今どきのアメリカ、コメ事情

 アメリカの名門エモリー大学で28年間、教鞭をとってきた著者が語る、アメリカの日常と非日常。今回は日本人の心、お米について。アメリカ国内における米事情を紹介しよう。

アメリカ人にとっての米の位置づけ

 アメリカでは、12月がホリデーシーズンだ。毎年この時期になると、友人や家族親戚・職場での同僚たちと持ち寄りのポットラック・パーティーを開くことが多いが、アメリカ在住の日本人はたいてい「日本的なもの」を持っていくことを期待されている。そんな中、私の定番は「カリフォルニア・ロール」と呼ばれる巻き寿司だ。自分で作ることもあるし、近所のスーパーマーケットで買っていくこともある。そう、今やアメリカでも、ごく普通のスーパーで寿司(sushi)が買えるのだ。

「Sushi」として定着

 近年、Sushiはブームとしてではなく、アメリカの食生活に定着した感がある。接待で使うような高級寿司レストランだけでなく、回転寿司やモールのフードコートなどでの大衆化も見られる。たとえば、私が住む米南部アトランタにある主なスーパーマーケット(Kroger、Publix、 Sprouts、 Whole Foods)には、カリフォルニア・ロールなどアメリカ的にローカライズされた「創作スシ」が普通に売られている。黒い海苔が苦手なアメリカ人のため、これらのスシはすべて「裏巻き」(ご飯が外側、海苔が内側)だ。

 たいてい1パックに12切れ入っていて、値段は6ドル前後。マヨネーズソースがかかっていたり、具材はアボカドやクリームチーズ、カニカマ、スモークサーモンなどが好まれる。新鮮だという証拠を見せたいのか、板前さんの格好を真似たユニフォーム姿のスシ職人がスーパーマーケットの店内でスシを巻いている。握り寿司も売ってはいるが、これはレストランで食べることをお勧めしたい。

アメリカで栽培されている米

 裏巻きのカリフォルニア・ロールだが、「結構おいしいよね」というのが率直な感想だ。作り手による部分も大きいが、アメリカ産のコメもしっかりと粒がたっていて悪くない。

 2019年2月更新のデータによると、アメリカでコメを栽培している州は、生産量が多い順にアーカンソー州 (48%)、カリフォルニア州 (19%)、ルイジアナ州 (14%)、ミズーリー州 (8%)、テキサス州 (7%)、ミシシッピー州 (4%) の6州となっている。

 次に、米の種類ごとに分けると下記のようになる。

短粒種:

 日本で食される粘り気のある米で、カリフォルニア州で「コシヒカリ」や「秋田こまち」が少量栽培されている。アメリカ国内消費ではなく、全て日本市場へ輸出されているそうだ。

中粒種:

 カリフォルニア・ロールに使われるコメで、アメリカ国内和食レストランや炊飯器でご飯を炊くアジア系住民に好まれる種類。軽い食感と適度な歯ごたえが好評。特に「カルローズ」というカリフォルニア州で栽培される中粒種は、その90%が輸出されており、USAライス連合(コメ産業界の団体をまとめる全国組織)は、このカルローズを日本に売り込んでいる最中だ。実は「コメの国」日本は、メキシコとハイチに次ぐ、アメリカのコメ輸出相手国上位3番目のお得意様なのである。

長粒種:

 水分が少なく、パサパサ、バラバラしている。中華料理店やタイ料理レストランでこの種のコメが使われている。この軽いコメが脂っこい料理には合うのだろう。家庭では、長粒米をピラフのように炊き込んだり、ソースを絡めて食べるのが一般的だ。レトルトや電子レンジでコメを調理するようなキットも、料理ベタの人々にはうけている。

家庭で炊くコメ

 炊きたてのご飯を美味く食べることを好むのは、炊飯器を持っているアジア系の家庭に限られる。アメリカ産の中粒米・短粒米は、アジア系食品や野菜を扱うスーパーマーケットで15lb (6.8 kg)が15ドル(日本円で約1,600円)前後で買える。日本からの輸入米は品種により値段が異なるが、コシヒカリだと15lb (6.8 kg) が30ドル(3,300円)前後だ。日本では精米して2カ月以内に売り切るのが理想だと聞いたが、アメリカでは精米日などはコメ袋には書かれていない。ほぼ1年中「新米」と印刷してある袋を見かけるだけだ。

 カリフォルニア・ロールとしては「結構いける」アメリカ産の中粒種のコメは、お茶碗によそって食べると、やはりコメの美味しさに欠けるように思う。しかし、アメリカの一般的なスーパーで豆腐や醤油が買えるようになったご時世なので、アメリカ人の中にもコメの炊き上がりのツヤや、コメの甘さを知る消費者層も存在するのかもしれない。

コメの新ビジネス

 政治的な背景はここで省くが、日本政府はコメの輸出に躍起になっているのをご存知だろうか。2017年9月より農林水産省農産企画課が 「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」を推し進め、成果が形になってきている。

一例として、2018年秋に新鮮でおいしい日本産米をアメリカの消費者に届けるコメ屋がニューヨークにオープンした。精米所を併設し、低農薬な日本産コメの需要を業務用と家庭用に掘り起こしていくらしい。

 例えば、この店では新潟県新発田産の低農薬農家指定のコシヒカリ15lb (6.8 kg)が40ドル(4,300円)で買える。私が住むアトランタまで、FedExなら送料15ドル(1,600円)で送ってくれる。これを高いと見るか安いと見るかは人によりけりだが、1) 作り手の顔がわかるコメ、2) 低農薬のコメ、3) 日本から冷蔵コンテナで運ばれたコメ、4) オーダー直後に精米したコメであることを考えれば、悪くはないと思う。

 この美味しいコメを炊く方法だが、家庭では土鍋に行きつくように思う。土鍋に関して言うと、昨年ロサンゼルスに土鍋を扱う専門店がオープンした。長いことオンラインで販売していたが、路面店を出したところ、 LAタイムス紙、NYタイムス紙をはじめ、 Bon Appetitや FOOD 52といった雑誌など、そうそうたる大手メディアから注目を得た。「アメリカ人に土鍋ライフを伝えたい」という日本人オーナーの意気込みを賞賛するためにも、令和初の正月には土鍋で日本産新米を炊いて祝おうと思う師走の夜である。

(2019年12月公開記事)

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