中国「一党独裁」体制の驚くべき中身|石平 現代中国の政治体制は「一党独裁」であることは、大半の日本人が知っている。かの国のこととなると、日本のマスコミもいつも「一党独裁」云々と言う。しかし、この「一党独裁」体制の本当の意味、その驚くべき中身を、日本のマスコミがはたして分かっているかどうかは甚だ疑問である。

日本のマスコミがはたして分かっているのか

現代中国の政治体制は「一党独裁」であることは、大半の日本人が知っている。かの国のこととなると、日本のマスコミもいつも「一党独裁」云々と言う。しかし、この「一党独裁」体制の本当の意味、その驚くべき中身を、日本のマスコミがはたして分かっているかどうかは甚だ疑問である。

日本人が普通に理解している中国の「一党独裁」とは、要するに中国共産党が政権を独占しているということであろう。この認識自体は正しい。中国の政治権力は、たしかに共産党によって独占されている。政権の交代もなければそのための選挙もないから、政権は共産党の私物である。しかしここで重要なのは、共産党が独占しているのは決して「政治権力」だけではない、という点である。

たとえば中国には人民解放軍という軍隊がある。しかし解放軍は決してアメリカ軍や日本の自衛隊のような、政党や時の政権から独立した国家の軍隊ではない。解放軍は名実ともに中国共産党の私兵部隊であり、その最高統帥部は共産党組織の中央軍事委員会である。

日本やアメリカと同様、中国にも警察がある。アメリカの警察は別に民主党の警察でもなければ共和党の警察でもないし、日本の警察は政権党の自民党に所属しているわけでもない。しかし中国の場合、武装警察も公安警察も秘密警察も全部、共産党によって掌握され、共産党の命令一つで動く。全国の警察の頂点に立つのは共産党組織の政法委員会であって、そのトップ「政法書記」は共産党政治局員か政治局常務委員の誰かが兼任する。そして公安警察のトップである公安部部長(公安大臣)の党内の地位は、この政法書記より一段下の中央委員会委員であって、政法書記の部下になるのである。

国全土の検察も裁判所も全て支配

政法書記と政法委員会が支配しているのは警察だけではない。実は、中国全土の検察も裁判所(法院)も全て中央の政法委員会と各地方の政法委員会の命令に従う立場なのである。

その中国に公正な裁判や司法などあるわけがない。政法委員会が誰かを殺そうとすれば、警察が命令どおりにこの人物を逮捕し、検察が命令どおりにこの人物を起訴し、裁判所(法院)が命令どおりにこの人物に死刑判決を言い渡す。形式的な弁護士制度はあるが、弁護士自身が共産党員である場合は当然、政法委員会の命令に従う。党員でなくても政法委員会に逆らえない。逆らえば、その弁護士自身が政法委員会の命令で逮捕されるからだ。

新聞やテレビや雑誌社などのメディアも全て牛耳る

さらにもう一つ、共産党が完全に支配しているのが全国の新聞やテレビや雑誌社などのメディアである。「宣伝機関」と呼ばれるこれらのメディアを牛耳るのは、「党支部」と呼ばれる共産党組織であるが、その総元締めの党組織は共産党中央宣伝部だ。新聞社やテレビ局のトップは、各党支部の一員として中央宣伝部の命令に従って党のための宣伝工作を行うことを仕事としなければならない。

日本の場合に譬えてみれば、朝日新聞や日経新聞も産経新聞も、そしてフジテレビやテレビ朝日もTBSも皆、毎日のように共産党中央宣伝部の指示に従って共産党を賛美する社説やの記事を書き、中央宣伝部の指示に従って、本来なら伝えるべき真実を隠蔽するのである(ちなみに、現在の日本の朝日新聞の社説を読んでいると、この新聞社がすでに「党中央宣伝部」の命令に従って記事を書いているのではないかと思うこともあるが、これは不肖の私の錯覚だろうか)。

国内政治や宣伝だけでなくて、中国の外交も当然共産党の指揮下にある。外交の司令塔は、共産党の中枢部に設置されている「中央外事工作領導小組」であって「組長」は共産党総書記の習近平だ。外交部長(外務大臣)の王毅は所詮、党中央委員会の平の委員の一人として、習近平の部下のまた部下である。

各国の中国大使館も領事館も、「中央外事工作領導小組」のさらなる下部組織として党の指揮下にある。大使や領事館の領事は皆共産党員であって、大使館や領事館に設置されている党支部のトップや支部員として仕事をする。

そして党支部は所在国の中国企業や中国人組織のなかでもさらなる党の支部を作って活動する。いざというとき、外国にある中国企業や中国人組織は党の命令に従って中国の国益のために、その所在国の国益を損なう活動を行う場合もある。万が一、中国がどこかの外国と戦争になった場合、この外国にある共産党支部が一斉に動き出して攪乱・破壊などの活動に出ることも考えられる。

このように、中国の「一党独裁」とは、中国共産党がこの国の軍隊・警察・メディア・対外機構のすべてを完全に支配下に置いていることであるが、この一党独裁の末端組織は、外国であるはずのわれわれの近くにも侵食してきている。実に恐ろしいものである!(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)

石平

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