「老後の準備が全くできていない」50代夫婦が今すぐ始めるべき老後資金対策とは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、54歳、派遣社員の女性。派遣社員の相談者と自営業の夫で、二人の子どもの学費を支払ってきましたが、自分たちの老後の準備は全くしていないとのこと。今から何をするべきでしょうか? FPの坂本綾子氏がお答えします。

老後について全く準備が出来ていない。

蓄えも夫任せにしていたら、夫婦で何も準備していなかった。その場その場で、やったきた感じです。子どもはどちらも学生。仕送りもしているが、本人たちも少しバイトをしている。個人事業主なので、収入はまちまち。震災や災害被害で、ここ数年収入は不安定。ローンなどの借り入れは0だが、収入は普通預金に入れっぱなしの状態です。主人の仕事柄、お金の動きも流動的なので。

【相談者プロフィール】

・女性、54、派遣社員、既婚

・同居家族について:夫(56歳)、自営業

・子ども19歳、23歳(ともに学生・別居)

・住居の形態:親類名義の一戸建て

・毎月の世帯の手取り金額:約50万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:0

・毎月の世帯の支出の目安:50万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:10万円

・食費:5万円

・水道光熱費:1万円

・教育費:15万円

・保険料:4万円

・通信費:6万5,000円

・車両費:16万円/月(2台分)車検月除く

・お小遣い:1万円

・その他:18万円仕送り合計/月

【相談者プロフィール】

・毎月の貯蓄額:0

・現在の貯蓄総額:300万円

・現在の投資総額:0

・現在の負債総額:0


坂本:ご相談、ありがとうございます。収入が不安定にもかかわらず、子ども2人の教育費を払いながら、借金ゼロは偉いです。相談者さんは、感覚的にバランスをとってきたのだと思います。子育てにゴールが見えてきて、50代半ばとなった今は、老後を見据えて家計を見直すのによいタイミングです。

子どもの教育費が家計を圧迫

支出から見ていきましょう。支出の合計額は月76万5,000円。手取り50万円を超えています。平均すれば支出も月50万円程度に収まるということでしょうか?

支出の内容を見てみましょう。住居費は10万円で、世帯の手取り収入の20%。現役で働いている間は負担にならない範囲ですが、年金生活になったら減らしたいところです。親類名義の一戸建てとのこと。老後もずっと住み続けられるのか、家賃に変更はないか、確認しておいた方がよさそうです。食費は5万円。夫婦2人分としては、もう少し減らせる気もしますが、バランスよい食事をして健康でいることは重要ですから、無駄使いしていないなら、このままで。水道光熱費の1万円は問題ないでしょう。気になるのが教育費の15万円と仕送りの18万円。合計33万円にもなります。

保険料と通信費も見直しの余地あり

保険料の4万円も、死亡保障だけならかなり高いですね。貯蓄性があって、いずれ老後資金として使える保険でしょうか? 保障内容を確認してください。子どもは19歳と23歳。もうすぐ自立できる年齢ですから、死亡保障は最小限にして保険料を下げることも検討してください。夫は個人事業主なので、医療保障はある程度確保しておいた方がいいですね。

通信費の6万5000円も平均よりかなり高いです。学生の子ども2人分も含まれていると推測します。子どもが就職して収入を得るようになったら、本人に払わせましょう。車両費も、車2台としても高めです。仕事にも車を使っているのでしょうか?

月に33万円も払っている子どものための支出が、卒業後にゼロになれば、それだけで一気に余裕が生まれます。その分は必ず貯蓄に回しましょう。平均よりも多めとなっている保険料や通信費、車両費が、個人事業主である夫の仕事上欠かせないものなら、経費として落としているかを確認してください。個人事業主には会社員にはないメリットもあります。きちんと経費をたてることで、所得税や住民税を節税できること、その結果、社会保険料も下がることです。夫が、そういったお金の管理にあまり興味がないようなら、妻が管理することも考えてください。

公的年金受給見込み額は必ず確認を

そして、夫婦ともに必ず確認したいのが、公的年金の見込額です。50代なので「ねんきん定期便」に記載されているはずです。夫婦2人の公的年金を合わせると月にいくらになるか、それで老後の生活がなりたつか。相談者さんは派遣社員ですね。厚生年金には加入しているのでしょうか? 夫は個人事業主ですから国民年金で、満額でも月7万円弱です。

現在の支出から、最低限の生活費として、住居費、食費、水道光熱費を合計すると16万円です。実際には、これに通信費や、車が必要なら車両費、雑費やお小遣いなども加わります。老後も国民健康保険料や介護保険料の支払いは続きます。こうして老後の支出を予想してみると、手元の貯蓄300万円を少しでも増やしておくことが必須だとわかります。

また、老後のための貯蓄は、生活費とは分けておきたいので、普通預金に入れっぱなしはやめましょう。普通預金の残高は、毎月の生活費に少し余裕を持たせた程度にしておき、つい使ってしまうことを防ぎます。老後資金は定期預金にして、引き出しにくくしておきます。

個人事業主が老後資金対策にやっておきたいこと

個人事業主向けの老後資金対策として、小規模企業共済があります。毎月掛金を払って、事業を引退した後に、積立てた掛金を一時金(退職金)や年金で受け取ります。利子も1%程度つき、受取時の税金優遇もあります。掛金は所得から控除できるので現役時代の節税対策にもなります。金融機関経由で加入の申し込みができるので、仕事の収入を受け取っている銀行で相談してみてください。

iDeCoこと個人型確定拠出年金も老後資金の準備に使えますが、加入は60歳までで、10年以上の加入期間が必要です。ただし2022年からは、国民年金に任意加入している人は65歳まで加入できるようになります。夫は56歳でギリギリですね。任意加入の予定があるなら検討しましょう。小規模企業共済と同様に毎月掛金をかけ、60歳以降に一時金や年金で受け取ります。掛金を所得から控除できるので節税になるなど税金の優遇もあります。iDeCoはいろいろな金融機関で取扱っているので、これも取引銀行に相談してみましょう。

年金受給開始の繰り下げも検討を

公的年金は原則65歳からの受取ですが、1か月単位で繰り下げることができ、1か月繰り下げるごとに0.7%増額されます。70歳まで働いて、公的年金の受け取りを70歳からに繰り下げれば、42%増の年金を受け取ることができます。

65歳までは約10年、70歳までなら約15年の時間があります。複数の対策の合わせ技で、しっかり老後の準備を進めましょう。

© 株式会社マネーフォワード