「わからないことは恥ずかしくない」「やってもらわず自分でやってみる」……プログラミング経験のない子たちとの3つの約束

今年から始まった小学校でのプログラミング教育の授業。とくに経験者と未経験者では大きく差が開くプログラミングの授業では、どのように進めていけばいいのでしょうか。今回はプログラミング経験のない子どもたちにどう指導すればいいのか、プログラミング授業を多く経験している筆者が、その極意をお教えします。

進度がバラバラなクラスでどうやって授業していくか

前回は、プログラミングをすでに経験したことがある子どもたちと授業をするときに決める約束について紹介しました。今回はその続編として、逆に初めて経験する子どもたちやあまり得意としていない子どもたちとの約束について紹介したいと思います。

プログラミング ・ワークショップをやっていると、私たちはできる子どもたちの作品に注目してしまいがちですが、参加しているすべての子がそうというわけではありません。すべての子どもたちが楽しんでプログラミングをやってくれるような授業やワークショップに必要な、残りの約束を紹介します。

はじめて経験する子どもたちには、3つだけ約束をします。

  • わからなかったら友だちに聞こう
  • わからないことは恥ずかしいことではない。わからないことをそのままにしておくことの方が恥ずかしい。
  • できる人にやってもらうのではなく、自分でやってみよう

それぞれについて詳しく説明します。

1. わからなかったら友だちに聞こう

まず、「わからなかったら友だちに聞こう」というルールは、経験者と約束している「わかっていてもすぐに答えを言わない」というルールに関係してきます。教師1人が数十人いる子どもすべての質問に同時に対応することは不可能です。積極的に子どもたち同士が学び合う環境を作っていくことが、授業を成功させる秘訣と言えます。

そのとき、できる子に対して「友だちがわからなかった教えてあげて」と伝えても、教えたくて仕方がない子が出てきてしまいかねません。それを避けるために、教えて欲しかったらまずは自分から質問するように促します。

2.わからないことは恥ずかしいことではない

ここで重要なのは、誰もが質問しやすい環境づくりです。成績が絶対的な評価軸として存在している学校のような場所では、「できない = 恥ずかしい」という風潮があるように思います。実際になかなか質問できず止まってしまった子どもに話を聞いてみると、高確率で「できないことを知られたくなかった」「できないことを隠したいと思った」といった答えが返ってきます。

これはプログラミングに限らず、学びの場においてわからないことを放っておくことは非常にもったいないことです。蒔田晋治さんの有名な詩『教室は間違うところだ』でも言われている通り、間違えは学びのために必要なプロセスだということを、教師はもちろん子どもたちもわかっておくといいのではないでしょうか。

(経験者との約束事の中に「わかっていてもすぐに答えを言わない」というルールがありますが、実はここと関係しています。答えがわかっているから優秀だというわけではありません。)

3. できる人にやってもらうのではなく、自分でやってみよう

このルールは、答えだけ聞いて適当に済ませるのではなく、自分自身が作る経験を通してしか得られないことがたくさんあるからこそ決めています。この連載では何度も繰り返し述べていますが、プログラミングの本質はものづくりでありクリエイティビティです。

私はクリエイティビティの根幹にあるのは「経験による楽しさ」だと思っています。楽しさを感じなければクリエイティビティは発揮されません。子どもたちのプログラミング活動がクリエイティビティ溢れるものであるためには、楽しい活動であることが必要不可欠なように思います。

ここで注意しなければいけないことは、楽しさには「誰かに与えられた受動的な楽しさ」と「自分の行動に伴う能動的な楽しさ」の2つがあるということです。受動的な楽しさは、コンテンツを消費する楽しさとも言えるでしょう。(たとえば、子どもたちがの今日にをひくキャラクターが登場したりするようなもの。)

クリエイティビティの根幹にある楽しさは、能動的な楽しさです。きっかけはコンテンツを消費するタイプの受動的な楽しさでいいと思いますが、早いうちから能動的な楽しさを感じられるような学習内容をデザインできるとよりすばらしいと思います。

能動的な楽しさを教えるのは難しい

能動的な楽しさを教えるのはかなり困難です。なぜなら、能動的な楽しさとは自分の経験にもとづく主観的なものであり、感じ方は人によって異なるからです。しかし、そもそも能動的な楽しさを知らなければ話になりません。

私はよく先生方を対象にした研修会の講師などを務めていますが、必ず教師自身がプログラミングを楽しむ必要があると強く勧めています。これは、能動的楽しさを知ってほしいからです。その心意気さえあれば、子どもたちとのプログラミングはより意味のある、クリエイティビティに溢れた活動になるのではないでしょうか。

さて、今回はプログラミングを経験したことがない子どもたちと決めているルールをご紹介してきました。学校教育におけるプログラミング活動のポイントは、とにかく子どもたちとプログラミングを幸せに出逢わせてあげることです。自分で取り組むことのおもしろさ、能動的な楽しさをぜひ経験してほしいと思います。

これまでの【プログラミング教育のホントのところ】は

© Valed.press