競技場の盗撮、対策はいたちごっこ 被害女子アスリートが独占告白(番外編)

 女子アスリートの胸やお尻を強調して撮影したり、その画像や動画を販売したりする行為は長年横行してきた。競技団体も傍観してきたわけではなく、陸上では2000年代初頭から対策を開始。日本学生陸上競技連合理事・女子委員会委員長として当時、盗撮防止に取り組んできた梶原洋子・文教大名誉教授は、対策の難しさを打ち明ける。(共同通信=品川絵里)

2009年の陸上世界選手権女子3000メートル障害予選で、水濠を越える選手たち=ベルリン

―当時はどのような対策を。

 競技場で目につくように「盗撮は犯罪です」と書いた看板やポスターを設置しました。競技別に撮影禁止区域を設定し、巡回も徹底していましたね。走高跳びや棒高跳びなどの跳躍競技では正面や下方、短距離走ではスタートの後方からお尻を狙うなど、盗撮側から「良いショット」が撮れそうな位置を勘案しました。学生役員らを対象に盗撮防止の講習会も実施。「こういうところで、いろいろなのが出ています」と防止策を伝えるため、実際に盗撮ビデオを購入したこともあります。

―盗撮ビデオの内容は。

 競技中や終了直後の胸やお尻、股間をアップにしたものなど、赤外線で撮影された動画が多々ありました。

―そうした画像や動画は現在、より簡単に購入・閲覧ができるようです。

 どの種目の選手がターゲットになっているかは、ユニホームを見たら分かりますよね。本人が見つけたら、悲しんでショックだと思います。陸連や学連など所属関係の指導者や選手は自己防衛のためにも、現状を踏まえて対応を考えなければなりません。

梶原洋子・文教大名誉教授

 ▽未成年も被害に

 未成年のアスリートも盗撮被害に遭っている。ある地方で開催されるテニスのジュニア大会では毎年、不審な撮影行為をしている複数の観客が見つかるという。明らかにおかしい角度やタイミングでの撮影は注意することもあるが、写真確認でダミーの写真を見せられる可能性もある。「(確認して)撮っていなかった時はどうすればいいのか。対策のしようがない」と大会関係者。巡回強化の運営側負担も大きく「そうした(不適切な撮影をする)人たちのために大会を運営しているわけではない」と憤る。

 昨年地方で行われた陸上の全国大会では、子どもが撮影されている現場を目撃した保護者と、撮影していた複数の男性がスタンドでもめる事態があった。通報を受けて駆け付けた警察官が約10人の男性を署へ連行させる騒動に。ただ、現行の刑法や条例で罰することはできず、一部は次の日も会場に来ていたという。大会関係者は「法整備がない。有料試合での業務妨害など、民事で提訴するぐらいしか現実的な対策がない」と、泣き寝入りせざるを得ない現状を打ち明けた。

―被害が世間に認識されてこなかった理由は何でしょうか。

 選手本人もまさか撮られているとは思わない。普通のカメラだと思うでしょう。でもカメラは進化しており、選手はもとより一般の方々もいろいろな状況で盗撮されているようです。

―ジュニアや地方の大会は運営側も少ない人数で、対策には限界があります。

 悪質な行為をする人は(どの競技でも)いる。選手がベストの力を発揮するため、役員や学生を含めてスポーツ界全体の対策が必要です。

―これまでメディアなども正面から向き合ってこなかったと思います。

 この問題を今回取り上げてくれてよかった。特殊なカメラや小さいカメラで撮影するため、現場を押さえられない事情もあったはずです。

 ▽撮影の全面禁止も

 悪質な撮影行為や、画像・動画の不適切利用を重く受け止めて、撮影の禁止に踏み切った競技団体もある。フィギュアスケートは2005~06年のシーズン以降、撮影を全面禁止にした。スケーターの写真がネットオークションで販売される行為が多発した事情がある。 観客による撮影を許可していた体操は、選手が望まない画像や動画が一部の雑誌やネットで掲載・配信された事態を受け、00年から申請制に移行。04年からは観客による撮影の原則禁止を定めた。

フィギュアスケートのジャパン・オープン=3日、さいたまスーパーアリーナ(代表撮影)

  競技団体にとって、一律の撮影禁止は苦渋の決断だ。選手は映像を繰り返し見ることで、競技力向上につながる側面もある。保護者からは「子どもの成長記録を撮影できないのはおかしい」と苦情も寄せられた。一部の悪意ある人たちのせいで、健全な目的の撮影も排除せざるを得ない現実がある。バレーボールのVリーグは、撮影を規制せず「盗撮などの迷惑行為」を禁止して見回りに尽力するが、全ての被害は防げない。「会場内の様子やプレーを撮影し、SNSで良い意味で拡散してくれるのはありがたい。一方で、どういったものを撮っているかの取り締まりは難しい」とジレンマを抱える。

―対策を始めて約15年が経過し、日本オリンピック委員会(JOC)なども動きだしました。

 やっと認識したというか、五輪を契機に取り上げてきたなと。ちょっと遅いとは思いますが、選手にとってはありがたい。せっかく社会で認識され始めたので、法整備の検討も含めてトップ選手に限らず、中学生や高校生向けにも良い環境をつくっていかなきゃいけない。メディアで取り上げてもらえれば抑止力もあると思います。

「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」=東京都新宿区19年5月撮影

―競技団体の役員に女性が少ないことも、対策が遅れた一因でしょうか。

 意思決定の場に女性が少ない事情も、要因としてはあるでしょう。女性の立場での意見が反映されず「大きな問題」「大変なこと」という認識が欠如していたのかもしれません。

 これまでも、一部の競技団体は被害防止に取り組んできたが、撮影機材の高性能化やインターネット技術の進化で取り締まりは年々難しくなり「いたちごっこ」は続く。法務省の性犯罪に関する刑事法を見直す検討会では今、「盗撮罪」の創設が議論の一つとなっている。外国には「スポーツ大会で選手の下半身を狙って撮影する行為」など性的目的での無断撮影、拡散行為を犯罪と定義する国もある。デジタル化が進んだ社会の現状に見合った法制度の整備が求められる。

「盗撮」に狙われた陸上選手の苦悩  被害女子アスリートが独占告白(上)

https://this.kiji.is/693426794959733857?c=39546741839462401

「性的画像」対策、世間の理解を  被害女子アスリートが独占告白(下)

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