【F1第12戦無線レビュー(2)】ガスリーの走りにチームも称賛「本当に素晴らしかった。今夜は飲もうぜ」

 F1第12戦ポルトガルGPはメルセデスがワンツーを達成。そして2020年シーズン好調な走りを見せているピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)は5位入賞。フェラーリ勢はシャルル・ルクレールが4位に入ったもののセバスチャン・ベッテルは苦戦から抜け出せなかった。ポルトガルGPの決勝レースを無線とともに振り返る

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 ピットストップを終えた上位4台はルイス・ハミルトン(メルセデス)、バルテリ・ボッタス(メルセデス)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)。4台とも、その後も同じポジションでレースが進めていったのに対して、5番手以下は激しいポジション争いが繰り広げられていた。45周目にダニエル・リカルド(ルノー)を1コーナーでオーバーテイクしたピエール・ガスリー(アルファタウリ)が思わず、叫ぶ。

ガスリー:イエス、ボーイズ!!
アルファタウリ:いい仕事を……(と言い始めたところでガスリーが割り込んでくる)
ガスリー:レッツ・ゴー

 その後、ガスリーの目の前にはセルジオ・ペレス(レーシングポイント)が近づいてくる。

アルファタウリ:行け、彼はいま苦しんでいる

 63周目のホームストレートでペレスのスリップストリームに入ったガスリーは直後の1コーナーに向かって追い抜きを試みたが、ペレスがブロックする形で進路を変えて防御する。すると、ガスリーが叫ぶ。

ガスリー:こいつ……!
アルファタウリ:わかってる、わかってる。サインツが直後に迫っているから、気をつけろ
ガスリー:もう少しでやられるところだった

 そして、翌周64周目にペレスのオーバーテイクに成功する。

ガスリー:今度はアウトから行ったぜ

 随所に激しいバトルが見られた24年ぶりのポルトガルGP。そのレースを結果的にポール・トゥ・ウィンで制したのはハミルトンだったが、ハミルトンもまたレース中に右ふくらはぎがつるというアクシデントに襲われ、ひどくならないようにストレートで頻繁にアクセルを緩めながらの優勝だった。通算92勝目を挙げたハミルトンは、ミハエル・シューマッハが持つ最多優勝回数記録を抜いて単独でトップに立った。

メルセデス:やったな、ルイス。なんていう走りだ。君はいま歴史に新たな1ページを記したよ。よくやった。なんていう素晴らしいレースだ。本当にすごかったよ

 するとトト・ウォルフ代表が無線に入ってきて、こう語りかける。

トト:ルイス、92だ、92だよ
ハミルトン:みんなのおかげだよ、こちらこそ、本当にありがとう。僕を信頼し、努力し続けたチームを僕は誇りに思っている
メルセデス:僕らも君と仕事ができて光栄だ。本当にありがとう

 第5戦70周年記念GP以来の4位を獲得したシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、自身の結果に満足しつつも、チェッカーフラッグ後、なぜかチームメイトのセバスチャン・ベッテルの結果を気にしていた。

2020年F1第12戦ポルトガルGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)

フェラーリ:P4、P4
ルクレール:みんなおめでとう。P4か、それは良かった。セブはP10って見えたけど、違った??
フェラーリ:そうだ、セバスチャンはP10だ
ルクレール:それはナイスだね
フェラーリ:全体の順位はハミルトン、ボッタス、フェルスタッペン、そして君が4位で、以下、ガスリー、サインツ、ペレス、オコン、そしてリカルドだ。

 レース後、通常レースエンジニアはトップ10のドライバーをトップから順に知らせる。すでにベッテルは10位ということを伝えているから、ルクレールのレースエンジニアはトップ10のドライバーのうち9位までしか伝えなかった。そこにベッテルの名前がなかったから、ルクレールはもう一度、聞き返す。

ルクレール:ごめん、もう1度言って
フェラーリ:ハミルトン、ボッタス、フェルスタッペン、そして4位の君、5位はガスリーで、6位サインツ、7位ペレス、そのあとはオコン、リカルド、セバスチャンだ。

■お互いを称えあうガスリーとアルファタウリの信頼関係

 
 レースエンジニアがトップ10ドライバーの名前を伝えるが慣例であり、通常はチームメイトの順位を尋ねることはない。つまり、ルクレールのベッテルのレース順位を尋ねる無線というのは異例だ。しかも、これが初めてではない。第8戦イタリアGPでもルクレールはベッテルの順位を気にしていた。

ルクレール:トップ10を教えて。
フェラーリ:フェルスタッペン、ハミルトン、ボッタス、そして君だ。P4だ。それからアルボン、ストロール、ヒュルケンベルグ、オコン、ノリス、そしてクビアトだ。
ルクレール:OK。で、セブは?
フェラーリ:セバスチャンはP12だ。

 ちなみにレース後のベッテルの無線はこうだった。

ベッテル:とにかく、1周目から全然グリップがなくて、大変なレースだった。でも、全力は尽くしたよ

 ルクレールに次ぐ5位でフィニッシュしたガスリーはちょっとした優勝した気分。

2020年F1第12戦ポルトガルGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

アルファタウリ:ファンタスティックだったよ。ピエール、本当に素晴らしかった。今日の君の走りは称賛するに値する
ガスリー:それはみんなも同じだよ。最高の仕事をしてくれた。よくやってくれた。おかげでレースは最高に楽しめた。
アルファタウリ:そうだ……
ガスリー:マシンが準備できたから、僕はレースを戦うことができた。また次もがんばろうぜ
アルファタウリ:1ラップダウンだったけど、今夜は飲もうぜ、おごるから
ガスリー:いいね、じゃ、おごってもらうよ。いずれにしても、素晴らしい仕事をしてくれた、グラッツェ・ア・トゥッティ(イタリア語で「みんなありがとう」)。これからも一緒に戦おう。一緒に
アルファタウリ:もちろん

 なお、ランス・ストロール(レーシングポイント)と接触したランド・ノリス(マクラーレン)は、チェッカーフラッグ後、無線でそのときに吐いた暴言を謝罪していた。

ノリス:僕がレース中にランスに言ったコメントについて謝りたい。あのような言葉を言うべきではなかった。あの時、僕はとてもイライラしていたんだ。でも、みんなはよくやってくれた、ありがとう
マクラーレン:わかっている。その件は問題ない

2020年F1第12戦ポルトガルGP ランド・ノリス(マクラーレン)

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