金正恩「最高の女性エリート」に“泥まみれの苦役”を強いた権力の伏魔殿

現在の北朝鮮で最高位にある女性エリートは、金正恩党院長の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長を除けば、崔善姫(チェ・ソニ)第1外務次官だろう。女性がこのポストに座ったのは史上初のことであり、さらに彼女は党中央委員と国務委員も兼務する。

もちろん、金正恩氏の最側近のひとりであるわけだが、そんな崔氏が最近、「革命化」を経験したという。

何らかの過ちを犯した幹部の職責を解き、地方の協同農場や炭鉱に送り込み、辛い肉体労働をさせることで、朝鮮労働党や首領(金正恩党委員長)に対する忠誠心を高める一種の思想教育だ。その労働は過酷で、あまりの辛さに外見が大きく変わったしまう人々さえいる。崔氏も例外ではなかったようだ。

デイリーNKの内部情報筋によれば、崔善姫氏は今月の初め、3カ月の革命化を終えて業務に復帰したという。彼女が送り込まれたのは、平壌市郊外の兄弟山(ヒョンジェサン)区域にある協同農場だ。ここは中央党(党中央委員会)の幹部たちに配給する穀物や野菜類を生産しているところで、崔氏も炎天下、泥だらけになって農作業を行い、真黒に日焼けしてしまったという。

昨年2月、ハノイでの米朝首脳会談が決裂して以降も、崔氏は問責されるどころかむしろ政治的な権威を増してきた。それほど、金正恩氏の覚えがめでたいということだ。

そんな彼女の身に何が起きたのか。情報筋によれば、崔氏は今年初めに外相に就任した李善権(リ・ソングォン)氏と意見が合わず、神経戦を繰り広げた結果、一時的にせよ敗北を喫したということだ。

ただ、現在では党中央委員会の彼女に対する信頼も回復しているということだが、注目すべきは、崔氏の革命化を金与正氏が主導したとする情報があることだ。情報筋によれば、崔氏に大きな信頼を寄せる金正恩氏と異なり、金与正氏は崔氏と李善権氏を競わせ、異なる意見を上げさせて是々非々で判断するやり方を取っているということだ。

しかしそうなると、幹部たちは金正恩氏よりも、金与正氏の顔色をうかがうようになってくるかもしれない。あるいはそれも、妹に相当な範囲で政務を任せたいという、金正恩氏の意向によるものなのだろうか。

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