【飛鳥Ⅱ 乗船ルポ】再出航(1)悪夢の教訓、安心感に 「危険な乗り物ではない」

高さ約1.5メートルのアクリル板に囲まれたテーブルでフルコースを楽しむ乗客=飛鳥Ⅱのフォーシーズン・ダイニングルーム

 コロナ禍で運航を中止している飛鳥Ⅱが11月2日、約10カ月ぶりに国内からクルーズを再開する。「ダイヤモンド・プリンセス」の悪夢を克服し、顧客の信頼や安心を取り戻せるのか─。横浜港から始まるウィズコロナ時代の新たなクルーズの実態に迫る。

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 宵の月が航跡を照らす洋上。贅(ぜい)の極みを尽くすメインダイニングに、BGMと食器の音だけが響いた。

 フランス料理のフルコースが味わえるディナータイムの「フォーシーズン・ダイニングルーム」。フェースシールドとマスクを着用したフィリピン人乗組員は、テーブル間を隔てる透明なアクリル板の間を縫うように料理を運んだ。

 乗客は客室ごとにテーブルが指定され、会話もほとんどない。優雅なダイニングから、かつてのにぎわいは消えた。それでも、20年余り船旅を手掛けてきた旅行業者の塩谷篤志さん(46)=富山県=は声を弾ませた。

 「サービスの世界で考えられる最高水準の安全対策だ」

 日本最大級のクルーズ船「飛鳥Ⅱ」(5万444トン)が、国内クルーズの再開に向けて19日から実施した3日間のトライアル航海。体験乗船した旅行業者や行政機関の関係者ら約150人が、新型コロナウイルスの感染防止策を徹底した新たなクルージングスタイルを確認した。

 塩谷さんが注目したのは、乗客がマスクを外すダイニングの感染対策。横浜港に停泊したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染は、レストランなど共用施設やイベントが感染拡大の原因とみられ、食事提供に携わった乗組員が感染ペースを速めたと指摘されていた。

 「クルーズ船では乗組員の感染が非常に怖い。乗組員の安全を守ることが最も大切だ」

 飛鳥Ⅱを運航する郵船クルーズの感染対策責任者・久次米一聡管理部長代理も、乗組員約400人の健康管理にベストを尽くすことが、乗客の安心感につながると確信する。

 新たに情報通信技術(ICT)を導入し、レストランでは手に触れるメニューなど印刷物の一部を撤去。乗客がスマートフォンでQRコードを読み取り、食事の内容を確認できるようにした。

 さらに乗客が携帯するICチップ付き乗船証で、体温や入店時間などを常に把握。発熱などの症状を早期発見するとともに、感染者が判明した際は濃厚接触者の特定に生かせる仕組みも整えた。

 初代の「飛鳥」も知る塩谷さんは、言う。「クルーズ船は決して危険な乗り物ではない」

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