億超え投資家・エナフン氏「コロナ後を見据える“3D”の銘柄」

難しい値動きが続く株式市場の今後について、長期投資家はどう見ているのでしょうか。投資ブログ「エナフンさんの梨の木」で知られ、独自のバリュー投資法の解説書『エナフン流 VE(バリューエンジニアリング)投資法』(日経BP)を著したエナフンさんこと奥山月仁さんに話を聞きました。


単純なリバウンド狙いは通用しない

――コロナ禍で揺れた2020年がそろそろ終わりに近づいています。2021年はどのような攻め方を考えていますか?

アフターコロナという視点で考えると、2つの選択肢があると思っています。1つは、コロナ後の景気回復を見越して、いま売り込まれている景気敏感株を買う選択。もう1つは、コロナ後に景気がよくなるとは限らないという考えに立って、コロナ以前からのトレンドに乗っている株を買う選択です。

まずは1つ目の売り込まれている景気敏感株を買う選択についてですが、個人的には、株はそこまで単純ではないと思っています。つまり、売り込まれて安くなっている株価の反発を狙っても、簡単には値上がりしないのではないかということです。

――コロナが落ち着けば全ての株が上がる、という前提を疑ってみるということですね。

はい。もちろん、上がる株はあります。実際、指数(日経平均株価、トピックスなど)を見ても、コロナ後に大きく下落しましたが、半年後にはコロナ以前の水準まで戻りました。

ただし、業種ごとの差も見る必要があります。例えば、観光、外食、百貨店などは、コロナ影響が直撃しました。コロナ以前はインバウンド需要があり、その後は政府のGoToキャンペーンなどで支援されていますが、そのような要因をいったん外して考えると、産業そのものに飽和感があり衰退感もあったといえるでしょう。株価は長期的には業績と連動します。そう考えると、そのような分野の株が復活するだろうと期待するのは、少し単純すぎるのではないかと思うのです。

――そこは割安株を狙うバリュー投資で注意しなければならない点とも言えますね。

業種を問わず、割安に放置されている株はいつの時代も存在します。しかし、買ったはいいけどいつまでたっても上がらないこともよくあります。このバリュートラップを避けることがバリュー投資の課題の1つです。株価が安く、割安で放置されているのには何か理由があるものです。コロナ影響で割安になった株を買う場合も、その点に注意が必要だと思います。

トレンドは引き続き「3D」

――2つ目に挙げていただいた、コロナ以前からのトレンドに乗る選択について教えてください。

前述の通り、日経平均などの指数はコロナ前の水準に戻りました。ただ、コロナショックの時と比べてみた時に、株価が急回復するほど特別に何かが良くなったかと考えてみると、実は何も変わっていないようにも見えますよね。そう考えると、コロナは単にトレンドを「早送り」させただけで、コロナ以前からのトレンドそのものは変わっていないと見ることができます。

――つまり、コロナ以前のトレンドを見て狙いたい株を探すということですね。

はい。私はその視点で見ていて、今は「デフレ、デジタル、脱炭素」に関連する株に注目しています。それぞれの頭文字をとって「3D」です。これらはコロナの影響を受けて注目された分野ですが、コロナ以前からも注目されていました。コロナでトレンドが早送りになったと考えると、例えば、デジタルはDX、非接触、健康などの分野にも視野を広げてみるのも良いと思います。

また、デフレ、デジタル、脱炭素で考えるなら、このうちの2つ以上に関わっている株が良いですよね。例えば、景気敏感株で見るといまは中古車関連が上がっています。中古車はデフレ関連で、その中でDXに取り組んでいる会社があれば、2つのキーワードにかかっているため、買いやすいと思います。

そのような視点で業績やEPSが上がっている株や、上がりそうな株を探していきます。すると、割安だけど上がらないバリュートラップを避けやすく
なります。企業の本質的価値を見て、それに対して株価が安いものを狙うVE(バリューエンジニアリング)投資法も活用しやすくなると思います。

将来性がある株を割安で狙う

――VE投資法は、エナフンさん考案の投資法であり、エナフンさんの投資の根幹でもあります。どのようなものなのですか。

VEはもともと経営分野で研究されてきた「より優れた製品をより安く作る」ための手法です。そこに、従来からあるバリュー投資の考えを加えつつ、「より本質的価値の高い株をより安く買う」ためのスクリーニングに応用したものです。

本質的価値は企業の「実力値ベースのEPS」と、成長要因やリスク要因を踏まえてはじき出す「あるべきPER」の掛け合わせです。詳細な計算方法や銘柄選びの具体的な方法は著書(『エナフン流 VE投資法』奥山月仁著(日経BP))を読んでいただきたいのですが、簡単に言えば、安く買うことに重点を置くバリュー投資を変形させて、グロース投資のリターンの大きさも狙っていくということです。

――割安さだけではなく、成長性や将来性も加味するわけですね。

そうです。市場は成長性を高く評価しますので、株式投資においてもグロースの要素は外せないと思っています。グロース株はPERが高く、割高と感じる人もいますが、3Dのように将来性がある分野の株なら、割安で買えなくても大きなリターンが得られることもあります。

一方、成長性があればなんでも良いというわけでもなく、あまりに高く買うと儲かりません。前述した中古車などはその例で、業績は上がっているのですが株価も上がっています。いい株を見つけるだけでは利益にはならないので、そこではバリュー投資の視点も必要になるのです。

――将来性が期待できそうなセクターや銘柄を見つけたら、まずどこを見ると良いと思いますか。

EPSを見て過去の業績の推移を確認してみると良いと思います。昨今はネットで簡単に過去の業績を確認できますので、どこで上がり、その時に何があったか、下がった時があったとしたら、その理由は何かと言ったことを調べると、業績が動く要因が把握しやすくなりますし、あるべきPERを予想する将来に向けた投資ストーリーも描きやすくなると思います。

財務の安定性なども大事だとは思いますが、財務を見て勝てるなら会計士はみんな勝てることになりますよね。実際にはそうはならないので、流動比率や自己資本比率などを重視するより、業績とEPSの推移を見ながら銘柄を探すのが良いと思います。

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