大阪維新襲う「松井ロス」 都構想再否決、常勝戦略にほころびも

 大阪市を廃止して4特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票が11月1日、実施された。結果は反対69万2996票、賛成67万5829票とわずか1・3ポイント差。0・8ポイント差だった前回2015年の住民投票に続き僅差で否決となった。

 市民から看板政策に再び「ノー」を突きつけられた大阪維新の会は、松井一郎代表(大阪市長)が政界引退の意向を表明した。前回の否決後に引責辞任した橋下徹前代表に続く、2度目のトップ退陣。大阪で「1強体制」を作り上げた維新に何があったのか―。(共同通信=副島衣緒里、大野雅仁)

大阪都構想の再否決を受け記者会見する大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長

 ▽「デマ」批判

 「敗因は僕の力不足。市長の任期満了をもって引退しようと思う。次の世代にバトンタッチして、改革の魂を受け継いでもらいたい」

 1日午後11時から大阪市内のホテルで開かれた記者会見。松井氏は政治家としての「けじめ」を語った。潔い敗北宣言、吹っ切れた表情、時折見せる笑み―。その姿は5年前の否決を受け引退表明した時の橋下氏と重なって見えた。

 2011年12月以来、大阪府知事と市長の座を独占し、府市両議会でも第1会派の座を堅持する大阪維新。通常の選挙では無類の強さを誇りながら、「10年来の悲願」と位置付けた都構想の再挑戦では、戦略のほころびが目立った。

2019年春の大阪府知事・大阪市長ダブル選で勝利し、握手を交わす大阪維新の会の松井一郎代表と吉村洋文政調会長(当時)

 大阪維新は、選挙演説で「夢」を掲げ、その実現を目指す「物語」への参加を呼び掛ける手法で支持を拡大してきた。25年大阪・関西万博や、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致などがその象徴だ。だが今回は、住民サービス低下を懸念する反対派の主張を「デマ」と打ち消すのに躍起で、批判合戦ばかりが目立つように。市民からは「どっちが本当かわからへん」と戸惑いの声が上がった。

 メディアを通じた情報発信もうまく機能しなかった。テレビ番組の討論会では、松井氏が反対派の議員やコメンテーターに高圧的な態度で反論する場面も。内部からは「代表にあの調子でしゃべられたら、視聴者の印象が悪くなる」との愚痴も漏れた。

 新型コロナウイルス対策で知名度を上げた吉村洋文代表代行(大阪府知事)を出演させる案は、「大阪市の存廃を問う都構想の討論会に、府知事が出てくるのはおかしい。吉村氏が相手なら応じない」(自民党市議)との反発があり、実現しなかった。

新型コロナウイルス対策について安倍晋三首相(当時)と会談後、取材に応じる大阪維新の会代表代行の吉村洋文大阪府知事

 ▽「死力を尽くせ」

 「吉村人気」がかえって気の緩みを生んだ面もある。「指示通りにパネルを使って説明していない」「活動計画書を出していない」。現場からの報告で、地域によって議員の活動量に大きな差があることがあらわになり、不協和音が生じることも。告示から1週間余りが経過した10月20日夜、大阪維新幹事長の今井豊府議はオンライン会議で「楽観的な動きが感じられる。勘違いしてるんちゃうか」と怒声を発した。

 報道各社の世論調査では当初、賛成派が優位に立っていたが、反対派との差は日を追うごとに小さくなった。投開票の1週間前には完全に賛否が拮抗。共同通信などが実施した調査では、反対派が0・3ポイントリードする結果が出た。大阪維新関係者は「大阪市がなくなるという反対派の感情的な訴えの方が、論理的な制度の説明よりも市民に伝わりやすかった」と振り返る。

大阪維新の会が住民投票前日に発出した松井一郎代表の通達

 焦りを募らせた執行部は、最後の1週間で勝負に出る。コロナ対策で自粛していた街頭演説の事前告知や、屋内演説会に踏み切った。投開票前日の10月31日には、松井氏から所属議員に「少しでも手を抜いた方が負ける。最後の最後まで死力を尽くして」との檄文が飛び、議員らは街頭で「反対多数になれば松井一郎が引退してしまいます。お願いします」となりふり構わぬ訴えを繰り返した。

 松井氏と吉村氏は投開票当日も、繁華街・難波の百貨店前で賛成を呼び掛けた。これまでの選挙ではここ一番の節目で演説会場としてきた「聖地」だ。だが熱量が伝播し、徐々に聴衆が増えていくかつての光景は見られなかった。今までの実績のPRや都構想の制度説明が淡々と続く中、途中で立ち去る人々。最後まで巻き返すことはできなかった。

住民投票当日も市民に賛成を呼び掛ける大阪維新の会の松井一郎代表と吉村洋文代表代行

 ▽世代交代

 2度の否決が組織にもたらす影響は甚大だ。松井氏は23年4月の任期終了までは市長を続けるものの、大阪維新代表の座は11月中に退く意向を固めている。府議団の幹部は「松井代表だからここまで来られた。橋下ロスよりも松井ロスの方が大きい」と頭を悩ませる。

 執行部は吉村氏を次期代表とする方向で調整しているが、吉村氏自身は「民主的で公正な手続きが必要だ」として代表選挙の実施を求めている。維新の立ち上げメンバーだった橋下氏や松井氏と違い、党内基盤が盤石ではない吉村氏が、設立目的の「都構想」なき組織をどうまとめ上げていくのか。力量は未知数だ。

 大阪維新を支えてきた古参幹部は10年間の戦いを振り返って、こう話した。「これからは吉村が引っ張り、若い世代がもり立てていけばいい。俺は都構想実現のために松井さんに付いてきた。都構想が否決され、松井さんが引退するなら、俺たちの役割も終わりだ」。トップの世代交代は、組織が一気に流動化する危険もはらんでいる。

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