言語化

 将棋の羽生善治九段は、情報工学の研究者2人との共著「先を読む頭脳」の中で、対局者同士が終局直後に互いの読み筋を披歴し合う「感想戦」について〈言語化して相手に伝え、相手からも受け取るやりとりは、時として1+1=2以上の効果を生むことがある〉と語っている▲羽生さんの読み筋ほど複雑なことは考えてはいない当方だが、何かのテーマについて、誰かと雑談を続けるうちに、頭の中が整理されていくように感じることはよくある▲2年ほど前に、学校の先生と交換日記を続けている中学生の話を紹介したことがある。〈楽しい話は楽しさが伝わるように、腹が立った日は怒った理由が分かるように。言葉選びが丁寧になりました〉。これも言語化の効用だろう▲方法ばかりで「目的」が見えない-と先日小欄に書いた菅義偉首相が昨日、初の所信表明演説に臨んだ。〈ウィズコロナ、ポストコロナの新しい社会〉〈活力ある地方を〉〈自助・共助・公助・そして絆〉▲目指す社会像は幾らか語られたが、世間の耳目を集める学術会議の任命拒否問題はひと言も説明がなく、「公助」の“出番”がいつも3番目である違和感は今回も消えないまま▲「言語化」へのさらなる努力が必要に思えてならない。昨日の演説、皆さんはどう聞かれただろう。(智)

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