう。そんな彼から相撲の奥の深さを教わりつつも、映画はあくまでも表層芸術で“肉体”とも“様式美”とも相性がいいわけだから、相撲がフォトジェニックなのも当然だと改めて納得したのだった。★★★★★(外山真也)

監督・製作総指揮:坂田栄治

語り:遠藤憲一

出演:境川部屋、髙田川部屋

10月30日(金)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社