キャリア30年の銀行員が語る、コロナで住宅ローンが返済できない人への処方箋①

コロナ禍による失業や収入減で、住宅ローンが返せなくなったという声を聞くようになりました。検索サイトで「コロナ 住宅ローン」と検索すると、「コロナ・住宅ローン・返済できない」と続きます。

住宅ローンが返済できなくなると、なにが起き、最後はどんな結末になるのでしょうか。銀行員として30年間、様々な住宅ローンの結末を見てきた私が、赤裸々に解説します。


ローンが返せないとどうなるか?

「コロナ・住宅ローン・返済できない」で検索すると、結果はほとんど以下のどちらかに分かれます。不安をあおるが、対策は示さない「心配させて放置する」サイトと、不安をあおったあと、何かに誘導する「心配させて商売する」サイトです。

住宅ローンの遅延を人間に例えてわかりやすく説明すると、以下のようにイメージすることができます。

1,延滞→軽傷
2,異動→重傷
3,ローンの破綻→致命傷

延滞は「軽傷から重傷」

毎月、ボーナス月の決められた日に返済できないと、ローン返済は遅れることになり、これを延滞(遅延とも)と呼びます。延滞はまだやり直しがきく状態で、人間のケガならまだ軽傷です。ただ延滞にも、その時間の経過により軽重があります。

延滞する時間が長くなるほど事態は悪化していき、ケガでいうならどんどん重傷化してしまいます。

数日の延滞ならば、「ついうっかり、忘れていた」「他の引き落としを計算していなかった」などというた理由が多く、次からしっかり返済していけば、それほど問題にはなりません。
ケガをしても薬や救急絆など自分で治せるレベルです。

1週間~3週間以内の延滞では、ついうっかりという言い訳も苦しくなります。本当にうっかり忘れていたなら、そもそもローン返済を気にしていないと見られる可能性もあります。ケガで言うなら、病院に行くことを考える必要があるレベル、病気なら自宅待機といった状態です。

延滞してから1ヵ月以上が経過し、翌月の返済日が来てしまうと。銀行からも電話や文書で督促されます。もう重傷で、急いで病院に行かないと、取り返しの付かないことになる状態です。

ブラックリストに載る「異動」

異動とは「長期の延滞」「代位弁済」「自己破産」などのネガティブな情報のことで、個人信用情報に一定に期間登録されます。異動は「金融事故」あるいは単に「事故」とも呼ばれます。

個人信用情報では、そのものズバリ延滞、代位弁済ではなく、基本的に異動という表現を用いています。ただし銀行員や消費者金融社員など、見る人が見ればわかる内容です。

異動は、ある意味「借金しても返せない(返さない)」という事実の証明となり、このことからいわゆる「ブラックリストに載る」という語源になっています。現実には「ブラックリスト」というリストや文書など存在しませんが、異動になることは、文字どおりブラックリストに載るようなものです。

また、異動があると原則ローンの借入はできません。原則というのは、人によっては借入できる可能性が残るというニュアンスで、ほぼ借入は不可能だと考えて下さい。その理由は、異動になる原因を見ればわかると思います。

「異動」の3つの理由

異動の理由については以下のケースがあります。一つ目は長期の延滞。長期の延滞とは、61日以上あるいは3ヵ月以上の延滞(CICの場合)を指します。長期の延滞は「定期的な返済日を守れない(守らない)」と見なされ、新しいローンを借りるのはまず無理となります。

代位弁済とは、保証会社が一括してローンの残金を払うことです。住宅ローンやカードローンでは、保証会社が融資の保証人となります。保証人になる対価として、借りる人は保証会社に保証料を支払います。

ローンが返済できなくなると、一定の期間を経たあと、融資している銀行などが保証会社に代位弁済して欲しいと依頼し、保証会社は一括してローンの残金を支払います。これが代位弁済(略して代弁とも)で、代位弁済のあとは保証会社に支払っていくことになります。

代位弁済を依頼するには、延滞の場合は2ヵ月~3ヵ月は督促して返済を促すなど、金融機関にも努力義務があります。その後、督促や手続きに問題ないと判断されると、代位弁済になります。

代位弁済は「本人以外完済」「保証履行(保証会社が立替え払いを履行するから)」などの表現で、信用情報に異動として記録されます。文字どおり、本人が返せなかった証明となるので、やはり借入はできなくなります。

「自己破産」では新規の借り入れができなくなる

裁判所に自己破産を申立て、受理されると自己破産が決定します。そして個人信用情報には「破産開始決定」などと、異動が記録されます。

自己破産とは財産も負債も手放すことで債務から逃れる法的整理です。借りても返せない(返さない)という事実が記録され、新規の借入は不可能です。

インターネット上の記事の一部には、「自己破産は異動になるが、債務整理(任意整理)や過払い金請求は異動にならないから大丈夫!」と、債務整理や過払い金請求に誘導するものがあります。しかし、信用情報機関によっては異動の記録になります。また、債務整理の結果として代位弁済になれば、こちらも異動が記録されます。

ローンが破綻すると行われる「競売」

代位弁済になり、そのあともローンを返済できないと、保証会社は自宅を強制的に売却して融資金を回収します。これが競売(けいばい)です。銀行など金融業や不動産業、法律用語ではキョウバイでなく、ケイバイと読みます。

「ローンが返せず、銀行の担保になっていた自宅を取上げられてしまった」ということが現実になります。競売になる以前にその家からは出て行かなければいけません。自己破産の場合も、自分で破産を選択した結果として自宅は手放すことになります。これが、住宅ローンが破綻する結末です。

ネット上での不正確な情報に要注意

ネットでは、いたずらに不安をあおる記事が多いのですが、それは何かのサービスに誘導しようと意図があるのではないでしょうか。銀行員として、そう感じます。

では、どうしたらいいか?次回記事では、その対策を説明していきます。

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