小惑星アポフィスの軌道変化を検出、2068年の衝突リスクに影響?

地球をかすめる小惑星を描いた想像図(Credit: ESA – P.Carril)

地球に接近する軌道を描く地球接近天体(NEO:Near Earth Object)の一つである小惑星「アポフィス(99942 Apophis)」は、将来地球に衝突する可能性があることから注視されています。今回、アポフィスが地球に衝突するリスクを評価する上で重要な軌道の変化が検出されたとする研究結果が発表されています。

■アポフィスの軌道長半径は毎年約170mずつ小さくなっている

ハワイ大学のDave Tholen氏らの研究グループは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」を使って小惑星アポフィスを観測した結果、その軌道が「ヤルコフスキー効果」によって変化していることを検出したとする研究成果を発表しました。

ヤルコフスキー効果とは、太陽に温められた天体から放射される熱の強さが場所によって異なるために生じる力で天体の軌道が変化する効果のことで、小惑星のように小さな天体ほど影響を受けやすくなります。

今回観測されたアポフィスは約323.6日周期で太陽を公転する直径約340mの小惑星で、地球接近天体(NEO)のなかでも特に衝突の危険性が高い「潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)」の一つとされています。研究グループが2020年1月と3月にアポフィスを観測したところ、ヤルコフスキー効果によってアポフィスの軌道長半径(※1)が毎年約170mメートルずつ小さくなっていることが明らかになったといいます。

※1…天体が描く楕円軌道の長半径(楕円の長軸の半分)のこと

アポフィスは2029年や2036年に地球へ接近するものの、このときに衝突する可能性はないとされています。また、NASAの地球近傍天体研究センター(CNEOS)によると、2068年の接近時に衝突する確率は15万分の1と見積もられています。しかし、研究グループは2068年にアポフィスが衝突する可能性に注目しており、ヤルコフスキー効果がアポフィスに及ぼす影響についてのさらなる調査を進めているとしています。

■アポフィスは2029年4月に地球の静止軌道近くまで接近

2029年4月に地球へ接近するアポフィスの軌道(黄色)を描いた図。水色は人工衛星、紫は国際宇宙ステーションの軌道を示す(Credit: NASA/JPL-Caltech)

なお、アポフィスは2029年4月13日地球の静止軌道と同程度の距離まで接近すると予測されており、Sky & Telescopeによると高速で移動するアポフィスが欧州やアフリカからは肉眼で見ることができるといいます。

この接近によって、アポフィスの軌道は大きく変化するとみられています。現在アポフィスは軌道長半径が1天文単位(※2)よりも小さな小惑星のグループの一つ「アテン群」に分類されていますが、Tholen氏はEarthSkyへのコメントにおいて、アポフィスが2029年の接近によって軌道長半径が1天文単位よりも大きなグループの一つ「アポロ群」に変化すると語っています。

※2…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する

Image Credit: ESA – P.Carril
Source: ハワイ大学 / CNEOS / EarthSky / Sky & Telescope
文/松村武宏

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