<社説>首相「脱炭素」宣言 「脱原発」も同時に進めよ

 ようやくスタートラインに着いた。菅義偉首相が所信表明で宣言した「脱炭素社会」実現への決意を歓迎する。 首相は2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガス排出量から、森林などが吸収する量を差し引いて実質ゼロにする目標を掲げた。

 「脱炭素」が世界的潮流となる中、日本は目標設定などで出遅れていた。これを機に産学官一体で、目標実現へ取り組むことが求められる。

 そのためには太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの活用を図ることが鍵となる。首相は原子力発電を選択肢の一つとしているが、「脱原発」も同時に進めるべきだ。

 2016年発効のパリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度に抑えることを目標としている。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が18年に発表した報告書では、現状の産業活動が続けば50年に4度の気温上昇が見込まれるという。

 温暖化が進めば、海水面上昇や台風などの気象災害増加も予想される。身近なところではサンゴの白化現象も増えるだろう。環境への負荷が強まることは災害などの形で私たちの生活に降りかかる。50年には世界で脱炭素社会を実現する必要に迫られている。

 パリ協定締約国のうち、122の国と地域が「50年ゼロ宣言」をしている。国内でも複数の大企業が「脱炭素」を掲げている。ソニーは40年までに事業活動で使用する電力を全て再生可能エネルギーにすると発表した。

 日本は18年の第5次エネルギー基本計画で30年に温室効果ガスを26%削減(13年比)、50年に80%削減(同)するとしていた。パリ協定離脱を表明した米国と日本だけが出遅れていたのが実態だ。

 政府は高効率の太陽光発電や水素の活用など重点領域5分野を定め、革新的技術を確立する方針を打ち出している。

 遅れを取り戻すためにも重点領域への予算の配分をはじめ、首相がリーダーシップを発揮してもらいたい。

 気になるのは、所信表明直後の梶山弘志経産相の発言だ。原発の新増設はないと前提を置きながら既存の36基について「この10年間は再稼働への努力期間」と述べている。

 東京電力福島第1原発の事故で、国民は原発が危険かつ高コストであることを知った。使用済み核燃料をどう処理するか難問も山積する。

 19年には世界全体の再生可能エネルギーによる発電量が原発を上回った。コストでも原発は1キロワット時(kWh)当たり約10円だが、テロ対策などの費用を含めると数倍となるのは必至だ。一方で太陽光は8~9円で競争力の面からも優位にある。

 原発維持は、国民の理解が得られない。再生可能エネルギーの拡大こそが政府の責務であろう。脱炭素を掲げて原発依存が増しては本末転倒だ。首相の宣言が画餅に終わらないか注視したい。

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