なぜホークスはリーグVできたか? 元コーチが指摘する記録に残らない好走塁

9月に急逝した川村隆史コンディショニング担当のユニホームを持つ中村晃(中央)【写真:藤浦一都】

ヘッドコーチ、2軍監督と歴任した森脇浩司氏「投打、主力と若手が噛み合っての優勝だ」

■ソフトバンク 5-1 ロッテ(27日・PayPayドーム)

ソフトバンクが27日、本拠地で2位ロッテを5-1で下し、17年以来3年ぶり19度目のリーグ優勝を飾った。ベテラン和田が6回無失点の好投で8勝目。7回以降は盤石のリリーフ陣がロッテの反撃を封じた。元オリックス監督で、97年から09年までダイエー、ソフトバンクでヘッドコーチや2軍監督などを務めた野球評論家の森脇浩司氏は「投打、そして主力と若手が噛み合っての優勝だ」と今季の戦いぶりを振り返った。

チーム防御率はリーグトップの2.96。先発では東浜が8勝1敗、千賀が9勝6敗、和田が8勝1敗。さらに石川が9勝6敗、ムーアが6勝3敗。さらにリリーフ陣も守護神森が28セーブ、防御率2.31。モイネロが防御率1.72、37ホールド。高橋礼が防御率2.57、23ホールド。コロナ禍で例年以上に投手陣に負担のかかる過密日程となる中、先発とリリーフ陣が噛み合い、安定感は抜群だった。

「今年のホークスは活躍すべき人が活躍した。計算できる主力に加え、若手が台頭してくることで、プラスαが出てくるが、開幕投手を務めた東浜が終盤にきて安定感を増したことで、チームにも安心感を与えた。千賀も1年間ローテを守った。和田の存在は本当に大きく、若手の手本となるだけではなく、千賀と東浜の心身の負担を軽減した。彼らがいて、石川、笠谷、板東も貴重な勝ち星を拾っていけた。今年はどのチームもリリーフ陣が苦労するシーズンだったが、森、モイネロが1年を通して健在だった」

一方、打線はリーグ2位のチーム打率.251。そして打率.348、28本塁打、82打点の柳田がチームを引っ張った。さらに、この日球団新記録となる10試合連続盗塁、月間20盗塁を記録した周東が46盗塁。捕手の栗原も野手として定位置をつかみ、勝負強い打撃でチームを支えた。選手会長の中村もいぶし銀の活躍を見せた。序盤はキューバから来日できなかったデスパイネ、グラシアルが不在の中、打線も層の厚さでカバーした。

主力の活躍、若手の成長はもちろん記録に残らないプレーも勝利に「その積み重ねが大きなものをもたたす」

「野手は計算できる柳田を中心に、中村晃、グラシアルの安定感、松田宣と甲斐は苦しみに耐えながら効果的な活躍を見せ、周東の成長は頼もしい限りだった。強烈なライバルがいる中で栗原も1年間躍動したのは大きかった。数字以上の貢献度があることはいうまでもなく、内外野をそつなくこなせる守備力に作戦(特に犠打)に加われる打者だったことも、工藤監督に我慢をして使わせた大きな要因ではなかったか。バックアップの明石、川島は大きな存在感を示し、若い選手を支えていたように思う。いずれにせよ、ここにきての周東、川瀬の成長は監督冥利に尽きるのではないだろうか」

序盤は不在のキューバ勢の代役として期待されたバレンティンの調子が上がらなかったが、その後は栗原や中村がカバー。森脇氏は「柳田が元気だっただけに、その前後を打つ打者が課題だったが、栗原が頑張り、7月から復帰した中村晃も素晴らしい仕事をした。みんなの力の結晶ではあるが、攻守において彼の復帰は大きかったし、中村晃抜きではこの優勝は語れない。私の友でもあった川村隆史コンディショニング担当のユニホームを持つ中村晃に熱いものを感じた」と、選手会長としてチームを引っ張った男を称えた。

そして森脇氏は、この日の中村の記録に残らない細かなプレーにも、ソフトバンクの強さを感じたという。それは初回の偽盗だった。中村は1死から左前打で出塁。柳田は三振に倒れたが、グラシアルが右前打を打った打席で偽盗をして相手バッテリーにプレッシャーをかけていた。

森脇氏は「地味な動きだけど、あの場面で中心選手がしっかりああいうことをやっているのが、ホークスの強みだと思う。当然、他の分野でもその習慣は出る」と指摘。7回にはグラシアルの代走で出た真砂が、2死一、三塁で迎えた明石の打席でハーマンの暴投の間に一塁から二塁に進んだが「アウトタイミングゴーのケースではあるが、あれも好スタート、好走塁だった」といい「常に全力プレーの松田宣を筆頭に、中心選手が試合の中で示していることが若手への教材になる。その積み重ねが大きなものをもたらす」と、主力のプレーがチームの底上げをもたらしていることを、優勝の要因に挙げた。

今季はコロナ禍でレギュラーシーズンの試合数が143から120へと縮小される中、111試合目で歓喜をつかんだソフトバンク。若手の台頭の陰には、こうした主力の手を抜かない真摯なプレーが隠されていた。(Full-Count編集部)

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