人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

 米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は多くのスター選手を輩出している米NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)が、自らの方針を変えてまで中国市場に取り入っていることについて。

人権擁護派だったNBAとナイキが中国にゴマをする実態とは

 日本にも多くのファンを持つアメリカのNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)が、試合ではないことで注目を集めている。

 2019年10月4日、米テキサス州ヒューストンを拠点とするNBAのチーム、ヒューストン・ロケッツのジェネラル・マネージャー、ダリル・モリーが、中国政府による人権弾圧に反対する香港のデモを支持し、”FIGHT FOR FREEDOM STAND WITH HONG KONG”(香港の自由のために戦え)とツイートした。

 この直後、中国からの怒りのツイートが炸裂してモリーのツイッターが炎上し、モリー氏はこのツイートを削除。NBAは「ヒューストン・ロケッツのダリル・モリーの意見が、我々の中国の友人やファンの気持ちを深く傷つけたことを遺憾に思う」という声明を英語で発表した。

 しかし、NBAの中国語版の声明では、「モリーの不適切な発言に我々は大いに失望している。(中略)我々は中国の歴史と文化を尊敬することが非常に重要だと思っている。スポーツとNBAが今後もポジティブなエネルギーを統合し、米中国家間の架け橋として人々をまとめることができるよう祈る」と、中国に媚びへつらっていたことが発覚した。

 この数日後、以前からことある毎にトランプ大統領と共和党議員を声高に批判しているNBAウォーリアーズのコーチ、スティーヴ・カーが、インタビューで香港に関するスタンスを聞かれたときに、「(香港のデモは)非常に不可思議な国際的出来事で、どういうことなのか分からないので、コメントはない」と、逃げの姿勢で対応。そしてNBAと一心同体と言われるスポーツメーカー、ナイキ(Nike)は、ひたすら沈黙を守り続けている。

人民服姿のレブロン・ジェイムス! Tシャツ大ヒット

 NBAはこれまで、黒人の権利を主張する運動を積極的に応援し、トランスジェンダーのトイレの使用を認めない州での試合をキャンセルするなど、人権保護活動に力を入れてきた。ナイキも黒人、女性、トランスジェンダーの権利向上のために尽くすことを会社の方針として掲げている。

 同時に、NBAは中国では試合放送権など明らかにされているだけでも1年に5億ドルの収益をあげており、中国のバスケットボール人口は3億人といわれる。つまり中国はナイキにとって最大の市場なのだ。そのため、たとえ中国がイスラム教徒を監禁し、同性愛者やトランスジェンダーを差別していても、NBAもナイキも中国を批判するわけにはいかないだろう。

 米政界では、テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員など複数の政治家やペンス副大統領をはじめとするトランプ政権が、NBAとナイキの偽善を非難している。しかし、NBAの大ファンであるオバマ氏は、大統領だった2015年に米ナイキ本社でTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の重要性を力説し、中国におけるナイキの利益激増の立役者となったため、今回の件ではコメントを控えているようだ。

 NBAのスターであるレブロン・ジェイムズが、「モリーはこの問題(香港のデモ)に関して勉強不足だ」と、モリーを批判。その直後、レブロンを毛沢東にたとえたTシャツや、レブロンが人民服を着た写真をあしらったTシャツやマグカップが大ヒット商品になった。

 今のところモリーのコメントを擁護しているNBA関係者はシャキール・オニールだけであるため、テキサス人のみならず、アメリカ人のほとんどが「NBAもナイキも”人権派”とは名ばかりで、結局は中国のカネのほうが大事なのか」と、落胆している。

(2019年11月公開記事)

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