【韓国】【韓流新時代】パラサイト英字幕翻訳者「ポン監督に感服」[媒体]

©株式会社NNA

「米国では字幕付き映画はヒットしない」という常識を覆し、「パラサイト 半地下の家族」は第92回米アカデミー賞で4冠を獲得した。その陰には、ポン・ジュノ監督自らの字幕翻訳へのこだわりと優れた英文翻訳者の努力やアイデアがあったようだ。教育者やジャーナリストとして海外に韓国映画を広く紹介するだけでなく、「パラサイト」では英語字幕翻訳を担当したダルシー・パケット氏に、ポン監督や韓国映画の魅力と強みについて聞いた。

「インディーズ映画が韓国の映画産業を支える」と話すパケット氏(NNA撮影)

——「パラサイト」が外国語映画として初めてアカデミー作品賞を受賞した。

米国では「字幕付き映画はヒットしない」と言われている。そのような環境の中での受賞はとても光栄なことだ。しかし当初は、これほどの成功は予想できなかった。

——米国では韓国映画のファンの規模はどれくらいか。

「パラサイト」公開前のポン監督や韓国映画は、一部の熱狂的なファンに支持されているといった程度の印象だった。ところが2019年10月に米国で公開されてから作品の良さが口コミで伝わり、アカデミー賞授賞式前の2月ごろにその勢いがピークに達した。米国での配給を担当したネオンという会社も新興企業ながら、会員制交流サイト(SNS)を積極的に活用するなど話題作りの面で大きな役割を果たした。

——「パラサイト」は米国人にどこまで理解されたか。

パラサイトのテーマである「格差」は、韓国のみならず米国でも深刻な社会問題なっており、誰もが共感できたのではないか。映画はエンターテインメント性にも富んでいる。細部もよく作りこまれており、鑑賞後も、題材について周囲の人と感想を共有したくなるような内容だ。

■ポン監督は字幕翻訳にもこだわり

——字幕翻訳作業にはポン監督も関わったか。

翻訳作業に取りかかる前に、ポン監督からA4サイズで4ページの長さのファイルを添付したメールが届いた。ファイルは、ポン監督が翻訳は難しいと感じた言葉に関する説明だった。

例えば、主人公一家が書類を偽造して延世大学出身と学歴を偽るシーン。外国人には、延世大学が韓国でどれくらい権威ある大学なのかイメージしにくい。字幕では、延世大学をオックスフォード大学に変更したが、それはポン監督のアイデアだ。

——韓国で人気の「チャパゲティ」と「ノグリ」の二つの即席麺を混ぜた「チャパグリ」という料理を「Ram—don」と訳したことが話題になった。

「チャパゲティ」と「ノグリ」は海外ではあまりなじみがない。そこで、ラーメンとうどんという二つの麺を一緒にするアイデアがひらめいた。字幕翻訳は、時には創造性も必要だ。ただ、一部の韓国人にとっては、日本食ということで不評だったと聞いている。

チャパゲティとノグリ(NNA撮影)

——一緒に仕事をしてみたポン監督の印象は。

すぐれたユーモアの持ち主だ。映画作りでは、いつも観客からの視点を意識し、とことん細部にこだわる。字幕に対しても同じだ。これまで約150本の韓国映画の翻訳・監修を手掛けてきたが、ポン監督ほど字幕の重要性を理解している監督はいない。

——パラサイトの成功で、韓国映画を取り巻く環境はどう変化したか。

韓国の映画関係者に「海外市場でも成功できるんだ」という自信をもたらしたことは間違いない。もともと韓国映画は、登場人物の感情が観客にダイレクトに伝わるのが特徴だ。それが韓国映画の強烈なインパクトにつながっている。今後は最初から海外市場を意識した映画作りが増えるだろう。韓国の監督の米ハリウッド進出も増えるかもしれない。

——韓国の映画産業の強みはなにか。

CJ CGVやロッテシネマ、メガボックスといった大手を中心にしっかりとした製作・配給システムを構築していることだ。政府も映画のコンテンツとしての重要性を認識しており、映画祭の開催や人材育成、マーケティングなどでの支援を惜しまない。

■「第2のポン・ジュノ」は未知数

——第2、第3のポン監督が誕生する可能性は。

残念ながら高くはないだろう。ポン監督がデビューした1990年代後半は韓国映画が低迷していた時期でもあり、特に若手監督に対しては「好きなように思い切って映画を撮らせてみよう」という雰囲気があった。ただ今は、映画製作の環境が整いすぎたせいか、若手が以前のように創造力を発揮できなくなっている。

——今後は韓国映画にどう貢献していく考えか。

6年前にインディーズ映画を対象とした「野の花映画賞」を設立した。韓国では商業映画への関心は高いのに、インディーズ映画はほとんど注目されない。韓国の映画関係者の創造力の多くは、インディーズ映画と低予算映画で発揮されている。「野の花映画賞」を通じて、新たな才能を発掘していきたい。(聞き手=坂部哲生)

<メモ>

ダルシー・パケット:

米国生まれ。97年から高麗大学で英語を教える傍ら、99年に韓国映画を紹介するウェブサイト<Koreanfilm.org>を開設。その後、米ハリウッドの映画雑誌「スクリーン・インターナショナル」の韓国特派員として、ジャーナリストや映画評論家としても活動を始めた。教育者として、高麗大学などの大学で韓国映画に関する講義も担当している。イム・サンス監督の「蜜の味 ~テイスト・オブ・マネー~」などに出演するなど、俳優としても活動中だ。