【レースフォーカス】中上がグリッド上で感じたもの……そしてスタート直後の5コーナー/MotoGP第12戦

 MotoGP第12戦テルエルGPでは、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)が最高峰クラスで初めてポールポジションを獲得した。表彰台、その頂点に立つのか……しかし、中上の決勝レースはコーナー5つで終わってしまった。

 日本人ライダーとして16年ぶりにポールシッターとなった中上。2004年最終戦バレンシアGPで、玉田誠(Camel Honda)がポールシッターとなって以来の快挙だ。フリー走行では常にトップ2以内をキープ。主にレースシミュレーションが行われるフリー走行4回目でも、ペース、速さともにあった。

 テルエルGPは前戦アラゴンGPと同地、スペインのモーターランド・アラゴンでの連続開催である。初日は前戦アラゴンGPと同じセッティングでスタートし、土曜日には電子制御に手を加え、それもうまく機能したという。土曜日までの中上は、まさに『乗れている』状態だった。

 テルエルGPの金曜日セッションが始まる前日の木曜日には、中上の2021年シーズン以降の契約更新が発表された。彼自身が木曜日の取材のなかで語ったところによれば、HRCとの契約更新年数は2年。2021年シーズンは「4台のバイクが同じ。マルク(・マルケス)、アレックス(・マルケス)、ポル(・エスパルガロ)と同じバイクだとホンダは言っていました」ということだ。2018年にMotoGPクラスデビューを果たして以来、前年のバイクで戦ってきた中上にとって、2021年シーズンは初めて最新型でシーズンを戦うことになった。

 2020年シーズンは常にトップ10圏内のリザルトを堅守していた。第11戦アラゴンGPまではチャンピオンシップでトップから29ポイント差のランキング5番手。混沌とした今季のチャンピオンシップにあって第11戦までは決勝レースでの転倒もなく、安定した結果を残し続けてきたのだった。

 第2戦スペインGPのあと、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のデータを参考にし、ライディングスタイルをM.マルケスのそれに近づけることに挑戦し続け、確実に実を結んでいた。そして、次第に彼自身のコメントにも「表彰台」ときには「優勝」が混じることが増えた。

「ポールポジションを獲得できましたし、木曜日には契約を更新が発表されました。今はストレスもなく自由だとも感じています。今のところ、今週末を楽しんでいます」

「金曜日から“ゾーン”に入ったようでした。優勝とかチャンピオンシップとか、表彰台についても考え過ぎませんでした。少しリラックスして、ただレースを楽しむのが重要だと思います」

2020年MotoGP第12戦テルエルGP 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)が予選ポールポジションを獲得

 予選後、中上はそう語った。もしかしたら、「楽しもう」というのは自分に言い聞かせる言葉でもあったのかもしれない。決勝レースではスタート直後、1周目の5コーナーでスリップダウンを喫しリタイア。今季初の決勝レースでの転倒により、大きなチャンスを失う結果になってしまった。

■トップを走行から喫した5コーナーでの転倒

 レース後、オンラインで記者の前に姿を現した中上は、転倒時の様子を子細に語った。「今でも自分がしたことが、ミスをしたことが信じられません」

「フランコ(・モルビデリ)が後ろにいるのはわかっていました。なので、1コーナーからラインを締めたのです。ポジションを守ろうとしました。そしてラインを外してしまいました」

「4コーナーでは、少しイン側になり、5コーナーのブレーキングでは、ほんの少しだけ、アウト側になったんです。そのとき、自分の意識をコントロールできませんでした。ブレーキングがとても鋭くなってしまい、突然フロントがロックして、フロントを失ってクラッシュしてしまったんです。ばかなミスでした。そのときどうしてそうしたのか、わかりません。ただ、少し速すぎたとだけ言えます。スピードも、ブレーキングも、そしてプレッシャーもコントロールできませんでした」

 ポールポジションからのスタートは、同時に大きな重いものを中上に運んできた。初めてのポールポジション、グリッド上では特別な気持ちになった? と聞けば、「素晴らしい気持ちでした」と言ってから「でも一方で、本当にものすごいプレッシャーも感じていました」と続けた。

 中上は大きくて重たいものを持ったままレースに挑んでしまった。そして、その代償はとても大きかった……ということになるのだろう。チャンピオンシップではランキング7番手に後退。けれど中上は「残り3レース、チャンピオンシップをかきまわしたいです」と前を向く。ポールポジションからスタートした、わずかとはいえトップも走った。あと残る“未経験”は表彰台に上がるだけだ。

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