DTM:序盤の苦戦から一転、驚異の追い上げで連覇達成。ラスト自身も「信じられない」

「あまりにもできすぎて、信じられない」。母国ドイツ・ホッケンハイムで行われた第9戦のレース2で、ライバルのニコ・ミューラーよりも10秒早く最初のチェッカーフラッグを受けたレネ・ラストは戦いを終えてそう述べた。

 11月7~8日に開催されたDTMドイツ・ツーリングカー選手権第9戦ホッケンハイム。前述のふたりにロビン・フラインスを加え、計3名がチャンピオン獲得の権利を持って迎えた最終決戦は、レース1で2位、レース2では優勝を飾ったラストがシリーズ連覇を達成する形で幕が下ろされた。

 すべてが終わった今となっては、ディフェンディグチャンピオンが強さをみせて連覇を果たしように片付けられてしまうかもしれない。

 しかし、王者として迎えたラストの2020年シーズンは決して楽なものではなく、それは「5、6週間前に誰かがこの結果を予想していたら(僕は)その誰かに『モータースポーツのことを何もわかっていない』と言っていただろう」という彼のコメントからも感じるとることができる。

 ドイツだけでなく周辺国でもイベントが開催されるDTMは、他のスポーツと同様に新型コロナウイルスの流行による影響を受け、シーズンカレンダーの変更を余儀なくされた。

 そんななか8月になってようやくシーズンが開幕すると、アウディ勢がライバルのBMW勢を圧倒する成績を収める。しかし、ラスト自身は第1戦スパ・フランコルシャンのレース2で3位表彰台を得るも、陣営の勢いに乗り切ることができずにいた。
 
 第2戦からのラウジッツリンク連戦でミューラーの開幕3連勝を止める今季初優勝を飾り続けて2勝目を飾ったが、ラウジッツリンクの4レース目からアッセンの2レースにかけては表彰台から遠ざかってしまう。

 調子が上向いてきたのはニュルブルクリンクの連戦からで、この4レースすべてでポディウムフィニッシュを達成。これで火がついたか終盤戦のゾルダー連戦では圧巻の4連勝を飾り、シリーズランキングトップに浮上してみせた。

 そうして迎えた最終戦ホッケンハイムでは、2レースともにポールポジションを獲得すると、レース1はミューラーとの直接対決に敗れ2位となったが、運命のレース2では“王者”の名にふさわしい圧倒的なスピードをみせてライバルをねじ伏せ、堂々のトップフィニッシュ。その瞬間、ラストの連覇そして通算3度目となるタイトル獲得が決まった。

DTM最終戦ホッケンハイムではレース1、レース2のいずれもランキング2位のニコ・ミューラーとの直接対決となった。
2020年シーズンのチャンピオンとなったレネ・ラスト(アウディスポーツ・チーム・ロズベルグ)

■クルマに触ることを禁じられていたラスト

「とてもエモーショナルなものだった」と、最終戦をふり返ったラストはレース中、頭の中にさまざまな雑音が流れ、集中力を維持するのに苦労したことを明かした。

「僕たちはこれまで夢見ていた以上のことを達成した。わずか4年で24回の勝利を挙げ、僕はいま、もっとも成功したアウディDTMドライバーだと思っている」

「今回、3度目のタイトルを獲得したが、1年後にここまでの困難を迎えるとは思っていなかった。それだけシーズン前半はペースがなかったんだ」

「それでも、表彰台を獲得し、ロビン(・フラインス)とニコ(・ミューラー)の近くに留まるために充分なポイントを獲得し続けた。ゾルダーでは自分自身に火をつけ、4レース連続で勝利し、最後の週末をリードして迎えることになった」

「(ホッケンハイムでは)予選とレースの両方で力強いパフォーマンスを見せることができ、今日こうしてタイトルを獲得した」

 ラストは33号車アウディRS5 DTMを担当したメカニックやチームクルー、その他関係者に向けて、「クルマは本当に素晴らしかった。チームのみんなに本当に感謝している」とコメント。

「彼らが成し遂げたことは素晴らしいことだ。皆が僕のクルマを愛してくれていて、僕が時々触ることすら許されないほど、彼らにとって神聖なものだったんだ」

「僕の担当クルー、メカニック、チーム・ロズベルグの全員、そしてもちろんアウディスポーツの素晴らしいクルマに感謝している。僕はいま、とてもハッピーだよ!」

チャンピオン獲得の喜びを全身で表現するレネ・ラスト(アウディRS5 DTM)
レネ・ラストがドライブするアウディRS5 DTM 2020年DTM第9戦ホッケンハイム

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