やり残した宿題を背負ってタイトルを目指す平川。見つけた『ふたつの課題』は富士での武器

「昨日終わった段階では『これ、終わったな』ってのが正直なところで。『こりゃ、チャンピオン無理だな』って感じはありました」

 近年まれに見る緊迫のタイトル戦線となったGT500クラス。そんな超接戦の渦中で、長年パートナーを務めたニック・キャシディ離脱という厳しい環境での勝負を強いられたKeePer TOM’S GR Supraの平川亮は、13番手に沈んだ予選Q1敗退の瞬間を振り返る。

 ともにチャンピオンを獲得したキャシディへの想いは「複雑。だけどシーズン中盤ぐらいから(フォーミュラEへの挑戦は)分かっていたので、お別れとかはとくにない。彼も残り2回出たかっただろうし」と語り、パートナーの決断を尊重する意思を示す。

 金曜朝もクルマのセッティングに関してやりとりをかわしたというふたりだが、キャシディにとっては”やり残した宿題”のような形になった心情を想うかのように、平川は土曜午前の走り始めから精力的に周回を重ね、セッション大半でセットアップの煮詰めに没頭。コースイン直後にはすぐさまタイムを出し、そこからロングランを集中的にこなすなど、これまでの信頼関係と”キャシディの分まで”という決意をも感じさせた。

フォーミュラE参戦準備のためスーパーGTの終盤2戦を欠場することになったニック・キャシディ

 大事な終盤2戦に向け、新たに迎えたパートナーは2019年のGT500クラスチャンピオン。ドライビングスタイルは異なれど「彼(山下健太)もプロなんで、そこ(運転)は合わせて来ると思う。クルマはクルマでここまでやってきたことを引き続きやりますし、それに彼も合わせてくれると思う。逆に言えば、どういうクルマでも乗ってくれると思うんで、あまり気にしてないです」と、あくまで従来の方向性を継続する仕立てとした。

 しかし予選に向けたセットアップ変更が裏目に出たこと。専有走行で履いたソフト側から、予選では決勝を睨んだハード側のタイヤを選択したこと。そしてライバル陣営が「秒単位でタイムアップする想定外」などが絡み、コンマ3秒程度の差ながらまさかのQ1敗退。

 山下にステアリングを託したKeePer TOM’S GRスープラは、当初アタック想定とした計測3周目でもタイヤが温まり切らずテールが動き、午前の結果から前方グリッド、あわよくばポールまで狙えそう……という感触は、続くアタックラップのセクター1表示を見た瞬間に消し飛ぶ。

「別にヤマケンが失敗したとかそういうのはなくて。でもここはもてぎなので、決勝は荒れる。ヤマケン、去年の富士では良い(セーフティカー出動直前の)タイミングで入ってますし、それをやってくれれば。それだけでいいです(笑)」

 いつもの250kmレースとは違い、300kmのレース距離に46kgの搭載ウエイト、気温の低さによるグレイニング対策も施しながら、チームはここでも山下をスタートドライバーとした。

 13番グリッドから「あまり挽回できる感じはしていなかった」が、信頼に応えた山下がペナルティ消化やトラブルで止まった前方車両も含め、1台、また1台とオーバーテイクを決め、8周目にはトップ10圏内へ。16周目以降はトヨタ陣営内のGRスープラを3台仕留めて、20周時点で7番手にまで上がってくる。

 その姿を見て「モチベーションが上がった」という平川だが、直後に大きなターニングポイントとなるセーフティカーが導入され、KeePer TOM’S GRスープラは解除と同時組の集団でピットへと雪崩れ込み、ここで平川がバトンを受け取る。

 コールドタイヤのアウトラップでバトルをしWedsSport ADVAN GRスープラを仕留めた後は、選手権での直接的ライバルになるKEIHIN NSX-GTを追走。47周目には塚越広大を逃すまいと、落ちて来たMOTUL AUTECH GT-Rを同一ラップでかわして6番手に上がり「ここ2戦の富士とか鈴鹿はクルマの調子が悪くてレースできなかったので、その意味でも久々にレースできて楽しかったです」と、そのままのポジションでチェッカーを受けた。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/山下健太)

 フィニッシュ直後は「6位だとチャンピオンシップ『ちょっとキツいかな』と思っていたら、意外に大丈夫だったので結構驚いた」という平川だが、そのKEIHIN NSX-GTと51点の同ポイントでドライバーランキング首位に立ちながら、今回のもてぎで見えた『ふたつの課題』も明かしてくれた。

「NSXとの差は、まずピットストップのことで言えば作業時間が短い。燃費が全然良いんだと思います。1割は行かないと思うんですけど、それに近いくらい燃費は良くて、ピット作業で逆転されちゃうとか、前に居たらギャップを広げられちゃう。あとはダウンフォース的に出てると思うので、もてぎとかダウンフォースの必要なサーキットではこちらが厳しい。あとは今日、エンジンがあまり良く回ってなくて。そこも負けた要因かな」と平川。

 いよいよ迎えるはノーウエイトの最終決戦、その舞台は富士スピードウェイとなる。言わずと知れたトヨタ陣営のホームコースであり、GRスープラのデビュー戦でトップ5独占を決めたトラックでもある。

 今回見つけた『ふたつの課題』は、裏を返せば富士での武器となり、低ドラッグを追求して来たGRスープラはホームストレートのコントロールラインから先で無類の伸びを見せ、ストレートエンドでライバルをパスできるレースでの戦いやすさと優位性が見込まれる。そのためにも、気温の低い11月末の富士でエンジンのピークパワー勝負になることが想定される。

「スーパーフォーミュラでもそうですけど、寒いとホンダのエンジンって結構パフォーマンスを出しやすい感じはある。スーパーGTだけじゃなくてスーパーフォーミュラも個人的に警戒してるんですけど、そこですかね。あとはとりあえず(ヤマケンに)まずQ1を通ってもらわないと(笑)」

 2017年以来のタイトル獲得に向けたお膳立てを、自らの手で整えた第7戦のKeePer TOM’S GRスープラと平川亮。抜けるし、抜かれないロードラッグか。立ち上がりから中間加速で、ダウンフォース分を押し切るか。その答え合わせとチャンピオンの行方は、11月28〜29日に明らかになる。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ キャシディの代わりに参戦する山下健太(KeePer TOM’S GR Supra)

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