今年のハロウィーン、バーチャルで楽しんで 新型コロナで様変わり、渋谷などでは不安も

インターネット上での開催となった「カワサキハロウィン」©カワサキ ハロウィン 2020

 毎年10月31日に行われるハロウィーンが今週末に迫っている。例年はアニメのキャラクターなどに仮装して繰り出す若者たちで街がにぎわうが、今年は大きく様変わりしそう。新型コロナウイルスに感染しないため、いわゆる「密」になる環境を避けようと多くの人が考えているためだ。

 これを受けて、各地で開かれる関連イベントもオンラインが主流になっている。毎年のように若者が押し寄せることで知られる東京・渋谷区は、インターネットの仮想空間でのイベント「バーチャル渋谷」を、28日午後8時から31日まで地元企業と協力して開催。ここで楽しんでもらうよう呼び掛けている。しかし、訪れた人が捨てるゴミやけんかなどに悩まされてきた地元商店街を中心に「どれだけ効果があるのか」と疑問視する声も上がっている。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽人出予測できず

 「今年のハロウィーンは渋谷に来ないで」。22日午後に会見を開いた渋谷区の長谷部健区長が呼び掛けた。クラスター(感染者集団)発生を避けるため、例年は渋谷を訪れる人に向けて用意する仮設トイレや着替えスペースの設置も、今年は見送る。

ハロウィーン期間中の来訪自粛を求める東京都渋谷区の長谷部健区長=22日、渋谷区役所

 同区は、この時期に周辺の路上や公園で飲酒を禁止する条例を制定している。今年は42店舗に対し、31日午後6時から翌日午前5時まで酒類の販売自粛を依頼した。ハロウィーン当日の31日に滞留が起きた場合は、人混み解消に向け、警察と協力しながら誘導を促す方針という。警視庁渋谷署は「今年の人出は読みづらい」とした上で「当日の状況に応じて対応できる人員は確保したい」と話す。

 ▽ アバターで仮装

 代わりに主流となっているのがオンライン開催。渋谷区は公認する「バーチャル渋谷」内で仮装などを楽しめるイベント「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」を行う。「バーチャル渋谷」は現実にある渋谷の街並みをインターネット上に再現。街歩きなどを疑似的に体験できる。参加者は仮装したアバター(分身となるキャラクター)に扮(ふん)して自由に散策する。パソコンやスマートフォンからアクセスできる。若者たちに人気の「BiSH」や「Nulbarich」「Rin音」といったアーティストによる無料ライブも、連日実施する予定だ。

 昨年約12万人が訪れた川崎市の「カワサキハロウィン」も開催場所をインターネットへ移行した。公式サイトでは、世界中から仮装動画を募集し、グランプリには50万円を贈る。このほか、名古屋市や神戸市、北九州市など全国12のハロウィーンイベントと連携。普段は交流できない人と一緒に盛り上がることができる。

昨年のハロウィーンの様子=2019年10月、東京・渋谷

 ▽ぬぐえぬ不安

 渋谷区の長谷部区長が強い口調で訴えたのは、クラスター発生を避けるためだけではない。渋谷のハロウィーンは主催者がおらず、自然発生的に人が集まる。そのため人出を止める有効な手だてがないのが実情だ。

 駅前から西へ伸びる渋谷センター街。渋谷駅周辺のメインストリートに並ぶ商店で作る「渋谷センター商店街振興組合」は、店を壊されるなどの被害に悩まされてきた。同組合の小野寿幸理事長は「やってくる人は少ないと予想している。それでも、31日が近づくにつれて不安が大きくなっていく」と漏らした。

 渋谷で店を構える人たちにとって、ハロウィーンは嫌な思い出しかない。店を早く閉めざるを得なくなるため、売り上げも期待できない。「経営的には完全にマイナス。経済効果なんて全くない」と小野理事長。それだけに、今年が渋谷のハロウィーンのあり方を見直すきっかけになるのではと期待を抱いている。「今のように騒ぐだけではなく、子どもも大人も楽しめるように変わってくれれば」と願う。

 ▽初の陳情

 大阪を代表する繁華街・ミナミにも大勢の若者が集結する。渋谷と同じで主催者がいない。大阪府の吉村洋文知事は27日の記者会見で、密集状態の回避やマスク着用などを徹底し、節度を守って楽しむよう要請した。大阪市の松井一郎市長も、同様の呼び掛けをする予定だ。

昨年のハロウィーンで大阪・ミナミの道頓堀川に飛び込む若者=2019年10月31日夜

 それでも地元で営業する商店主は、混乱が起きないか心配している。道頓堀商店会の北辻稔事務局長は「新型コロナの影響で売り上げが大きく落ち込み、みんな苦しんでいる。ハロウィーンで人が集まった結果、感染者が出たらイメージが悪くなって客足がさらに遠のいてしまうので、正直言って来てほしくない」と力を込める。

 同商店会では大阪市などに今年初めて、ミナミに来ないよう強く呼び掛けることを求める陳情を行った。強い危機感に駆られ、何か動かなくてはと考えたからだ。「主催者がいないので、行政頼みにならざるを得ない」と北辻理事長。「市長や知事には厳しく言ってほしい」と語った。

 果たして人出は抑えられるのか。31日のハロウィーン当日まで、関係者の心配は続きそうだ。

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