三菱の切り札「エクリプスクロスPHEV」、マイナーチェンジ“以上”の進化点

世界的に電動化の波が押し寄せる自動車業界において、前々から発売が期待されていた三菱のクロスオーバーSUVである「エクリプスクロス」のPHEV(プラグインハイブリッド車)が発表になりました。発売は12月予定ですが、そのパフォーマンスも含め、ショートサーキットを中心に試乗してきました。


PHEV追加は最初から織り込み済み!?

2018年3月に登場した三菱のエクリプスクロスはSUVでありながらクーペ的フォルムをまとったユニークなモデルです。

発売時は1.5L直4ターボ車のみでしたが、その後、同社得意の2.2L直4クリーンディーゼルターボも追加し独自のポジションをキープしていました。

しかし、世界的に電動化の流れがある中、同社にはアウトランダーPHEVというロングセラーモデルがあり、今後の戦略としてエクリプスクロスも電動化に舵を切る必要がありました。

元々エクリプスクロスにPHEVを搭載することは当時の益子修社長も記者会見で明言しており、実際それはいつなのか?という声も多く聞かれていました。

そして満を持して10月15日に発表、12月発売としてエクリプスクロスのマイナーチェンジと同時にPHEVを市場に投入します。

エクステリアを中心に大変更

マイナーチェンジという扱いのエクリプスクロスですが、実際はそれ以上の変更からも気合いが入っていることがわかります。

下側のウインドウガラスを廃止した全く新しいデザインとなりました

PHEVモデルの追加以外では何と言ってもエクステリアを中心に大変更を行った点です。

前述したようにクーペ的フォルムを持つクルマですが、まず全長のサイズを140mmも拡大しています。内訳的にはフロント側に35mm、リア側に105mmですが、いくら本腰を入れて改良したと言っても普通はここまでの変更は行いません。

今回、変更前のモデルの写真も比較用に入れてありますが、フロント側はヘッドライトを中心にデザインを換えることで精悍さを向上させていますが、注目はやはりリア側です。

このクルマの特徴に後方視界を確保しつつ、スタイリッシュなデザインとする2枚のリアウインドウを廃止し、まったく新しく1枚のみのリアゲートを作り上げしました。

単にガラスを1枚減らしたのではなく、前述したようにリア側へのサイズ拡大はこのガラスだけではなく、そもそもリアゲート自体も刷新することで見え方は大きく変わります。多分、普通にパッと見ただけではエクリプスクロスとは気がつかないかもしれません。

インフォテインメントも進化

大胆な変更によるエクステリアに比べ、インテリアの変更は少なめです。

PHEV化により専用のシフトやメーター内の表示などは新設されていますが、基本造形は変わりません。

ただ、目立つ部分ではエアコンのスイッチ類のデザインが刷新した点、そしてインパネ上部に設置されているSDAと呼ばれる「スマートフォン連携ディスプレイオーディオ」の画面サイズが従来までの7インチから8インチに大型化されています。

たかが1インチと思われる方もいるとは思いますが、視覚上は約1.3倍大きいのでカーナビの地図などの見やすさは一気に向上します。細かな操作は時間の関係でできませんでしたが、タッチパネルのレスポンスや液晶の見え方なども向上しています。またアウトランダー同様に電気などの流れなども視覚的に把握できる「エネルギーモニター」もこの画面上で確認することもできます。

シートは上位グレードに設定されていたブラックの本革シートにプラスしてライトグレーも新設定されています。

独自のAWD制御システムが進化

PHEVの基本システムはアウトランダーとほぼ同じです。発電機としての役目も担う2.4L直4ガソリンエンジンと前後のモーターを搭載しますが、同社がこれまで培ってきた「S-AWC」と呼ばれる制御技術を専用チューニング。路面に応じてスイッチひとつで特性を切り替えることができるモードも搭載します。

難しい話をここでするより結論としては「どんな路面でもハンドリングと走行安定性を実現」するのが特徴です。

また基本は「ノーマル(エコモードも含む)」でほとんどのシーンは対応できるものの、「スノー」「グラベル」のほか、乾燥舗装路に最適化した「ターマック」モードもシフト近くに設置されたスイッチで切り替えることができます。

要はドライバーの意志とクルマの性能を高い次元で両立させることができるシステムと言えるのです。

あくまでも滑らか、そして静か

今回はFSW(富士スピードウェイ)のショートサーキットで試乗する機会に恵まれました。但しあくまでも最終仕様ではなく、プロトタイプであること(ゆえにナンバー無し)。また細かなスペックも公開されていません。

富士スピードウェイのショートサッキートでその実力を試してきました

開発陣にリモートで話を聞いたところによれば、前述したようにアウトランダーPHEVと同じですが、車両重量がこちらの方が軽く、さらに制御も最適化しているとのこと。

車両はほぼ満充電状態だったので最初はEVモードでコースインしてみましたが、その印象は「滑らか」そのものです。もちろんエンジン音がしないので当たり前なのですが、軽くアクセルペダルを踏み込むだけでスルスル~っと加速していきます。

もちろんグッとアクセルを踏み込めば4つのモーターがクルマを一気に押し出します。開発陣の話によれば、出だしの瞬発力は世界でも高い評価を得たランエボこと「ランサーエボリューション」並みとのことです。

あいにくの雨天気でしたが、濡れた路面でもクルマは安定しており、誰もが安全に走れる懐の深さも感じました。

一応、筆者も自動車ライターのはしくれなので、少し専門的な意見を言えば、これだけハイレベルなシステムを搭載しているのですが、タイヤがエコ仕様のため、もう少しグリップ感が欲しい、という点も補足しておきます。

走りながら充電できます

冒頭に書いたように電動化の勢いに合わせて日本にも純粋なピュアEV(BEV)も増えてきました。しかしここで大きな問題となるのが、充電インフラの数と時間の問題です。

ピュアEVの場合、約80%を約30分で充電できる「急速充電」と200Vを基本とする「普通充電」の2種類に対応しますが、最近高速道路のSAなどに設置されている急速充電スペースでは時間帯にもよりますが「渋滞」が発生しているケースもあります。

そこで充電できなければ走行途中でガス欠ならぬ「電欠」を起こす可能性があります。

つまり充電しようと立ち寄ったのに先客がいた場合は当然待たなければならないことに意外とストレスが溜まることもあります。

それではエクリプスクロスの場合はどうなのか?急速/普通充電にも対応し、EVとしても使える同車ですが、前述した開発陣の話によればアウトランダーPHEVとほぼ同等の距離である57.3kmも走ることができます。

そして何よりもこのクルマは走りながら充電することができる点が大きなポイントです。

「バッテリーチャージモード」と呼ばれるものを使うとエンジンを充電のために積極的に回すことができます。当然ガソリン消費量は増えますが、使用環境においてEV走行が必要な場合、もし電池容量が不足していてもこれを使うことで、充電設備に立ち寄る必要もありません。つまり充電のためのストレスをひとつ解消してくれるわけです。これがPHEVの大きな魅力と言えます。

PHEVの先駆けとして

12月発売予定のエクリプスクロスの価格はガソリンターボ車で約255万円~約335万円、そしてPHEVは約385万円~約450万円(いずれも消費税込み)と発表されています。

今後の主流になりそうなPHEV。発売開始が楽しみです

実は今回のマイナーチェンジで先に販売されていたクリーンディーゼルターボ車は廃止されます。

このエンジンとトランスミッションはその前にデリカD:5に搭載されたのですが、ディーゼルとは思えない程静かで、おまけに燃費も良いということで評判も上々。正直、残念な部分もあるのですが、そこは企業としての「選択と集中」があり、三菱は電動化に舵を切っていくことにしたわけです。

ちなみにエクリプスクロスのPHEVは下から「M」「G」「P」のグレード構成。今回筆者が調べた所では「M」は384万8,900円、最上位の「P」が447万7,000円という情報を入手しました。まだ細かな装備も公開されていませんが、真ん中の「M」グレードが多分コスパも含め最も買い得感が高いと予想できます。こちらの価格は415万2,500円という情報です。

ガソリン車と比較するとPHEVの価格が高いのは当然のことです。実際ガソリンターボとの比較だと100万円以上の差は発生します。

しかし、そもそもPHEVであることの実用燃費の高さや昨今話題になっている緊急時の電源供給などもできるなどメリットは非常に高く、コストパフォーマンスも高いはずです。

そして何よりも国産車ではPHEVのSUVを2車種ラインナップしているのは三菱だけという現実(トヨタはRAV4とプリウスなので)。アウトランダーもまだモデルチェンジには時間がかかりますので当面はこの2車種が牽引していくことになりますが、売れ筋のSUVだからこそエクリプスクロスPHEVはブランドイメージを向上させる役割を担う重要な車種と言えるはずです。

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