悩み、批判され、涙した…初の“優勝捕手”になった鷹・甲斐の胸中「なにくそ、と」

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

2017年に正捕手となったが、優勝や日本一の瞬間をグラウンド上で迎えたのは初

27日に3年ぶりのリーグ優勝を決めたソフトバンク。2位ロッテとの直接対決に5-1で勝利し、歓喜の瞬間を迎えた。コロナ禍で胴上げもない、ビールかけもない異例づくめの歓喜の輪の中心にいたのが、甲斐拓也だった。

2017年から正捕手の座を掴み、ソフトバンクの扇の要となった甲斐。2017年はリーグ優勝と日本一、2018年と2019年はリーグ優勝は逃したものの、日本一になった。だが“優勝捕手”は全てベテランの高谷裕亮捕手。優勝の瞬間をグラウンド上で迎えたのは、これが初めてだった。

優勝を決めたこの試合、1点リードの6回に左翼スタンドへと突き刺す10号2ランを放ち、リードを広げた。2年連続の2桁本塁打に乗せると、8回にも左翼線へと適時二塁打を放ち、この日2安打3打点。守っても、6回無失点だった先発の和田毅投手ら投手陣をリードして優勝の瞬間を迎えた。

甲斐にとって初めての瞬間。「最後に、しっかり光景を目に焼き付けて、今までにない雰囲気と、ベンチと、球場の360度のお客さんを見渡して、今見ている景色を大切にしようと思って、その瞬間いました」。試合後にはこう、しみじみとその時を振り返った。

3年ぶりのリーグ優勝を果たした2020年シーズン。甲斐はシーズンを「苦しかったです」と言う。苦労と苦悩の連続だった。

ソフトバンクの優勝が決まり森唯斗を担ぎ上げる甲斐拓也(左)【写真:藤浦一都】

チーム防御率は驚異の2点台をマークも「負ければ言われる」

開幕直後、6月30日から札幌ドームで行われた日本ハムとの6連戦。3戦目でサヨナラ負けを喫すると、そこから3試合連続でスタメンから外された。ホテルの自室で悔し涙を流した。「本当に自分って弱いなと思いました」。必死に苦悩と向き合った。

結果的には投手陣はチーム防御率は2点台を叩き出した。四球が多かったことは確かだが、それでもこの数字は驚異的なものだ。それでも、甲斐を批判する声は嫌でも耳に入ってきた。中には球団が注意喚起するほど過剰なものもあった。

甲斐自身「僕って嫌われてるんですね……」と思い悩んだりもした。そんな時の支えは励ましてくれる仲間であり、先輩であり、声をかけてくれるOBたち、そして「勝利」だった。12連勝という驚異のラストスパートを見せた10月の月間防御率1点台。批判の矛先だったリード面でも成長を感じさせた。

「ピッチャーが頑張ってくれてそういう結果になっていますし、投手の力がないとこの結果はないと思っています。どうしても、防御率1位でも負ければ言われますし、そこはしっかりと自分の中で受け止めてじゃないですけど、正直『なにくそ』という気持ちでやってきました」。批判を受け止め、優勝という形で結果で示した。

「優勝することが1番ですし、そのためにチームみんな頑張ってきてますし、たくさん色んな思いもしてきましたけど、最後こうやって勝って良かったな、と思います」。喜びとともにこみ上げてきたのは安堵の気持ち。1年間の苦労と苦悩が、3年ぶりのリーグ優勝で少しだけ報われた。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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