TCR EU第5戦:卒業生の2018年王者ミケル・アズコナが、世界レベルの実力を示す連勝劇

 トタル・スパ24時間との併催イベントとなったTCRヨーロッパ・シリーズ第5戦ベルギー・ラウンドは、2018年シリーズ王者で現在はWTCR世界ツーリングカー・カップのレギュラーでもあるミケル・アズコナ(セアト・クプラTCR/ボルケーノ・モータースポーツ)が、前後ミックスタイヤ戦略の難コンディションを制して週末2連勝を達成。ワールドレベルのドライバーとして実力を誇示する結果となった。

 2020年は全6戦を予定するTCRヨーロッパは、いよいよタイトル争いも大詰めに。この10月23~24日開催のスパを経て、11月のスペイン・ハラマで最終決戦を迎える。その重要な1戦にゲストドライバーとして招かれたアズコナは、世界戦の愛機とは異なる旧型のクプラをドライブし、すでに雨粒が混じり始めた予選で13番グリッド獲得に留まった。

 一方、この難しい条件でポールポジションを射止めたのが、同じく世界戦経験者で今季シリーズフル参戦を続けるモロッコの英雄メディ・ベナーニ(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・レーシング)で、レース1スタートでもジョン・フィリピ(ヒュンダイi30 N TCR/ターゲット・コンペティション)、トム・コロネル(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ブーツェン・ジニオン・レーシング)らを従え、先頭でオールージュを駆け上がっていく。

 すると、オープニングラップ終盤のバスストップシケインで、第2戦勝者ニコラス・ベアト(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・レーシング)とシリーズ初の女性勝者ジェシカ・バックマン(ヒュンダイi30 N TCR/ターゲット・コンペティション)が絡み、いきなりのセーフティカー出動が宣告される。

 この宣言直前にフィリピをかわしていたコロネルが首位ベナーニも仕留め、先導走行前にトップランを奪取。さらにその後方ではコロネルのお株を奪うべく、フロントにスリック、リヤにレインタイヤを履いたアズコナが、ダン・ロイド(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ブルタル・フィッシュ・レーシングチーム)をもパスして6番手にまで躍進してくる。

 3周目にリスタートが切られるとアウディのベナーニがみるみるポジションを失い、5周目には選手権首位マイク・ハルダー(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/プロフィ・カー・チーム・ハルダー)やヒュンダイのフィリピを仕留めたアズコナが2番手に浮上した。

R1ではモロッコの英雄メディ・ベナーニ(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)だが、そのリードは長く続かず
R1の最終周まで首位を守ったトム・コロネル(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/Boutsen Ginion Racing)だが「スリックを履いた彼の勝ちだ」と若手の決断を称賛
3位のマイク・ハルダー(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/Profi Car Team Halder)が選手権首位を守って最終戦へ

■「1周目はフロントのスリックタイヤに熱を入れることに集中した」とアズコナ

 コース上最速を誇るスペイン出身ドライバーは、この時点で3秒あった首位コロネルとのマージンをみるみる削り取ると、ファイナルラップ目前のバスストップでシビックを抜き去り、そのまま9周のトップチェッカー。シリーズレギュラー勢に格の違いを見せつける勝利を手にした。

「13番手からの勝負だったけど、レース用のタイヤ選択で絶対的に正しい判断を下すことができた。路面条件は実にトリッキーでトラック上にはまだ多くの水が残り、1周目はフロントのスリックにとにかく熱を入れることに集中した」と、戦況を振り返った勝者アズコナ。

「そこからのペースは本当に素晴らしくて、トムとの最後の勝負も本当にクリーンなものだった。僕らはドアとドアを擦り付けるほど接近していたけど、1度もコンタクトすることはなく。彼も無理にドアを閉めることはなかったので、トムに感謝しなければならないね。明日のレースも天気次第だが、乾いたとしてもチャンスはあると思っている」と語ったアズコナ。

 その予想とは異なり、ウォームアップ時点でふたたび小雨の落ち始めたスパ・フランコルシャンで前日同様のタイヤチョイスを行ったアズコナは、レース2開始早々のセーフティカー介入後にハルダーと同郷ペペ・オリオラ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ブルタル・フィッシュ・レーシングチーム)を次々とオーバーテイクし、10ラップを走破して2戦連続の勝利を獲得。

 2位にはファイナルラップの攻防で幾度もの接触を伴う肉弾戦の末にコロネルが逆転で続き、3位フィリピの表彰台に。4位テディ・クレーレ(プジョー308 TCR/チーム・クレーレ・スポーツ)、5位ニコラス・ベアトと、勝者クプラからホンダ、ヒュンダイ、プジョー、アウディと異なるブランドがトップ5を占める結果となった。

 このリザルトによりハルダーが17点差でランキング首位を守り、2位ベナーニの背後にはフィリピとベアトが浮上。続く第6戦11月6~7日のスペイン・ハラマが、2020年TCRヨーロッパ・シリーズのタイトル決戦の地となる。

R2スタートでポールシッターのマット・オモラ(ヒュンダイi30 N TCR/BRC Racing Team)を仕留めたペペ・オリオラ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/Brutal Fish Racing Team)が首位でラ・ソースへ
モロッコの若手有望株サミ・タウフィク(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)はコースオフも響きオモラの背後13位でフィニッシュ
土日ともに前後ミックスタイヤ戦略でレースを制したミケル・アズコナ。この活躍で、最終戦ハラマへの参加も有力視される

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