Netflix話題のドキュメンタリー『監視資本主義社会』は、子をもつ親こそ見るべき

最近、有料動画配信サービスが人気です。その中でも「Netflix」のオリジナルドキュメンタリー『監視資本主義』は、子どもをもつ親御さんであればぜひ観てほしいと、日本メディアリテラシー協会理事長の寺島絵里花氏は言います。それはどのようなドキュメンタリーなのでしょうか。

子どもの未来のために、親として考えておきたいネット社会の構造

インプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所が、今年(2020年)の5月に動画配信ビジネス市場の動向を調査し、動画配信に関する調査結果を発表しました。

調査結果によると、コロナ禍に流行ったものはライブ配信だけでなく、「Amazonプライム・ビデオ」や「Netflix」などの有料動画サービスに申込した人が増えたことがわかりました。

インプレス総合研究所「動画配信に関する調査結果2020」より

有料の動画配信サービス利用率は21.5%、COVID-19の影響でネット動画利用が大幅増 ~動画配信に関する調査結果2020~ | インプレス総合研究所

有料動画配信サービスの利用率は21.5%となり、2019年から4.3ポイント増加しました。筆者も今年に入ってNetflixを契約し、NBA視聴を楽しんだり、番組についてママ友と話すことが多々ありますが、みなさんもいかがでしょうか。小学生の娘たちは、Amazonプライム・ビデオの『まほうのレシピ』という番組にハマり、コロナ休校中に楽しんでいました。

このことがきっかけとなり、気がついたことがあります。日本では、子ども向けのアニメは昔から放映されていますが、子どもが見る子ども向けの「ドラマ」がありません。日本は世界に誇るすばらしいアニメは存在していて嬉しいのですが、生身の人間同士のぶつかり合いや子ども同士のクラスでの喧嘩や、親になかなか言いにくい出来事を解決すること、大人のことをどう感じているのかなど、さまざまな要素をドラマでは学べるのだと感じました。

Amazon.co.jp: まほうのレシピ シーズン1 (吹替版)を観る | Prime Video Share Edit Help

その他にも、日本ではタブー視されている性教育を赤裸々に描いたドラマ「セックス・エデュケーション」もNetflixの話題の一作です。高校生や大学生の中でも大きな反響を呼んだ作品で、LGDPや性の問題、身体のことなど人に言えない悩みをユーモアに描いています。こういった映画は、日本で制作されることはまだまだ先になるだろうと感じています。

()

セックス・エデュケーション | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

実際、有料動画配信サービス利用者を対象に、利用している有料の動画配信サービスを調査した結果も出ていましたが、トップは「Amazonプライム・ビデオ」が67.9%となり、2019年から5.2ポイント増加しています。2位には「Netflix」の19.5%、3位には「Hulu」の12.4%が続きます。テレビで放送される番組制作ではなく、ネット動画サービスの会社が主体となって制作するドラマや映画、番組をもつことで広告に関係なく、おもしろいものを提供できる時代となっているのではないでしょうか。

インプレス総合研究所「動画配信に関する調査結果2020」より

Netflixドキュメンタリー『監視資本主義』

このような状況の中で、Netflixのドキュメンタリー『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』が話題となっていることはご存知でしょうか。「監視資本主義」という言葉の提唱者であるハーバード大学のショシャナ・ズボフ教授(Shoshana Zuboff)自身も登場しています。このドキュメンタリーは、残念ながらNetflixを契約していないと視聴できないのですが、お子さまをもつ保護者の皆様にはぜひ観てほしい番組です。

たとえば、こんなことはありませんか?スーパーマーケットのアプリをスマホに入れていて、いつも仕事終わりにスーパーへ立ち寄り夕飯の買い出しをしているお母さんがいるとします。会社から出て、ふっとスマホを開くとネットスーパーの広告や献立などが表示されてたり、スーパーマーケットの近くになるとメールが届き、そのお店の特売品などが掲載されたチラシが届く……。

意識していないと、実感がわかないと思うのですが、意識すると驚くほど絶妙なタイミングでアプリのお知らせが届いたりインターネット広告が表示されているのです。そう、わたしたちの日常の行動は常に「インターネットに監視」されている可能性が否定できないのです。

一人一人のわかりやすい個人情報「名前」や「生年月日」だけでなく、GPS機能搭載のスマホを持っていれば、毎日どこへ出掛けているのか追跡も容易なのです。お気に入りのレストラン、よく行くスーパーマーケット、子どもの学校や習い事先なども把握できてしまいます。

それだけではありません。生活している時間帯も推測できるのです。およそ何時くらいに食事をしているのか、寝ているのか、起きているのか……健康アプリを入れていれば、一日何万歩歩いている、階段をもぼっているかなど明確に表示されますよね。

交友関係や洋服やインテリアの好み、いつも購入する生活雑貨や食品などもです。最近ではLINE PayやPayPayなども普及してきているので、お財布ともつながり、経済情報までわかります。

無料で当たり前として使っているアプリやSNSなどから、企業は個人の細かな日常を情報として得ていることを放置したままでいいのでしょうか? その問いをさまざまな立場の人が投げかけているドキュメンタリーです。

()

監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

子どものために正解・答えのない問題に向き合う

日本人の多くは、企業の利益となるような情報収集によって、私たちの行動が予測されている現状を知らないことがまず問題だと思います。少なくとも、一般のお父さんやお母さんがこの問題を直視することは少なく、どこか自分事ではなく他人事と捉えているように感じています。

もし、ここだけのニュースを読めば「やはり子どもにSNSを活用することを禁止しよう!」「アプリをすべて削除しよう」「デジタル機器を使うのは子どもが大学生くらいで十分」など回避したり活用しないことによって、問題を避けようとする方もいるかもしれません。しかしながらデジタル機器の使用をやめるだけでは、解決できないのです。

子どもたちの未来を、よりよくしていくためにも、一つ一つ耳を傾けその都度、正解のない・答えのない問題に向き合っていく必要があるのです。そのことを、一人でも多くの保護者の皆様に伝えていきたいと考えています。日本の保護者は、社会に対する問題意識よりも目先の学力向上に注力することが多く、社会問題を家庭で語ったり意見を話し合う機会は少ない傾向にあります。

一方で、このドキュメンタリーに対して穿った見方ではないかとの意見も出ています。例えば、SNSの代表的なFacebookは米国時間10月2日、公式サイトに「What 'The Social Dilemma' Gets Wrong
」(「監視資本主義」のどこが間違っているのか)というタイトルの記事を公開し、その中でこの映画について「本質が扇情主義に埋もれてしまっている」と述べて反論しています。

またFacebookでは、Facebook for Educationを立ち上げ、教育コミュニティーを作ったり、メッセンジャーキッズの普及活動を行っています。

Facebook for Education

一つの記事に対して鵜呑みにするのではなく反対の意見や異なった意見をもつ記事がないかを探すこともメディアリテラシーの大切なことのひとつです。今回は、監視主義社会のSNS依存についてドキュメンタリーでは焦点を当てて放映していますが、放映されない側面を考えたり調べることも重要なことなのです。この後、家庭や友達との会話の中でこの話題が出てくることを祈っています。まずは、社会の問題を知ることからはじめていきましょう。

これまでの【寺島絵里花の子どもメディアリテラシー講座】は

© Valed.press