『ザ・ハント』あえてセオリーに逆らう作劇法

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 いわゆる“人間狩り”を扱ったサバイバル・アクションで、スプラッタ・ホラーやコメディーの要素もふんだん。だが、作り手が本当に描きたいのは、そこではないだろう。つまり、エンターテインメントにかこつけたメッセージ映画ということになる。分かりやすいテーマは、トランプ政権下のアメリカ社会に対する痛烈な風刺。ただし、これに関しては日本人が全てを理解するのは難しいからと言い訳しつつ、解説はアメリカ在住の批評家諸氏に委ねたい。

 問題は、エンターテインメントの影に隠れたもう一つのテーマの方。『TENET テネット』がまさにそうであるように本作も、何の情報も入れずに観た方が絶対に楽しめる。例えば、冒頭から主人公だと思った人物が次々に死んでいく…そう、これだけでもうネタバレ。そんな意表を突く一筋縄ではいかない展開が極めて重要で、キャスティングにおいても主演が誰なのか?敵役が誰なのか?が途中まで巧妙に隠されている。

 では、なぜ作劇のセオリーにあえて逆らうのか? そこには、観客を驚かせたいという理由だけでなく、「第一印象や思い込みは常に疑ってかかれ」というメッセージが込められているのである。もちろんエンタメ作品である以上、連綿と培われてきた土壌の上に成り立っているセオリーを無視することには限界があるのだが、作り手の意欲は十分に伝わってくる。★★★★☆(外山真也)

監督:クレイグ・ゾベル

出演:ヒラリー・スワンク、ベティ・ギルピン

10月30日(金)から全国公開

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