仏版“Go To トラベル”の結果、経済と感染状況はどうなったか。世論調査では意外な結果が

Go Toトラベルキャンペーンが盛況です。10月からは東京を発着する旅行も加わり、新型コロナウイルスの感染拡大により停滞していた観光業の押し上げが期待されています。

Go To トラベル、Go To Eatなど一連の「Go Toキャンペーン」については、当初は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべきとの意見の高まりから、当初の予定から後ろ倒しで実施されました。「感染防止」と「経済活性化」のどちらに重点を置くのか、今も日本を含め世界中で議論は続いています。

各国が試行錯誤する中、今夏、経済を回すことに舵を切った国の一つがフランスです。今夏、フランスの観光は、コロナ禍でどんな影響を受けたのでしょうか。


予想以上に伸びた国内需要

フランスは、海外からの観光客を世界でもっとも集める国です。しかしフランスは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年3月17日に国境を閉鎖せざるをえませんでした。その後、6月15日から欧州域内の国境閉鎖を解き、7月1日からは日本含む一部EU域外からの入国制限を解除しました。

例年であれば、7月半ばから8月半ばにかけて、多くの人が国内外に休暇へ出かけます。当時首相を務めていたエドゥアール・フリップは、夏に向けて国内移動を解禁しました。コロナ禍により休暇先に行けなくなった場合の新規予約のキャンセルについては、全額に払い戻し保証をしました。

9月16日に出されたフランス政府関連当局がまとめた報告書によると、今夏コロナ禍が与えた影響は深刻であるものの、今春に予想されていた状況よりは良い結果でした。他の近隣諸国と比べても、国内および一部EU域内からの需要がありました。全世界からの旅行者が不在となった状況を補うまでにはいきませんでしたが、イタリアやスペインよりは、コロナ禍の影響に対して抗うことができました。

人気を集めたのは沿岸部や田舎

では、今夏のフランスでは、どれくらいのフランス人が休暇に出かけたのでしょうか。同報告書によると、全体の53%が今夏バカンスに出かけ、そのうち94%がフランス国内で休暇を過ごしました。EU域内からの旅行者は、ベルギー、オランダ、ドイツから多く訪れました。

休暇先として人気が集まったのは、沿岸部や内陸の田舎。例えばフランス北西部、英仏海峡に面したノルマンディー地方は、コロナ禍による観光客の現象が比較的軽微だった地方です。

ノルマンディー地方は、第二次大戦時にイギリスやアメリカなど連合国軍が、対独上陸作戦を決行した場所。そのため毎年多くのイギリス人が訪れます。今夏は新型コロナの影響で、イギリス人観光客は大きく減りましたが、その穴をフランス人観光客が埋めました。仏ル・ポワン誌は、ノルマンディー地方のホテルやレストラン、キャンプ場は例年と同じように回転したと伝えています。

フランス南西部の大西洋岸も成功を収めた場所ですが、さらに南部地中海沿岸は今夏、昨年と比べて23%増という、とても良いパフォーマンスを示しました。訪問者の多くはパリやその近郊(イル・ド・フランス地域圏)からやって来た人々です。南東部、スイスに近い山間部オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地域圏も、ホテルの稼働率が前年よりわずかに上回りました。

首都パリは国内需要の恩恵は受けず

ただし、フランス各地が等しく同じ状況だったわけではありません。大都市やコルシカ島、フランスの海外領土は大変厳しい結果となりました。

コルシカ島は、飛行機や船に乗らなければ行けないという制約に加え、レンタカーの不足、移動制限が再び急に出された時のことなどを恐れ、来島者数は鈍化しました。あわせて、予約サイトがホテルに課す高額手数料に対するボイコット運動も、減少に拍車をかけました。結果、ル・ポワン誌によると、今夏のコルシカ島は例年と比べて6月は90%、7月は68%、8月は26%減少したそうです。

首都パリについては、ホテルの半数が休業を決め、部屋の稼働率も低く推移。南西部の中心都市ボルドーもパリと同じ傾向が強くなりました。一方、南仏の中心都市マルセイユは例外でした。

アメリカ、中国、ロシア、中東からの顧客に依存しがちな高級・高価格帯のホテルやサービスも同様に厳しく、国内需要でコロナ禍の不足を補うことはできませんでした。以前の記事(前回)(前々回)でもお伝えした通り、高級ホテル、レストラン、ハイブランドなども大きなダメージを受けています。

再び感染拡大へ

経済を回すことを決めた結果、予想よりは観光業に良い結果を与えたこともありましたが、業界全体で見るとコロナ禍のダメージは甚大でした。

フランス銀行によると、2020年上半期(1〜6月)の国際観光収入は123億ユーロ(約1.5兆円)。前年2019年の上半期は255億ユーロ(約3.1兆円)と比べて、51.9%の減でした。またフランス観光開発機構は、年間の観光消費が30〜35%減少するだろうと見積もっています。

経済へのテコ入れは、感染拡大を防ぐという観点でもマイナスになりました。外出や移動の制限により、一時期はある程度抑えていた新型コロナの感染拡大が、再び増加傾向に転じました。地域によっては、医療のキャパシティを再び逼迫するようになってきました。

9割が夜間外出禁止令を支持

そして10月14日、ついにマクロン大統領は、フランスのテレビ局TF1およびTF2の生放送のインタビューで、パリ、リヨン、マルセイユなど、新型コロナの警戒最大化ゾーンとなっている国内9都市圏(16県)に、17日から夜間外出禁止令を出すことを発表しました。さらに翌週にはカステックス首相が発表を行い、夜間外出禁止の適用範囲を38県に拡大し、フランス本土54県と1海外県が対象となりました。10月後半は、フランスにおいては万聖節のバカンスの時期でもあります。

この政策をフランス人はどう感じたのでしょうか。調査会社Elbaがマクロン大統領のインタビュー翌日に行った世論調査では、56%が「マクロン大統領の言葉に説得力がない」と答え、「説得力がある」と答えた44%を上回りました。

一方で、夜間外出禁止については62%のフランス人が「賛成」で「反対」は38%。ただし「マクロン大統領が発表した政策は感染拡大に効果的か」という問いには、40%が「効果的」、59%が「効果的ではない」との回答を出しています。「個人的に夜間外出禁止を尊重するか」という問いには90%が「はい」と答えました。

インタビューの中で、マクロン大統領は「少なくとも2021年夏までウイルスへ対処しなければいけないだろう」とも述べました。感染拡大と経済の状況に合わせて、移動や外出制限という弁の開け閉めをどのようにしていくのか。経験したことのない難しい対応が迫られています。

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