山下達郎のツアーメンバーでもお馴染み、ヴォーカリスト国分友里恵の艶やかな歌声 1987年 10月21日 国分友里恵のセカンドアルバム「STEPS」がリリースされた日

ロック小僧はマイラバ経由で国分友里恵に辿り着く

たとえば、松田聖子と中森明菜、スピッツとMr.Children… 歌手の歌い方について、韓国人である私が感じるところと、日本の方々が感じるところは当然異なっていると思う。

私はネット上で、日本の昭和歌謡ファンクラブの活動を行っている。ここでやり取りする人たちは、松田聖子と中森明菜、そして山口百恵のファンが大部分を占めている。つまり、何が言いたいかというと、感じるところは違っても韓国と日本の人々の好みはそれほど変わらないということだ(最近では本田美奈子、森高千里のファンの方々も確固たるグループを形成しているようだ)。

では、当の私はどうだろう?

レッド・ツェッペリンやドアーズなどに熱狂するロック小僧だった私は、ある時期からマイ・リトル・ラバーの akko の神秘的で透明な声にのめり込んでいった。思い返してみると、その頃の私は教科書的に人気のある80年代女性ボーカルを避けていた。あえてそうすることで、自分のレコードコレクションを満たしていったのだ。そして、そんな私のレーダーが捉えた女性ボーカリスト、それが本コラムのヒロインである国分友里恵である。

最初は「シティーハンター」のサントラ、シャンバラのアルバムで再発見!

私が国分友里恵の声を初めて聴いたのは、1995年に後追いで接したアニメ映画『シティーハンター 百万ドルの陰謀』のサウンドトラックに収録された「Only in my dreams」だった。

当時の私は「歌っているのは誰なのか」ということには関心がなく、アニメにふさわしい米国か英国の女性歌手とばかり思っていた。その後しばらくは忘れていたのだが、フュージョンバンド カシオペアの櫻井哲夫と神保彰が中心となって結成されたシャンバラというバンドのアルバムを聴いて、歌声の記憶が再び呼び覚まされた。このユニットは珍しい “ツイン女性ボーカル体制” で、その一軸を堂々と担当していた歌手が国分由利恵だったのだ。

あ! つながった!

こうして、国分友里恵のアルバム『RELIEF』(1983年)と『STEPS』(1987年)がこのあとしばらく私のプレイリストを埋めることになった。

それぞれのアルバムプロデューサーである林哲司と岩本正樹のどちらかを選べと言われたら苦渋の選択だが、私の好みは後者のほうだ。もちろん、優劣を論じるのではなく、あくまでも私の好みだ。ひょっとしたら、だから国分友里恵さんも岩本さんと結婚したのではないか… と想像してみる。もちろん、これもまったくの推測なのだが。

なんと33,000円!セカンドアルバム「STEPS」のアナログ盤は超高価

私はだいたいアルバムをアナログレコードで購入するほうだが、国分友里恵のアルバムだけは新たに発売されたCD『STEPS+2』を購入した。

このアルバムをアナログレコードで購入しなかった理由は、第1にコレクター以外は簡単に購入できない価格だったからだ(最後に確認した中古価格が、なんと33,000円!)。そして第2に、1986年にリリースされたシングル、林哲司が作曲した2曲がアナログレコードには収録されていないからだ。

『STEPS』の挑発的なアルバムジャケットのアートワークから醸し出される “隠れてこっそり聴きたい好奇心” は、アルバムの最初のトラックに始まり、ボーナストラックとして追加された最後の曲「リフレイン」を通じて完全に満たされた。

もう、超満足!

ジャケットのアートワークは、海辺を背景に女性の脚が大きく写し出され、上部にアルバムタイトル『STEPS』のレタリングが施されている。そして下のほうには “影だけの紳士” の姿。私は「これらの組み合わせは完璧じゃないかな?」と思う。

このアートワークは、索漠とした時代なら無視されがちなものを包容してしまう寛容さを十分に感じさせる。それは日本がバブルだった時代の特長なのかもしれない。だとしたら、このアルバムを購入しない手はない!

プロデューサーは岩本正樹、国分友里恵の才能を余すところなく最大化

さて、『STEPS』に収録された最初の曲は「I got you inside out」だ。この曲こそが、このアルバムの展開がどうなるのかを教えてくれる。

プロデューサーの岩本正樹とアルバム全曲の作曲家である羽場仁志は、レコーディングに際し、歌唱法についてこと細かな注文をしたようだ。しかし、国分友里恵は凝ったヴィブラートや、かわいらしい発音がなくてもリスナーの心を掴むことができるシンガーだった。だから、「国分の持つ長所を極大化しよう」という考えが、岩本正樹と羽場仁志の共通した見解ではなかったか、と私は考える。

80年代のニューウェーブとシンセポップを国分友里恵が自由に解く… この方法は大正解だったのではないか。2曲目には彼女の代表曲である「I wanna be with you」が続き、高速道路を疾走する車の休憩場所のようなタイミングで収録された「In your eyes」、さらには記憶に残るライムの「Margarita」を経て、アナログ盤最後の曲「You are love for me」… このアルバムは国分友里恵の持つ才能を余すところなく伝えてくれる。

こんなにもアグレッシブなアルバムは、なかなか見つけにくいんじゃないかな? 早いテンポの曲でも遅い曲でも、途中でプレーヤーの一時停止ボタンを押すのを迷うほどだ。録音も優れたアルバムなので、音質の快感を得ることにも十分満足できることも嬉しい。

私見として、90年代に制作されたアルバムの音質が、80年代に制作されたそれより劣るケースを見ることもあるが、これは、エンジニアの力量の差というよりは、バブル経済がもたらした産物ではないだろうか。少なくともエンタテインメントの世界はこの恩恵を享受したと私は考えている。そして、その賞味期限は令和の時代でも有効のはずだ。

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