ホンダ陣営がトップ5独占の快挙。ついに歯車が噛み合ったARTA NSX-GTが今季初優勝【第7戦もてぎGT500決勝】

 2020年スーパーGT第7戦、シーズン2度目の開催となったツインリンクもてぎでのGT500クラス決勝は、2番手スタートのARTA NSX-GT、野尻智紀/福住仁嶺組が、シーズン序盤から速さを披露しながらレースの結果だけが手にできないもどかしい時間を乗り越え、ついに今季初優勝を果たした。チェッカーを受けた福住にとっても、うれしいGT500初勝利を獲得。その背後にも4台のNSX-GT勢が並び、ホンダ陣営が地元戦で1-2-3-4-5の快挙を成し遂げた。

 富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎの3会場のみで争われている2020年カレンダーも、いよいよ最終2戦に突入。成績に応じて搭載されるウエイトハンデ(WH)も『半減』から『ノーウエイト』へと変化し、この点ではいつもどおりタイトル争いに向け緊迫した展開が繰り広げられる。

 例年、この週末が最終戦としての開催だったツインリンクもてぎだが、今季は第7戦としてポイント×1kgのハンデが適用となり、従来までの250kmと短いレース距離にハンデのない”ノーガード”決戦から一転、今季はこのウエイト感度の高いストップ&ゴーのトラックで、50kg近いウエイトを搭載しながら300kmを戦い切る戦略が求められる難易度の高い1戦となった。

 その条件を反映するかのように、土曜の予選では選手権首位を行くWH47kgのWAKO’S 4CR GRスープラや、同WH46kg搭載のランク2位、KeePer TOM’S GRスープラ、そしてホンダ陣営でランキング3位に並ぶKEIHIN NSX-GTらがQ1敗退となり、決勝は厳しいグリッド位置からの勝負に。

 決勝は最前列からトップ3を固めた比較的ウエイトの軽いNSX-GTの3台(3番手のRAYBRIG NSX-GTは38kgを搭載)や、45kgを搭載しながら予選4番手につけたMOTUL AUTECH GT-Rに対し、タイトル候補のQ1敗退組がどこまで巻き返せるかが焦点となった。

 快晴に恵まれた8日(日)は、今季初めてツインリンクもてぎに詰めかけたファンの上空を、航空自衛隊松島基地所属のF-2B戦闘機がデモフライトを演じ、秋晴れの観戦日和を祝福。その余韻が残るなか午前11時40分からの決勝前ウォームアップ走行を経て、13時決勝スタート時には湿度68%で気温22度と予報どおりの暖かさに。路面温度も29度まで上昇して、63周300kmレースのスタートを迎えた。

 フォーメーションラップから1コーナーへと雪崩れ込んだGT500の隊列は、大きな混乱なくクリーンにオープニングラップを進め、首位のModulo NSX-GT(大津弘樹)が早くも後続を引き離しに掛かる。

 一方でニッサン陣営には厳しい状況が重なり、8番手にいたCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rはウォームアップ走行での4輪脱輪でペナルティが課されピットレーンへ。ときを同じくして、リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rはコースサイドで一旦マシンを止め、再スタート後にピットへと向かうことに。

 GT300クラスのバックマーカーが現れ始めると、Q1敗退組でまずKEIHIN NSX-GTのベルトラン・バゲットが勢いを見せ始め、6番手を走るZENT GRスープラ立川祐路のテールに喰らい付いていく。

 さらに10周目を前にダンロップタイヤのドロップダウンが始まったか、首位の大津がじりじりとペースダウン。その背後にARTA NSX-GTの野尻智紀が迫りメインストレートでスリップに入ると、続く1コーナーで鮮やかにインを刺し、野尻がNSX-GT同士の勝負を制してトップへと躍り出る。

 Modulo NSX-GTは続く11周目に3番手のRAYBRIG NSX-GT(牧野任祐)の挑戦も受け、12周目のダウンヒルストレートエンド、90度コーナーで前を明け渡す苦しい展開となってしまう。

 その流れに乗ろうと背後まで迫っていたMOTUL AUTECH GT-Rのロニー・クインタレッリだが、15周をすぎてまさかのペースダウンとなり、17周目に5番手へと浮上してきたZENT GRスープラの立川にオーバーテイクされることに。

 このバトルを契機に数珠つなぎとなったランキング上位勢がトレイン状態に陥り、サイド・バイ・サイドの軽いコンタクトも起こり、8番手のau TOM’S GRスープラのマシンからはパーツが飛散するなど、マシンに何らかのダメージを負う状態となる。

 レース距離の3分の1となる21周を過ぎ、ルーティンのピットウインドウが開くタイミングで、トラック上のポジションをひとつでも奪おうと鬼気迫るアタックを続けていたZENT GRスープラの立川が、ついに90度コーナーでModulo NSX-GTの大津を攻略して表彰台圏内の3番手へと上がってくる。

 23周目に首位のARTA NSX-GTがGT500で最初にピットへと飛び込み、47秒フラットの静止時間で福住仁嶺へとドライバーチェンジ。同じ周で4番手に落ちていたModulo NSX-GTもピットレーンへ向かい、大津から先輩・伊沢拓也に後を託すこととなる。

 するとその直後、V字コーナーでの停止車両回収のため突如セーフティカー(SC)導入が宣言され、前戦の鈴鹿ラウンドを彷彿とさせるようなタイミングでのレース仕切り直しに。これにより、直前でピット作業を終えていた2台のNSX-GTは俄然、有利な展開に持ち込むことに。

 隊列整理を経て29周目にSC解除が宣言されると、リスタートに向けヘアピン手前から首位を走るRAYBRIG NSX-GTの牧野が超スロー走行で後続を牽制すると、ダウンヒルストレート中盤で90度コーナーに向け急加速を見せる。

 するとその動きに釣られた2番手ZENT GRスープラの立川はブレーキでロックアップしオーバーシュート。なんとか2番手には留まったものの、そのままホームストレートへ向かった牧野は大きなマージンを手にしてピット作業時間を稼ぎ出すべくスパートを掛ける。

 そのRAYBRIG NSX-GTに続き、au TOM’S GRスープラ、WAKO’S 4CR GRスープラ、Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT、DENSO KOBELCO SARD GRスープラらがピット作業を遅らせる判断を下し、それ以外のマシンは一斉にピットレーンへ。このとき作業時間でMOTUL AUTECH GT-Rを上回ったKEIHIN NSX-GTだが、ピットを離れた直後の2コーナーで再びかわされてしまう。

 続く30周目にピットへ向かったRAYBRIG NSX-GTは、牧野の頭脳プレーとインラップで稼いだマージを活かし、山本尚貴を3番手でコース上へと送り出す。同じラップでWAKO’S 4CR GRスープラ、続く周回で残るau TOM’S GRスープラ、DENSO KOBELCO SARD GRスープラがピットを終えると、4番手にRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの笹原右京が浮上し、首位ARTA NSX-GTから、Modulo NSX-GT、RAYBRIG NSX-GT、そしてRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTと、ホンダ陣営NSX-GTの1-2-3-4体制が完成する。

 レースは40周を過ぎ、先頭2台のNSX-GTがコース半周以上の大きなリードを築き、5番手のMOTUL AUTECH GT-R松田次生以下、KEIHIN NSX-GTの塚越広大、KeePer TOM’S GRスープラの平川亮と、選手権を争うコンテンダーがトップ10圏内でわずかなポイントも逃すまいと接近戦を繰り広げる。

 47周目にはその背後で集団を追走して9番手を走っていたCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの千代勝正が、2コーナーを回ったところで車両に異変を感じたか、グリーンに退避してマシンを止めてしまう。

 するとその翌周、ついにそのタイトル戦線に動きがあり、ミシュランタイヤのライフが厳しくなってきたか、5番手のMOTUL AUTECH GT-R松田が2コーナーでKEIHIN NSX-GTの塚越にアウトから行かれると、続く5コーナーではKeePer TOM’S GRスープラの平川にもインを突かれ7番手にまで後退。これでシリーズポイントの行方はさらに混沌とする展開に。

 30周時点で25度、50周時点で23度と、路面温度もジリジリ下がり始め、日も傾いてきたレース終盤。9番手争いを繰り広げるZENT GRスープラの石浦宏明が、WedsSport ADVAN GRスープラの宮田莉朋をかわしてタイトル戦線への執念を見せる。

 その間も首位のARTA NSX-GTは盤石のクルーズを見せ、福住が待望のフィニッシュラインへ。シーズン序盤から噛み合わなかった歯車がようやく動き出し、ARTA NSX-GTが今季初優勝を獲得した。

 2位にModulo NSX-GT、3位にRAYBRIG NSX-GT、4位にRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT、そして5位にKEIHIN NSX-GTが入り、ホンダ陣営はお膝元であるもてぎで1-2-3-4-5独占の快挙を達成。ポイントランキングはKeePer TOM’S GRスープラの平川とは同ポイントであるものの、勝利数の関係で塚越広大とベルトラン・バゲットがチャンピオンシップ首位への返り咲きを果たした。

2020年スーパーGT第7戦もてぎで今季初優勝を果たしたARTA NSX-GTの野尻智紀と福住仁嶺

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