なぜ?第二波到来中でも手を洗うフランス人は減少中という不思議

新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮い出してから、季節が一巡りしようとしています。各地でさまざまな対策がされていますが、フランスでは3月に外出制限が出され各地がロックダウン。秋冬と気温が下がることに比例するかのように1日の感染者数も再び増加傾向となり、10月末にフランスは再びロックダウンしました。

コロナ禍は世界中の人々にとって経験したことのない出来事です。研究途上であり、さまざまな仮説と検証が現在進行形で行われています。そのため何が大きな要因なのか、不明な点は多いですが、パリで暮らしていて個人的に感じた「もしかしたら、ここ感染につながる要素かも」という点を、つづっていこうと思います。


とにかく“触れる場所”が多い

コロナ禍が広がりを見せた時、日本とフランスの違いとして「普段はマスクをしない」「握手など相手に触れる挨拶を行う文化である」「部屋に土足で上がる」など、生活習慣の違いが感染拡大をより助長することになったのではと言われてきました。現在フランスでは、感染拡大を防ぐため公共の場所でのマスク着用義務化がされましたし、握手やハグを避けるように啓蒙されています。

しかし、東京とパリの暮らしを比べてみると、マスクや握手などの他に、パリでは本当に多くのものが「触れなければいけない」仕様になっていることに気づきます。

例えば、不特定多数の人が利用する公共交通機関。パリの地下鉄の改札口は、日本のような切符を入れると自動で扉が開くものが主ではなく、回転式のレバーを押して通ります。その際にレバーおよび、その先の扉に確実に触れる必要があります。

改札口を通過すると、次は列車の扉が「接触」を待っています。地下鉄車両の多くは、駅についても扉は自動で開きません。路線により全自動のものもありますが、乗車(降車)の際は扉のボタンを押す、またはレバーを引き上げる形で、扉を開けます。ここでも不特定多数の人が触る箇所が生まれています。

地下鉄車内は基本的に対面シート

地下鉄やパリ近郊路線の車内座席配置も、基本は対面式のボックス席です。今は、列車内ではマスク着用が義務になっているものの、日本の都市部などの列車で採用されているロングシートと異なり、近い距離で対面しますので、飛沫が飛んでくるのではと感じてしまいます。

これら、現在の私たちから見たときに「効率的ではない」と思える事柄も、フランスが今まで歩んできた交通の歴史と文化がベースとなっており、理解できる部分もあるのですが、ウイルス対策という面ではどうしても不利になっているように思えてなりません。

なお扉に関しては列車に限らずで、例えば店舗のドアなども自動ドアである場所は少なく、人力で開閉するところは多いです。その際も、やはりドアノブなどには必然的に触ることになります。

全体を重んじるか、個人を優先するか

コロナ禍になってから、日本では「自粛警察」という言葉が、しばしば話題に上がりました。フランスの場合、そこで暮らしている人々が空気を読まない人々であるとは思いませんが、日本と比べて個人が意見を主張する(すべき)という環境で育ってきているため、日本より同調圧力は低いかもしれません。それが社会にとってプラスに働く場合と、働かない場合があります。

フランスでは役所など上から規制が行われると、ただ従順に従うだけではなく、それに反発しようとする人が多い印象です。「従順さ」もしくは「議論を避けること」は時に危険で、従う前に議論をして個々が内容を精査することで、社会の改善と正常化に大きく寄与します。

一方で、今回のコロナ禍のように社会全体の足並みがそろわないと防ぎきれない事象の場合、せっかくの感染予防対策が薄まってしまいます。

例えば、春先に外出制限が出された際、外出は基本禁止という上で、生活に必要な買い物や、運動などは許されていました。それを拡大解釈して、必須の買い物や運動と称して、それ以上の外出をする人たちが後を断ちませんでした。

もちろん良識あるフランス人は多いですが、日本と比べると文化的に個人の行動・幸福を優先してしまいがちな人が多いと感じます。長所は時に短所になり、短所は時に長所になります。

第二波到来中でも手洗いするフランス人は減少

実際にフランスの人々の、新型コロナウイルスに対しての危機意識は、どれくらいなのでしょうか。調査会社「ifop」が10月5日に出した統計によると、新型コロナウイルスへの懸念は徐々かつ確実に上がってきており、69%のフランス人が「自分自身または家族について心配している」と方向しています。なかでも経済についての懸念が特に高く、87%が危機を感じています。

コロナ禍が始まってからの、フランス人の衛生観念の変化はどうでしょうか。現在、第二波に見舞われているフランスですが、じつはこんなが結果が出ています。

さらに、同社の世論調査結果によると、帰宅時に手を洗うフランス人の割合は、ロックダウンが始まった今年3月が86%だったのに対し、7月は75%、10月は63%と下がり続けています。食事前に手を洗う割合も、3月の81%に対して、10月は65%まで落ちました。

トイレの後に手を洗うかという問いについても、3月の81%に対して10月は77%でした。手洗いについての衛生観念は、若者になるとさらに意識が低くなりました。

咳やくしゃみへの意識も低下

さらに、咳やくしゃみをする際に腕やハンカチなどで口を覆うかという問いについては、3月は69%だったものが7月は62%に、10月は56%でした。その際に使い捨てティッシュを使う人の割合も緩やかに減少しており、3月の63%が7月には58%、10月には53%まで落ちました。

10月25日、フランスは24時間の新型コロナ陽性の人数が5.2万人を超えました。

国が持つ文化や社会は今までの歴史の積み重ねで形作られており、インフラなど社会の物理的なシステムから人々の意識まで、それらを早急に変えることは難しいかもしれません。しかし、今回のコロナ禍で、ウイルスはそれらを大きな心で待ってくれるわけではないということを、世界中が思い知りました。

コロナ禍が起こって以来、言われ続けている各分野でのニューノーマルを受け入れていくことが、ここパリでも肝要ではないか。私は日々そう感じます。

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