新型ゲーム機PS5を発売前に体験 臨場感と映画のような物語展開が売り

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

 ソニーの子会社、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の新型家庭用ゲーム機「プレイステーション5」(PS5)が12日木曜日に発売される。一大商戦のクリスマスを控え、9月に購入予約をオンラインで受け付けたノジマの抽選倍率が100倍を超えるなど購入希望者が押し寄せている。発売前にPS5を体験した筆者は、コントローラーの改良でゲームの世界に飛び込んだような臨場感を体験できることと、まるで映画のように場面がスムーズに切り替わる物語展開に目を丸くした。 (共同通信= 大塚圭一郎)

ソニー・インタラクティブエンタテインメントの新型家庭用ゲーム機「プレイステーション5」と「アストロズ プレイルーム」ゲーム画面=11月6日午後、東京都港区

 ▽ギネス認定のゲーム機

 プレイステーションは昨年12月、ギネス・ワールド・レコーズから「世界で歴史上最も多く売れた家庭用ゲーム機」としてギネス世界記録に認定された。初代型が1994年に登場して以来、6~7年おきに新型機を出しており、現行機の「プレイステーション4」(PS4)まで4世代の今年9月末までの世界販売台数は累計4億5830万台以上に達する。

 ただ、PS4は最大市場の米国などで2013年11月に発売されたのに対し、日本では一足遅い2014年2月と3カ月遅れたため愛好家からは「ソニーは日本企業なのに日本市場を後回しにするのか」という不満の声が渦巻いた。

 競合する米マイクロソフトの現行機「Xbox One X(エックスボックス ワン エックス)」の日本発売も14年9月と、米国の13年11月から約10カ月後にずれ込んだ。ゲーム機の生産には最先端の中央演算処理装置(CPU)と、画像処理半導体(GPU)といった高性能部品が必需品で、こうした部品の安定供給を受け、生産態勢を整えるまで十分な台数を供給できないという事情がある。

 しかし、SIEはPS5を最初に発売する国に日本を含めた。マイクロソフトの新型機「Xbox Series X(エックスボックス シリーズ エックス)」も日本が最初の国として11月10日に売り出される。

 ▽雪のような白いカバー

 まるで雪のような白いプラスチック製カバーに黒い本体が包まれたデザインのPS5は、2機種が用意される。うちゲームソフトや動画ソフトのブルーレイのディスクを使える基本モデルは希望小売価格が税抜き4万9980円で、PS4の最も安いモデルの2万9980円より2万円高くなる。一方、インターネットからダウンロードしたソフトだけを遊べる廉価モデルは3万9980円に抑えた。

「プレイステーション5」=11月6日午後、東京都港区

 大きさはそれぞれ幅が39センチ、奥行きが26センチで、高さは基本モデルが10・4センチなのに対し、廉価モデルは9・2センチと一回り小さい。設置用の円形の土台が一緒に用意されており、本体を縦にも横にも置くことができる。

 PS4などから買い換えるユーザーに加え、新たな顧客も獲得したい考えで、SIEは2020年度の世界全体での販売台数目標を「PS4の販売初年度実績の760万台を超えることを目指す」と鼻息が荒い。

 ▽鍵はコントローラー

 PS5の臨場感あふれるゲーム体験を実現した鍵が、操作に使うコントローラーの刷新だ。コントローラーが震える振動機能を改良し、人間の感覚により訴えるハプティック技術を採用した。

「プレイステーション5」=11月6日午後、東京都港区

 私はPS5に最初からインストールされているゲーム「ASTRO’s PLAYROOM(アストロズ プレイルーム)」を遊ばせてもらった。主人公「アストロ」がさまざまな場面を冒険してPS5の機能を知ることができる内容で、氷上を滑る場面ではまるでスケートをしているような感覚を味わえた。

「プレイステーション5」の「アストロズ プレイルーム」のゲーム画面=11月6日午後、東京都港区

 海中やプールに入ると、水かきをするような抵抗を味わうことができた。SIEは「例えば自動車レースのゲームで運転操作を誤って壁に衝突した場面と、アメフトのゲームで相手にぶつかっていく場面で大きく異なる感覚を受ける」と説明する。

「プレイステーション5」の「アストロズ プレイルーム」のゲーム画面=11月6日午後、東京都港区

 コントローラーの後ろ側の下に付いている引き金のような形のボタンは、普段は軽く押すことができる。だが、空気銃を撃つ場面で押すと抵抗感が出て、トリガーを引いているような重みを感じた。このボタンは「アーチェリーのようにプレイヤーが弓を引き絞る手の感触や、自動車でごつごつした岩場の道を加速させる場面の感覚を再現できる」という。

 ▽映画のようなゲーム体験

 PS5をいち早く遊んだゲーム会社社長は「次々と場面が変わり、まるで映画を見ているようなゲーム体験を満喫できた。ゲームを遊んでいる途中で次の画面に映る際、待ち時間の画面で表示されていた『Now Loading』(読み込み中)などと書かれた場面が出てこないんだ」と驚いていた。

 それを可能にしたのは、PS4などがデータの読み書きにハードディスク駆動装置(HDD)に代わり、読み書き速度が非常に速い半導体メモリのソリッドステートドライブ(SSD)を内蔵したことだ。PS4はゲームの新たな場面を表示するのに数秒から十数秒を要していたが、PS5のSSDは1秒当たり5・5ギガバイトと「PS4の約100倍の読み込み速度を実現した」(SIE)という。

 下手の横好きであるゲーム愛好家の私は「アストロズ プレイルーム」を遊んでいる際、操作ミスでアストロを何度も川の中に沈めてしまったり、敵の攻撃に遭ったりしてゲームオーバーとなる場面を体験した。ところが、まるでパンチを浴びてマットに沈んでもすぐに起き上がるボクサーのように、ほぼ待ち時間がなく再開できる。このため、ゲームオーバーになって「あー、失敗した」と後悔する間もなく再チャレンジでき、ストレスなくデモ画面の最後までたどり着くことができた。

 ▽人気映画が題材の作品も

 高性能のPS5に対応し、高精細な画面でゲームの世界に飛び込んだようなゲームソフトも広く用意される。期待を集めている作品の一つのが、ソニーグループが抱える人気映画「スパイダーマン」シリーズを題材にした11月12日発売の「スパイダーマン:マイルズ・モラレス」だ。

  ニューヨークを舞台にエネルギー企業と犯罪組織の抗争が起き、プレイヤーは主人公のマイルズ・モラレスことスパイダーマンとなって犯罪組織と闘う。スパイダーマンは、対戦に巻き込まれて危機に陥った市民も見つけ、1人残らず助け出すという正義の味方らしい任務も着実に遂行する。

 来年には、カプコンの人気サバイバルホラーゲーム「バイオハザード」の新作「バイオハザード ヴィレッジ」が売り出される。また、1997年12月に第1作が売り出されたポリフォニー・デジタルのレーシングゲームの最新作となる「グランツーリスモ7」もPS5に対応する。発売日はまだ公表されていないが、進化したコントローラーの機能を生かしてアクセルを踏んで加速する爽快感や、曲線でハンドルを切る時の迫力、ブレーキを踏んだ制動の感覚などを味わうことができそうだ。

 さらに、PS5は既に発売されている4千を超えるPS4向け作品のほぼ全てを遊ぶことができる。

 ▽「巣ごもり」で追い風も

 ファミ通によると、家庭用ゲーム機の2020年度上半期の国内市場は702億1千万円と前年同期より約22%伸び、対応ゲームソフトも815億9千万円と約42%増えた。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に「巣ごもり消費」が広がり、任天堂のゲーム機「ニンテンドースイッチ」と、対応ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の大ヒットが市場拡大をけん引した。

 SIEはPS5を年末商戦に向けて売り出すことで、ゲームソフトだけではなく、ソニーグループの強みとなっている映画や動画といった幅広いコンテンツを提供してユーザーの選択肢を広げ、収益を増やす戦略とされる。

 いつでもどこでも手軽に遊べるスマートフォン向けゲームも普及してきたが、精細な画面で没入感あふれるゲームでは家庭用ゲーム機に軍配が上がる。ゲーム開発会社幹部は「PS5向けの大型ゲームソフトの開発費が30億~40億円に上る」と打ち明ける。

 本格的なゲーム体験を提供するツールとして愛好家が待ちわびていたPS5と、「Xボックス シリーズX」という本格派ゲーム機が売り出されるこの年末の家庭用ゲーム機戦線は、ゲームさながらの白熱した展開になりそうだ。

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