米南部人が大好きなフライドチキン、バーガーになって大混乱!

 NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は米南部の名物料理のひとつであるフライドチキンをバンズに挟んで売り出しただけで大騒ぎになってしまった件について。

南部が誇る、ふたつのフライドチキンのチェーン店

 アメリカ南部のソウルフードのひとつ、フライドチキン。もちろんアメリカのどこでも食べられているが、南部のフライドチキンというのは独特なケイジャン・スパイスが効いていて、外側はかりっと香ばしく、肉はジューシーでとても美味しい。

 そんな南部地域から発祥したフライドチキンのファストフード・チェーンの有名店といえば、当サイトでも以前に紹介した「チックフィレイ(Chick-fil-A)」と、「Popeyes(ポパイズ)」だ。日本未上陸のチックフィレイは絶大な支持を得ており、チキンバーガーをはじめ、グリルや揚げたチキンなど様々なチキンがメニューを飾っている。余談だが、アメリカではビーフをバンズに挟んだもの以外はバーガーとは呼ばないため、チキンを挟んだものはチキン・サンドイッチと呼ばれるのだが、便宜上ここではチキンバーガーと呼ぶことにする。

 そんなチックフィレイに対抗して、南部ルイジアナ州特有のスパイスを効かせたフライドチキンを提供する人気チェーン店「Popeyes(ポパイズ)」が、独自のチキンバーガーを売り出すと広告を出したことが大騒ぎの始まりだった。

そこまでして食べたい、そのチキンバーガーのお味は?

 個人的には、南部らしい丁寧なカスタマーサービスを誇る「チックフィレイ」に「Popeyes」は勝てないだろうと思っていたのだが、これがビックリ。

 「Popeyes」はSNSのインフルエンサーたちを巻き込んで同社チキンバーガーの発売をあおり、それをきっかけにツイッターにはチキンバーガーを扱う大手チェーン店数店が参入、しまいには互いを否定、罵り合うなどしてこのトピックが沸騰したのである。

 メディアまで巻き込んで「チキンバーガー戦争の勃発だ」などと騒がれた結果、「Popeyes」のチキンバーガーはアメリカ全土で在庫がなくなるほどの人気となり、「SOLD OUT(売り切れ)」状態が続いた。テキサス州ヒューストンでは、わざわざ店舗に出向いたのに、売り切れだと言われて激怒した客が店員に銃を向ける事件が2019年9月に発生。テネシー州では「売っていないのに嘘の広告を出した」として同社を訴える人も現れた。この大々的なSNS戦略に打って出た「Popeyes」は、「ここまでネットの影響が現れるとは思わなかった」と話していると新聞に載っていたが、苦笑いでは済まされない事態といえるだろう。

 ちなみに、「売り切れ」の看板を出し続けていた「Popeye」では、3本のチキン・テンダー(子供に人気の骨なしフライドチキン・スティック)を注文して、バンズを持参すればチキンバーガーが出来ますよ!と、ちょっと意味不明な対応をしたが、それによって事態はやや落ち着きを見せ始めたそうだ。

 「チキンバーガーを食べたい」からと銃を持ち出す人がいたり、SNSで他社の商品を罵ったり、商品が売り切れだったから店を訴えるなんて、まったくバカげていてアメリカらしい話だと思う。だから、バカげているとは思いながらも、私もその味を試してみたくてPopeyeへ出向いたら、そこにも「SOLD OUT」のステッカーが貼られていた(笑)。

 しかし、ここまで出し惜しみをされると、「これは食べてみたい!」と思う気持ちも分からなくもない。再び売り出されたら、「どれどれ、試してやるか」という感じで、一度くらいは買いに行ってしまうだろう。まんまと「Popeyes」のマーケティング戦略に乗せられた気がしているのは、私だけではないはずだ。

(2019年10月公開記事)

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