巨人菅野や中日大野雄よりも凄かった投手とは? セイバー指標で選ぶセ月間MVP

中日・大野雄大【写真:福谷佑介】

打者で光ったDeNAオースティンは“月間3冠王”の活躍

プロ野球は11月に入り、ペナントレースも残りわずか。セ・リーグは巨人が、パ・リーグはソフトバンクがリーグ優勝を決めました。そんな10月のセ・リーグ月間成績は以下の通りとなりました。

広島 15勝9敗
打率.258 OPS.733 本塁打21
先発防御率2.70 QS率70.4% 救援防御率4.92

中日 16勝10敗
打率.267 OPS.696 本塁打15
先発防御率2.89 QS率50.0% 救援防御率6.39

阪神 14勝10敗
打率.255 OPS.703 本塁打18
先発防御率3.08 QS率51.9% 救援防御率2.89

DeNA 12勝12敗
打率.262 OPS.757 本塁打40
先発防御率4.38 QS率28.0% 救援防御率3.52

巨人 10勝14敗
打率.246 OPS.695 本塁打26
先発防御率3.56 QS率51.9% 救援防御率4.38

ヤクルト 5勝17敗
打率.221 OPS.642 本塁打19
先発防御率4.94 QS率26.9% 救援防御率4.18

10月30日に優勝を決めた巨人ですが、月間では今季初の負け越しに。その10月で最も勝率が高かったのは広島でした。特筆すべき点は先発投手陣の活躍にあります。先発防御率2.70と先月の5.63に比べて大幅に改善しました。クオリティスタート(QS)も27試合中19試合で達成。森下暢仁と九里亜蓮は4試合全てで、床田寛樹と中村祐太は5試合中4試合で達成しており、チームとしても16日から28日まで11試合連続でQSを記録しました。

中日は月間16勝として、一時はリーグ2位に浮上しましたが、27日から6連敗。シーズンを通じて活躍していた救援陣がここにきて月間防御率6点台と息切れしている様子が見え、阪神との2位争いにも注目が集まります。

広島と中日が好成績を残した10月の月間MVPを、セイバーメトリクスの指標から選んでみたいと思います。打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用います。各チームのwRAA上位3名は以下の通りです。

DeNAのタイラー・オースティン【写真:荒川祐史】

巨人の丸はwRAAで14.10をマークするも、オースティンがこれを上回る

・巨人 丸佳浩14.10 岡本和真3.44 ウィーラー2.68

・DeNA オースティン14.53 大和6.22 梶谷隆幸5.69

・阪神 大山悠輔12.90 糸原健斗2.90 陽川尚将2.80

・広島 鈴木誠也11.87 長野久義5.33 田中広輔4.29

・中日 大島洋平5.16 アルモンテ4.79 阿部寿樹3.93

・ヤクルト 青木宣親8.94 村上宗隆6.59 塩見泰隆3.27

巨人のチーム月間OPSが.695と低迷した中、1人気を吐いたのが丸佳浩。チーム月間本塁打は21本ですが、そのうち10本は丸が放ったもの。丸は広島時代を含めて5年連続でリーグ優勝を経験していますが、最後にその牽引役としてチームに貢献しました。

その丸以上に、今月最も打撃でチームに貢献したことを示した打者はDeNAのオースティンです。月間打率.363、本塁打11本、27打点と「月間3冠王」の好成績を残しました。今季、筒香が抜けた穴を佐野とともに十分に埋めてくれることを期待されましたが、故障による離脱はDeNAにとっても大きな誤算だったことでしょう。この活躍を見せたオースティンを10月のセイバーメトリクス指標による打者部門の月間MVPとしたいと思います。

・タイラー・オースティン(DeNA)wRAA14.53
打率.363 11本塁打 OPS1.184 長打率.747(すべてリーグ1位)

広島・九里亜蓮【写真:荒川祐史】

巨人菅野、中日大野雄を上回る指標を叩き出した広島の九里

続いて投手部門です。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用います。各チームのRSAA上位3名は以下の通りです。

・巨人 菅野智之1.73 畠世周1.13 高橋優貴0.87

・DeNA エスコバー1.95 三嶋一輝1.78 大貫晋一1.67

・阪神 青柳晃洋5.23 高橋遥人5.18 西勇輝4.47

・広島 九里亜蓮7.39 森下暢仁6.09 薮田和樹1.89

・中日 大野雄大7.18 勝野昌慶4.11 R・マルティネス4.06

・ヤクルト 石山泰稚2.41 久保拓眞2.01 高梨裕稔2.00

今月は広島、阪神、中日の先発投手陣の活躍が目立ちました。大野雄大は今月も4試合全てでQSを達成し、2試合で完封勝利をあげています。これでシーズン10完投となり、沢村賞の選考基準のうち完投数、防御率、勝率をクリア。奪三振数も基準150個以上に対し、141個と試合数が少ないにもかかわらずクリア目前まできています。

勝利数14の菅野智之も防御率、勝率をクリアしており、最終登板で勝利すれば、選考基準の15勝以上に達し、大野雄と同様、選考基準3つをクリアします。同じクリア数では勝利数のインパクトで菅野に有利に働くことでしょうから、大野としてはあと9つの奪三振は記録したいところです。

ルーキーの森下暢仁は10月4試合で29イニングを投げて自責点わずか1と、大きく防御率を上昇させ、ついに1位の大野雄に0.002差まで詰め寄りました。チェンジアップでの空振り奪取率が15%近くまで到達し、トータルでも10%以上の空振りを奪えるほどの投球術を得ています。規定投球回数もクリアし、勝利数も10に達し、新人王争いで巨人・戸郷に差をつける形となりました。ルーキーで防御率1位を達成すれば、1999年の上原浩治(巨人)以来の快挙となります。

阪神の西勇輝は5試合登板のうち4試合で7回以上自責点2以下のハイクオリティスタート(HQS)、1試合で完投勝利を達成し、月間4勝を記録しました。また防御率も2.03とし、タイトル奪取も射程圏内です。

タイトル争いも熾烈となる中、10月で最もチームに貢献した指標を示したのは広島の九里亜蓮です。今月4試合全てでHQSを達成しています。またシーズンイニング数も120を超え、自身初の規定投球回数をクリアしました。また1イニングあたりの平均出塁数を表すWHIPや被打率もリーグ1位でした。

今季の九里の投球で目立つのは「亜大ツーシーム」と呼ばれる球種で奪空振り率が上昇したことでしょうか。そのため奪三振数や与四死球数がリーグ上位となり、RSAAでリーグ1位になりました。よって10月のセイバーメトリクス指標による投手部門の月間MVPは九里亜蓮としたいと思います

九里亜蓮(広島)RSAA7.39
WHIP0.81 被打率.164 QS率100% HQS率100%
奪三振率9.0 被本塁打0(いずれもリーグ1位)
防御率 0.58 奪三振31(リーグ2位)鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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