世界ボクシング協会(WBA)、国際ボクシング連盟(IBF)バンタム級統一王者の井上尚弥(大橋)が、英国メディア「ボクシング・ソーシャル」のパウンド・フォー・パウンド(PFP)で1位に躍り出た。
PFPとは全階級を通じ、体重を同一と仮想した時の最強ランキング。そのトップに選ばれたことは紛れもなく、井上がスーパースターの仲間入りをした証明だろう。「快挙」と表現しても決して過言ではない。
これまで首位を守っていたのは、4階級を制覇したミドル級の第一人者サウル・アルバレス(メキシコ)だった。
カネロ(赤毛)の愛称で知られるアルバレスは、オーソドックススタイルからの必殺パンチが強烈そのもので、30歳でボクサー人生のピークを迎えている。
戦績は53勝(35KO)1敗2分け。安定感のある王者の一人で、その牙城を日本人が崩したことは特筆に値する。
確かに10月31日、聖地ラスベガスで演じた井上のボクシングには内容があった。
試合のブランクが1年もあり、序盤は慎重に滑り出した。相手のジェーソン・モロニー(オーストラリア)はガードも堅く、容易にKOできる挑戦者ではなかった。
そこで中盤を過ぎると井上は打開策を選んだ。手をだらりと下げてジャブを放つなど、モロニーを戸惑わせた。初のラスベガスのリングで見せた自在な動きに、豊かな才能を感じさせた。
6回、相手のジャブに合わせた左フックで先制のダウンを奪った。これで勢いに乗る。
続く7回、フィニッシュは圧巻だった。モロニーが右フックを打とうとした瞬間を捕らえ、右のショートストレートを決めてキャンバスに沈めると、そのまま試合は終わった。
ダウンを奪ったパンチはともに、絶妙のカウンター。並のテクニックではない。しかも抜群のパワー。
これで20戦全勝(17KO)と不敗を守り、KO率は何と85%。抜きん出た実力といえるだろう。
本場をうならせ、早くも次の目標を口にした。「アピールの手応えはつかんだ。今度はバンタム級で(世界主要)4団体統一を目指したい」
狙うは世界ボクシング評議会(WBC)王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)と世界ボクシング機構(WBO)王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)の二人だ。
井上がウバーリのテクニック、カシメロの強打をどう攻略するのか。実現すればPFP1位にふさわしいファイトが期待できそうだ。(津江章二)