アメリカの学生は、なぜスポーツに励むのか?

 ニューヨークにある名門コロンビア大学バーナードカレッジの学生、光田有希が、アメリカの大学生たちの文化やトレンドなどの情報をお届けするコラム。今回はスポーツの秋にちなんで、アメリカの学生たちがスポーツとどのように向き合っているかを紹介しよう。

秀でたスポーツ能力は学力と同等

 アメリカの教育システムでは、スポーツの能力の扱いが学校の成績と同等に重要視されることがある。

 大学入試においては、ある生徒のスポーツ能力が飛び抜けて高い場合、その生徒の成績が他の新入生と比べて低くても、大学に合格することができる。中学、高校では、課外活動の一環でスポーツチームに入っていない学生の方が少ないこともあり、「どのスポーツを得意としているか?」が、その学生のアイデンティティと密接に繋がるという見解をもたれることもあるという。

アメリカにも「スポーツの秋」はあるのか?

 日本では「スポーツの秋」といわれるが、アメリカの学校では、スポーツはシーズン毎にスケジュールが管理されており、秋、冬、春と異なるスポーツを季節ごとに楽しむことができる。

 たとえば私が通っていた高校では、秋はフィールド・ホッケー、クロスカントリー、サッカー、ウォーター・ポロ、冬はバスケットボール、アイスホッケー、スカッシュ、水泳、そして春は野球、ゴルフ、ラクロス、ソフトボール、テニス、陸上の中から好きなものを選ぶことができた。日本のように1年中、ときには3年間にわたって同じスポーツチームに属すのではなく、アメリカの高校では1年間で3つの異なるスポーツチームで練習に励むことができるので、自分に合うスポーツも見つけやすい。

参加コストが高いスポーツに参加するお金持ちの学生たち

 しかし、スポーツに専念するには、それなりのコストがかかる。「エリート・スポーツ」と言われるアイスホッケーやラクロスは道具や器具などの費用が高く、参加しているのはお金持ちの学生が多い。私の高校でもエリート・スポーツのチームに入っていた学生のほとんどが白人で、費用のかからない低コストなスポーツ、たとえば陸上やバスケットボールのチームでは、有色人種の生徒が多く活躍していた。

 アフリカン・アメリカンの生徒は、スポーツ推薦で大学に入学することを目指す人も多い。学費が高額なアメリカの大学では、どれだけ奨学金と補助金がもらえるかが学生生活を左右する。スポーツを通して、よりよい教育を手に入れるチャンスがあるため、スポーツの能力はアメリカ人にとって非常に重要な基準なのだ。

 オリンピックのトップアスリートたちを見ると、メダル獲得者の多くは生活水準の高い先進国からきている場合が多い。特にアメリカは、常に多くのスポーツにおいてメダル獲得者を生み出している。これは単に生まれ持った運動神経や努力が他国よりも秀でているのではなく、その能力を周囲がどのように引き伸ばして支援できるかに左右されているからではないだろうか。たとえばリソースが整っていない国や、そもそもスポーツをそこまで重視していない文化の中でトップアスリートを育成するのは、幼い頃からトップを目指せるような教育環境がある国と比較すると圧倒的に難しいはずだ。

 オリンピックの観戦は、さまざまな競技の試合観戦を楽しむだけではなく、社会のシステムや不平等さがスポーツにどのように影響しているのか、そして、その中でスポーツが社会にどう影響しているのかを考える機会だったのではないだろうか?

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