業界再編待ったなし、「地銀職員」が『鬼滅の刃』から学ぶべきこととは?

「(地方の銀行は)将来的には数が多すぎる。再編も一つの選択肢になる」。当時官房長官だった菅義偉首相は、今年9月上旬の自民党総裁選の出馬会見などで、地銀再編についてこう述べました。

それに先立つ同年5月20日には、地銀同士の統合・合併等を独占禁止法の適用除外とする特例法が成立し、この11月には施行されることになります。今後10年間にわたる適用除外の期間中に、収益力の向上や金融サービスの維持を条件に地銀の再編が一気に進展していくとみられています(以下では、「地銀」に「第二地銀」も含めます)。

既に地銀再編の号砲は鳴ったのです。地銀職員の皆さんは、「これからどうなるんだろう」と戦々恐々としていることでしょう。

そんな不安な状況の下での心構えを、現在映画が大ブームとなっているマンガ『鬼滅の刃』が教えてくれるのです。


地銀の厳しい現状

地銀の経営はここ数年、厳しい状況が続いています。

もともと、少子高齢化や過疎化による人口減少によって地域経済の活力が低下傾向にあるなかで、ここ数年は日本銀行によるゼロ金利政策などで本業の貸出からの収益力も低下しています。さらに足元では、新型コロナによる地元の小売りや観光業の落ち込みで、「三重苦」とも呼ぶべき状況となっています。

こうした中でも、フィンテックやキャッシュレスなどの新しい取り組みが求められてきたほか、中長期的には店舗の統廃合や基幹システムの見直しなどの「金融DX(デジタル・トランスフォーメーション)」に向けた新たなコスト増加にも対応が必要となります。

どの地銀も、経営体力があるうちに抜本的な経営改善策を打ち出す必要があり、役員や企画部門では既に様々な選択肢を検討していると考えられます。

その有力な選択肢になるのが、同じように苦しい状況にある地銀同士の統合や合併になりますが、そのためには「独禁法の適用を除外」するための金融庁による認可が必要なケースが多くなると考えられています。

既に様々なメディアで、「独禁法の適用除外」の候補となるいくつかの地銀の名前が取り沙汰されています。また、こうした動きと並行して、SBIホールディングスをはじめとするいくつかの金融グループが資本提携や業務提携により将来の再編のための陣取り合戦を進めているように見受けられます。

「果たして我が銀行は生き残っていけるのか」、「どういう再編なら金融庁が認めてくれるのか」、「もたもたしているうちにどこかの金融グループに飲み込まれてしまうのか」など、地方銀行員の悩みの種は尽きないのではないでしょうか。

そんな悩みで悶々としている地方銀行員の皆さんには、『鬼滅の刃』のアニメや映画の中の言葉が大いに勇気を与えてくれるでしょう。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

『鬼滅の刃』については、既に色々なところで報じられているのでご存知の方も多いと思いますが、大正時代を舞台に、鬼に家族を殺された主人公・竈門炭次郎が鬼になった妹を人間に戻すために剣の腕を磨き、鬼と戦うマンガで、週刊少年ジャンプで連載され、アニメになった後、10 月から映画が封切られて、今や社会現象とも呼ぶべき空前の大ヒットを記録しています。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」という言葉は、物語の第1話で、鬼になった妹を「どうか殺さないでください」と懇願して土下座する主人公・炭治郎に対して、鬼を斬ることを使命とした剣士である富岡義勇が言い放った言葉です。

まさにこれは、先行きに思い悩む地方銀行員の皆さんの心に響くのではないでしょうか。

それぞれの銀行の行く末は、金融庁や巨大金融グループが決めるわけではないのです。銀行の行員一人一人がどうなりたいか、そのために何をすべきかを自ら選び取っていくべきなのです。

「金融DX」や「フィンテック」の本質

金融庁は昨年から、「金融DX」という言葉を取り上げ、地銀が単なるデジタル化による業務効率化に止まらず、デジタル化されたデータを利活用してビジネスモデルを変革する取り組みを後押ししています。

その背景には、ここ数年進めてきた「フィンテック」や「共通価値の創造」の流れがあります。すなわち、「顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供」です。

「フィンテック」とは、単なる「金融とITの融合」のことを指すわけではありません。インターネットやスマートフォンを通じてクラウド上に蓄積されたデータを基に、AIによって分析して導かれたユーザーの属性や趣向に合わせて、真に「顧客本位の金融サービス」を提供する取り組みのことです。

そして、地銀にとっての「顧客」とは、その地域の中小企業や預金者、つまり「地域そのもの」にほかなりません。すなわち、地銀にとって進むべき道は、少子高齢化や過疎化、中小企業の活力の低下などで苦しむ地域に真摯に向き合って、「地域のために何ができるのかを当事者意識を持って突き詰め、行動すること」ではないでしょうか。

そして、一つとして同じ地域がないように、本当に地域のためにやるべきことはそれぞれの地銀によって異なります。生き延びるべき地銀とは、ただ単に統合によって経営体力を繋ぎ止めた銀行ではなく、「地域の特徴や課題に合わせて自らのビジネスを変革した唯一無二の銀行」なのではないでしょうか。

地域のための銀行としての「責務を全うする」

そう思って読むと、『鬼滅の刃』は、地域の核となるべき地銀に向けた「檄文」にあふれています。

「頑張れ!! 人は心が原動力だから。心はどこまでも強くなれる」

「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」

「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ」

「俺は俺の責務を全うする」

これらは全て、物語の序盤の言葉ですが、こうした言葉の一つ一つが、地銀の進むべき道、地方銀行員としてのあり方を示しているように思えてきます。

さらに、アニメの主題歌であるLiSAさんの「紅蓮華」にはこういう歌詞があります。

「どうしたって! 消せない夢も 止まれない今も 誰かのために強くなれるなら ありがとう 悲しみよ」

地方銀行員の皆さん、「鬼滅の刃」からこうした言葉を探してみてはどうでしょう。そうしてみつけた言葉を、地域の「柱」である地銀に就職した日に胸に誓った自分自身の言葉に重ねてみれば、目の前の不安や悩みは吹き飛び、地銀の「責務」を全うするために勇気を持って歩き出せるのではないでしょうか。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

そして、「心を燃やせ!!」

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