〝猫ゴジラ〟現る!?鉄道模型食堂の猫たち「うちの福招きねこ〜西日本編」vol.21

©まいどなニュース

大きいレイアウト(鉄道模型台)にたたずむレオ(注・大きいレイアウト内に猫がいる写真は営業終了後、許可を得て撮影)

JR大阪環状線・寺田町駅のすぐそばにある「ジオラマ食堂」(大阪市天王寺区)。店内には、メインの大きなレイアウト(鉄道模型台)と、小さなレイアウトのある猫部屋があり、持参した車両を走らせながら食事をしたり、猫たちと触れ合ったりすることができる。ジオラマ製作のプロで、顧問の寺岡直樹さん(56)は、コロナ禍で営業自粛を余儀なくされ、店の経営が立ち行かなくなる寸前まで追い込まれた。そんな窮地に陥っていた矢先、5匹の親子猫が現れた。キジトラの母猫・サラ(メス、2歳半)、その子どものシンバ(オス)、レオ(オス)、ナラ(メス)、ライア(メス)の4匹(レオは白黒柄、その他はキジトラ。いずれも生後半年)だ。子猫たちが救世主となり、店はいま、再び活気を取り戻しつつある。飼い主の寺岡さんに経緯などを聞いた。

メインの大きいレイアウト。線路総延長は50メートル以上

寺岡さん 緊急事態宣言が出る前の今年3月から店は営業を自粛。宣言が解除されてからは週末夜のみの営業でしたが、外出したらあかんといった雰囲気も漂っていて、お客さんはほとんど来ず、家賃や人件費もかかるので、このままやったらもう店やっていかれへんわと。猫たちが現れたのはそんなときやったんです。

6月初旬、隣の保育園の保育士さんが、掌にのるくらいの生まれたばかりの子猫が園の前でうずくまっているのを見つけて保護し、僕のとこに持ってきました。僕はずっと犬派で、猫を飼ったことはなかったんですが、とても可愛かったので自宅に連れ帰り、シンバと名付けて家族で飼うことにしました。

大きいレイアウト。プラットホームに立つ人々に至るまで精巧なつくり

でも、それだけで話は終わらんかったんです。しばらくすると、キジトラの成猫が店に通ってくるようになり、餌をあげるとどこかへ消えていくんです。7月に入ると、隣のビルの勝手口に置いてあるゴミ箱の裏で、3匹の子猫が発見されました。あとでわかったんですが、先に保護したシンバとその3匹は兄弟姉妹で、そのキジトラが母猫やったんです。おそらく母猫が子猫たちをゴミ箱裏の安全な場所へと運んだとき、シンバだけ保育園の前に落としてしまったのかもしれません。その母猫がサラ、いま店にいる3匹がレオ、ナラ、ライアです。

7月中旬、保護猫団体の方がきてくれて、捕獲器を設置し、まずはサラを保護。動物病院で避妊しました。その数日後に子猫3匹も捕まえて病院へ。その後、サラと子猫たちは、店の奥にある部屋にケージを置いて、そこで飼うことにしたんです。

ナラは赤い首輪が目印

サラは当初、ものすごく凶暴で、僕やスタッフが近づこうものなら、シャーと威嚇し、ひっかかれて怪我を負うこともしばしばでした。今も警戒心が強く、ケージから外には出せません。子猫たちも、特にナラは幼いのに噛みまくってきて、捕獲当初は死に物狂いで反抗していました。今は3匹とも、僕には甘えてくるようになりましたが。

鉄橋と海を背に立つライア

大雨が多かった都会の雑踏の中で、サラも子どもたちも、生き延びるんに必死やったんやないかと思います。保護当時は生後2カ月弱くらい。食べられるもんなら何でも食べて、危害を加えられそうな人には必死で警戒、抵抗してきたんです。僕もコロナでお客さんがこず、資金繰りに困ってたけど、命を繋がなあかんかったこの子たちの大変さに比べたら、僕の悩みなんかまだましかもなと。純粋無垢で、真剣に生きようとしているこの子らを目の当たりにして、勇気をもらい、気持ちがすごく楽になったんです。

猫部屋にある小さいレイアウト
ナラ。線路を我が物顔で歩き回る

店内にあるメインの大きなレイアウト(鉄道模型台)は、日本の高度経済成長期、1970年代の地方の町をイメージしています。海や山や川があって、故郷ってこんなんやったよなあと思い出してもらえるような懐かしい情景です。縮尺は1/150。山の木々や街並み、駅のホームに立つ人など、細部にまでこだわったフルスクラッチ(手作り)です。お客さんは自分の車両を持ってきて、模型運転を楽しむことができます。

小さいレイアウトの電化線は、猫が倒してもすぐ元に戻せるよう、両脚にマグネットが取り付けられている

大きなレイアウトでは、お客さんがいる営業中は猫を出すことはありません。持参されたお客さんの大切な車両を傷つけたりしたらいけませんからね。猫を放つのは営業が終わったあとです。自由に遊んでいいよと。電線には微弱の電気が流れてはいますが、人や猫が触れても安全なように作ってあるので心配はいりません。3匹は山肌で爪をとぎ、トンネルに入ったり出たりする電車に猫パンチをくらわすなど、まるでゴジラみたいに好き放題やってくれるんですけど、猫たちはこの店内で何をやっても許す、というのが僕のスタンスなんです。

(上)サラは子ども思いの優しいお母さんだが、人間にはまだ警戒心を解かず、ケージの外には出ない(下)猫部屋にはケージと空気清浄機が置かれている

精巧に作られた模型台の上に猫を放したりして、壊されたり、叱ったりしないんですか?とよく聞かれるのですが、もちろん壊されます(笑)。僕も当初は覚悟いったんですよ。でも、3匹の子猫たちは、元々野良で、自由やったわけですから。今は完全室内飼いとはいえ、1日中ケージの中に閉じ込めておくのはかわいそうやなと。

週1、2回、専門のスタッフが保守点検にきてくれてるんですが、その彼には「君や僕らのすごい思い入れがあって作ってるもんを、まさか猫に壊されるなんて、思ってもみいひんかったやろう。心から悪い思うてる。せやけど、営業が終わったら、あの子たちの自由にしてあげたいねん。だから許してくれへんか」と本音で話したら、わかってくれました。僕らはジオラマ製作に長年携わってきたプロですから。多少壊されてもすぐ元に戻せるんです。

ホームに入ってきた電車をじっと観察するナラ

もうひとつ、奥の部屋(猫部屋)に小さいレイアウトがあり、こちらは国鉄時代末期の電化線のある都市の街並みです。お客さんが猫たちと触れ合えるのはこの部屋内です。猫たちの家(ケージ)が置いてあり、この小さいレイアウトでは、上に乗ったり走り回ったり、子猫たちの自由にさせています(入場は夜8時まで。人数制限あり)。

この子たちを保護したときから、SNSで猫たちのことをずっと発信してきました。鉄道のことを書いても反応はぼちぼちやったのに、店で過ごす猫たちの日々の様子を動画でアップすると、信じられないほど「いいね」の数が増えました。動画だと模型の縮尺がわからないからか、「この猫たちの体長は何メートルなんだ?」という問い合わせが海外の猫の専門家からあったときはびっくりしましたけど(笑)。

電車が動き出すと猫パンチ

猫たちの名前をつけてイラストを送ってきてくれた人、ケージを買ってもってきてくれた人、「おしっこなどの匂いがしたら困るやろ」と高価な空気清浄機をプレゼントしてくれた社長、餌がなくなったらいつもいっぱい買ってきてくれる人など、SNSを通じて多くの方々が、コロナでみなさん大変やと思うのに、助けてくれて、本当に感謝しています。猫好きの人に悪い人はいませんね。ほんまそう思います。自分は生かされている、とも感じます。店の予約はしばらくほとんどなかったのに、最近では週末1日20人以上の予約が入るまでに持ち直しています。

だから、今度はこっちが猫たちに恩返しせなあかんと思うてるんですよ。こういう厳しい状況はまだまだ続くと思うんですけど、この子たちが寿命をまっとうするまで、ここで快適に暮らしてくれたらと。猫たちの幸せのために何ができるかを考えながら、欲を出さず、一緒にこの店の灯をずっと守っていけたらと思っているところなんです。

店主で料理長の山本貴司さん(左)とスタッフの石井祐介さん(右)

【店名】「ジオラマ食堂」
【住所】大阪市天王寺区寺田町2-5-16 グランコンフォート天王寺ビル1F
【電話】06-6776-2460
【SNS】ツイッター @Caferest_bar_Fe

JR寺田町駅から徒歩2分。キハ82のラッピングが目印
鉄橋もやすやすとひとまたぎ

(まいどなニュース特約・西松 宏)