授乳中の「産後うつ」治療どうすればいい? 産後ママが受診をためらう理由

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産後うつで辛くても、心療内科の受診をためらう産後ママは少なくありません。産後うつに処方される十全大補湯、補中益気湯、抑肝散などの主な漢方薬の種類と効果、心療内科を受診すべき目安、授乳中の服薬について解説します。

産後うつの悩み……育児や授乳を理由に心療内科が受診できないことも

クリニックでお受けしている漢方相談では、赤ちゃんの誕生を心待ちにしていた方でも、産後うつの症状に苦しんでしまう方を多く見受けます。産後うつは気持ちの問題ではありません。

「少し気分が落ち込んでしまって、ふとした時に涙が出てしまいます」という状態から半年ほどで自然に落ち着かれた方もいれば、「どうして子供を産んだのか分からなくなってしまって、主人とも喧嘩を繰り返すようになり、離婚することにしました」と決断され、ご自身のご両親と子育てをされている方まで様々です。

また、授乳中で母乳への影響を心配し、辛い状態でも心療内科を受診したり薬を飲んだりすることをためらう方もいらっしゃいます。

産後うつに処方される主な漢方薬の特徴と効果

授乳中で産後うつに悩まれている方からは、「心療内科の薬は少し心配ですが、漢方なら安全なのではと思って相談にきました」とお話をいただくことも多いです。

漢方では、産後は、

・エネルギーが不足する「気虚」

・血を含む栄養素が不足する「血虚」

の強い状態と考えますので、これらを改善する処方が中心になります。

加えて、メンタルの不調として落ち込みが強いのか、イライラの症状が強いのか、などの状態を弁証し処方を決定します。よく処方される漢方薬は次の通りです。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)……気血両虚タイプ

全身の気と血が減少すると、それにより脾胃(胃腸)の働きが悪くなったり、さらなる体力の低下や貧血、低血圧が起こったり皮膚の状態が悪くなったりします。また、血流も悪化し倦怠感や手足の冷えも出てきます。このような気血両虚タイプの方には「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」を処方します。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)……気虚タイプ

気の低下が著しく胃腸の不調が強い場合には、まずは気の回復を目指すことがあります。子宮や内臓下垂がある時には、升麻(しょうま)という生薬の含まれる補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を処方します。

加味逍遙散(かみしょうようさん)……肝気鬱結タイプ

情緒不安があり、少し怒りっぽくイライラして、胸の張りや頭痛なども多く不定愁訴の訴えが多い肝気鬱結タイプの方には「加味逍遙散(かみしょうようさん)」を処方します。

抑肝散(よくかんさん)……肝鬱化風タイプ

ストレスを受けると怒りやすくイライラが強くなり、コントロールができなくなる、また、睡眠を取ろうとしてもなかなか寝付けないなど、不眠や神経症が産後うつの症状として強く現れている肝鬱化風タイプの方には「抑肝散(よくかんさん)」を処方します。

帰脾湯(きひとう)……心脾両虚タイプ

疲労やストレスによる脾気の低下によって胃の働きが低下し、体力の低下、貧血などの症状があるのに加えて、心血の不足によって精神活動が不安定になり、健忘や不安、不眠などの症状がある心脾両虚タイプの方には「帰脾湯(きひとう)」を処方します。

産後うつの症状が強い場合は、授乳中でも心療内科の受診・相談を

一言で産後うつといっても、それぞれの症状にあわせ、上記のような漢方薬から適したものを選ぶことが大切です。自分ではどのタイプかがわからないことも多いと思いますので、最初は専門家に漢方薬を処方していただける機関を受診するのがよいでしょう。

そして基本的には、うつ症状が強い場合には心療内科などの専門機関を受診していただくことをお勧めしています。授乳中であっても授乳を継続したいという希望を伝えれば、母乳への安全性を考慮した処方を検討していただけますので、可能なら一度は受診してみましょう。

現在の保険適用の処方であれば、授乳中に禁忌のものはありませんが、母乳を通じて赤ちゃんにも作用をすることがあります。服用量などにも左右されますので、ご自身の判断ではなく専門家に相談するようになさってください。

産後で辛い時には一人で抱え込まず相談を

産後ママからの相談をお受けしていると、産後の悩みはさまざまです。SNSなどで育児を楽しまれている他のママと自分を比べてしまったり、両親や義両親などの身近な方から「理想の母親」を押し付けられたりする方などがいます。誰かの育児と比較して苦しくなってしまう方や、自分はダメな母親だとご自身を責めてしまう方は少なくありません。

特に普段なら受け流せることも、産後間もなく、睡眠不足も重なって心身のダメージを受けている時には、心に重くのしかかってしまうことがあります。

私自身、産後すぐは睡眠不足が続き、周りに甘えられる人がいなかったので追い込まれてしまい、体調を崩してしまった経験があります。その時には必死だったので、誰かに甘えることが「情けないこと」と感じていましたが、完璧な家事や育児に取り組むよりも、赤ちゃんや家族が幸せに過ごすためにはママが笑顔でいることを優先すべきだったと感じています。

また元気になれば頑張ることはいつでもできます。

まずは、今、あなたが辛いことを一人で抱えずに、公的支援や民間のサービスの利用もぜひ検討していただきたいと思います。

■参考

抑肝散加陳皮半夏・加味逍遙散が産後うつ傾向に著効した症例(漢方臨床レポート)

住吉 忍プロフィール

大阪薬科大(現大阪医科薬科)卒業、薬剤師・国際中医専門員。相談薬局で生まれ育ち、調剤薬局、漢方薬局勤務を経て、薬店を開業。西洋医学の不妊治療に適した漢方処方の提案を得意としており、複数の不妊治療専門クリニックで漢方外来を担当。不妊治療、妊活期間の心身の不調をサポートしながら、妊活に関する的確な情報発信を行っている。

(文:住吉 忍(薬剤師))