『ホテルローヤル』武正晴監督の簡潔な職人技

(C)桜木紫乃/集英社 (C)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

 ラブホテルは絵になる。正しくは、武正晴監督が見事に絵にしたと言うべきか。昨年Netflixの『全裸監督』で総監督を務め、今年だけで『嘘八百 京町ロワイヤル』『銃2020』、11月27日公開の『アンダードッグ』と4本が公開される売れっ子である。安定した職人技と視覚に訴える作家性のバランスが絶妙だからだろう。

 原作は、桜木紫乃の直木賞受賞作。7編からなる連作短編集で、いずれも主人公が異なるが、それをオムニバス映画ではなく、3編目の主人公であるラブホテル経営者の娘を軸に据えることで、原作の長所を生かしながら見応えのある長編群像劇に仕立てている。特に、舞台をほぼラブホテルに限定したことにより、一つの場所でさまざまな人生が交錯するグランドホテル形式の妙味が強まっている。

 その空間性を生かすべく、オーバーラップを利用した時制の行き来や同じ構図の繰り返し、舞台劇の場面転換のような演出…武監督の職人技がいかんなく発揮されている。しかも、客や従業員の家族の物語という日常性と、北海道の釧路湿原を見下ろす立地やラブホテルならではの日常を逸脱した色彩&デザインを対比させることで、過去(ノスタルジー)と現在(リアル)、日常(リアル)と非日常(ファンタジー)が重層を成す、立体的な世界観が構築されている。それでいながら、尺が100分程度という簡潔さもさすがの職人技で、『百円の恋』に続く武正晴の新たな代表作と言っていい。★★★★☆(外山真也)

監督:武正晴

原作:桜木紫乃

出演:波瑠、松山ケンイチ、安田顕

11月13日(金)から全国公開

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