「常勝チームには必ず良い伝統がある」 元コーチが指摘する鷹・松田宣の“凡事徹底”

ソフトバンク・松田宣浩【写真:藤浦一都】

元ホークスコーチの森脇浩司氏は松田宣が常勝ソフトバンクの伝統を体現していると指摘

ソフトバンクは27日から2位・ロッテとの直接対決3連戦(PayPayドーム)に臨む。優勝マジック「2」で、勝てば3年ぶり19回目のリーグ優勝(前身の南海、ダイエーを含む)が決まる。

7-2で快勝した25日の西武戦では打撃不振にあえいできた松田宣浩内野手が5回にバックスクリーン右の中堅席へ12号ソロを放つなど、4打数2安打1打点。ダイエー・ソフトバンクで13年間コーチを務め、その後巨人コーチ、オリックス監督なども歴任、松田宣とも縁が深い森脇浩司氏は、この37歳のベテランがクライマックスシリーズ(CS)以降の短期決戦では鍵を握る存在になると見る。

プロ15年目を迎えた松田宣の今季は、苦闘の連続だ。開幕から打率2割前後の低迷を続け、9月10日の楽天戦ではついに出番がなく、2014年8月から続けてきた連続試合出場が「815」で止まった。この時、「記録を途切れさせたのは自分だし、それまで試合に出てきたのも自分。ストップした今ここからが、自分の新たなスタート」と潔いコメントを残した。

打率は.229に過ぎないが、10月に入ってから22試合で78打数22安打(打率.282)、5本塁打15打点と調子を上げている。森脇氏は「“ここにあり”という活躍を見せ始めた。優勝決定後の短期決戦では、なおさら主力らしい存在感を示すと思う」と言う。

松田宣のプロ1年目の06年、森脇氏はソフトバンクの1軍チーフコーチ兼内野守備走塁コーチ。7月6日からは当時の王貞治監督(現・球団会長)が胃がんの手術に伴って休養したのを受け、監督代行を務めた。小久保裕紀氏、城島健司氏、井口資仁氏(現ロッテ監督)らが相次いでチームを去り、世代交代を求められている時期でもあった。

受け継がれる常勝ホークス「柳田ら下の世代の選手が、マッチの背中を見ながら伝統を継承しつつある」

森脇氏は「常勝チームには、必ず良い伝統がある。ホークスの場合は、攻守において常に技術の確立を自分に求め、主力やベテランこそ声を出し、凡事徹底を実践すること」と語る。その上で「マッチ(松田宣)は、04年に3冠王を獲得した松中(信彦氏)らからホークスの伝統を引き継ぎ、川崎(宗則内野手=現BCリーグ・栃木)、本多(雄一氏=現1軍内野守備走塁コーチ)らとともに真のファイティングスピリットを発揮してくれた。今は柳田ら下の世代の選手が、マッチの背中を見ながら伝統を継承しつつある。自分の言動がどれほどチームに影響を与えるかも、マッチはよく知っている。連続試合が止まった時のコメントも、彼らしくて素晴らしかった」と評する。

松田宣は5点リードの3回無死二塁では、送りバントを試みたが、初球を空振り。1球ボールの後、3球目もファウル。追い込まれてからヒッティングに替わったが、空振り三振に倒れた。犠打は、打線の中軸を務めた15年から18年まで0。昨季は2度決めたが、今季はここまで1つもない。

森脇氏は「短期決戦となれば、試合の序盤からマッチに送りバントを命じることも十分ありうる。工藤監督としては、そういうことも見越してバントをさせておきたかったのだと思う」と察し、「私はよく覚えているが、マッチのプロ初打席(06年3月25日・ロッテ戦)は送りバントだった。チーム優先が身にしみついた選手だから、送りバントのサインを不満に思うようなことは1%もありえない」と断言する。

事実、松田宣が入団する以前、2000年の日本シリーズでは、4番で本塁打王を獲得した経験もある小久保氏が送りバントを決めた。「マッチのような主軸を期待する選手ほど、入団当初からそれを伝えた。我々は日本一を目指すチームで、日々の積み重ねが明暗を分ける、という文言も口癖にしていた。1日数本であっても、真剣に取り組むバント練習に大きなメリットがあることを、マッチは一番心得ている。明日から今まで以上の意識で取り組むことだろう」と森脇氏。

王監督時代から脈々と受け継がれ、昨年まで3年連続日本一という形で花開いた伝統を、松田宣という選手は体現している。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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