<レスリング>【2020年西日本学生選手権・特集】女子は至学館大が3階級制覇! 栄希和コーチの就任でさらになる実力アップが期待できる

 女子トップチームの先陣を切って至学館大の6選手が西日本学生選手権に出場。全日本チャンピオンの南條早映らの実力は飛び抜けており、エントリーした3階級すべてで優勝し、上位を独占した。

エリア外にいる父・栄和人監督の見つめる中、選手を見守る栄希和コーチ

 多くの試合でセコンドについたのは、昨年復帰した栄和人監督ではなく、長女の栄希和コーチ。今年春に正式に選手活動から引退。ジェイテクトの社員として働くかたわら、谷岡郁子学長の「選手に年齢が近いコーチが必要」との方針で至学館大の外部コーチに就任し、選手とのコミュケーションをとって父親を助けている。

 「(コーチは)難しいですね。私が技術的にたけている選手ではなかったので、技術を教えるというより、どうやったら選手が気持ちを上げてくれるかを考え、声をかけていこうと思うのですが、まだできていない状況です」。

 今大会でセコンドをして感じたのは、状況に応じた声かけを瞬時にしなければならないことのほか、「ルールを正確に覚えないと駄目」ということ。至学館大選手の実力が飛び抜けていて、選手が自由に闘って勝ってくれた面があるが、全日本選手権などの闘いでは、こうはいかないことは覚悟している。ルールを熟知したうえで、もっとしっかりしたアドバイスを送れるようになることが目標だ。

自分を見つめ直すため、世界一周バックパッカーの旅へ

 希和コーチは、2014年世界ジュニア選手権3位、翌2015年には世界で初めて父母に続く世界選手権出場を果たすなど、血筋のよさを見せて東京オリンピックを目指した。だが、2019年6月の全日本選抜選手権62kg級で優勝を逃し、世界選手権に出場した川井友香子(至学館大=現ジャパンビバレッジ)がオリンピック代表内定を決めたため、地元オリンピックの道は絶たれた。

大小2つのリュックを持って世界一周旅行へ出発=本人提供

 9月の茨城国体への出場が決まっていたので、出場したが、負けても「悔しさが湧かなかったんです」。選手としてやり切ったからかな、と思ったが、レスリングから離れて自分を見つめ直そうと、世界一周、バックパッカーの旅に出ることにした。会社も希望を受け、休職扱いとしてくれて昨年11月、世界へ飛び出した。

 行った国はネパール、トルコ、ポーランド、モロッコ、ポルトガル、スペイン、ウクライナ、フランス、英国、アイスランド、アイルランド、米国、メキシコ、ベトナム、韓国。出発前に予定を決めていたわけではなく、大まかに考えていたルートも変更続き。エアチケットは、現地で次の訪問国が決まってから購入しての旅だった。

 小さい頃から海外への関心はあった。レスリングの遠征で何度も行くようになって、その気持ちがさらに高まり、「いつかは世界一周の旅」と思っていたと言う。選手時代に半年ほどハワイへ留学し、英会話の勉強に励んだのも、海外へのあこがれからくる行動だった。

レスリングでの海外遠征とは違うゲストハウスでの宿泊

トルコのカッパドキアで記念撮影=本人提供

 レスリングでの遠征は、ホテルのグレードが決まっていて、食事が完備された4つ星以上のホテルに泊まれるが、それとは大違い。数人でひとつの部屋をシェアするゲストハウスなどに泊まり、「1泊1500円とかの安宿が多かったです」。英語がまったく通じない相手もいるが、そこは“ボディ・ランゲージ”という万国共通のコミュニケ―ション方法を加えながら話をした。

 日本は世界でも稀に見る治安のいい国として有名。外国では、日本の感覚でいては“大けが”をし、それだけではすまないこともある。その心配は? 「海外への興味の方が上回っていましたので、怖さは感じませんでした」と笑う。両親は? 「まったく心配していなかったみたいです。やりたかったら、やれば、という感じで」

 それでも、国を移動する度にメールは入れた。海外でもクレジットカードやキャッシュカードで現金を引き出せる時代なので、大量の現金を持ち歩く必要もない。「そのあたりは、昔のバックパッカーとは違うと思います」と、時代のありがたさを感じている。

選手に年齢が近いコーチの手腕に期待…栄和人監督

 米国では、レスリングの先輩、テキサス州に住んでいたダルビッシュ聖子さん(旧姓山本=大リーグ、ダルビッシュ有夫人)のもとを訪れ、ダルビッシュ選手とも対面している。聖子さんは出産後だったが、レスリングにかけてきた人間同士として相通ずるものがあったのだろう、マットで軽く練習することになったとか。

2015年世界選手権(米国・ラスベガス)で闘った時の栄希和コーチ=撮影・矢吹建夫

 レスリングが日常のすべてだった生活を飛び出し、異国で多くの人や先輩に接したことは、大きな人生経験だった。「選手としてはやり切ったんだな、と思いました」と、新たな世界へ進むことを決めた。

 帰国し、今年4月に社業に復帰。営業事務の仕事をこなしていたところ、女性の指導者を求めていたの谷岡学長から声をかけられ、2か月前から外部コーチとしてチームを見ることになった。仕事が終わってレスリング場に到着するのは、ちょうどウォーミングアップが終わった頃、体はまだ十分に動くので、スパーリングの相手もこなしている、

 至学館大の練習には、これまでにも世界を目指す何人ものOG選手が参加しており、コーチ的な立場で学生選手に接してきた。しかし、「コーチ的な立場」と「コーチ」は違う。栄和人監督は「OGによる技術指導や激しい練習と、希和コーチによるコミュニケーションの構築の二本柱で、さらに上を目指したい」と期待した。

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