【えほんのとびら】 No.211「河原にできた中世の町」

岩波書店
文:網野 善彦
絵:司 修

 これは一人の歴史学者が中世の河原に注目し、なぜそこに町ができ、それが今にどうつながっているのか、自説をわかりやすく説いた作品です。

 中世以前の人たちは、河原や中洲を、人の力のおよばない自然の世界と人の住む世界との境、また、あの世とこの世の境と考え、死者を葬ったり牛馬を解体したりする場として使ってきました。

 鎌倉時代に入ると、河原は「神や仏の力のおよぶところ」とされ、そこで物の売買が行われはじめます。また神仏を喜ばせ、人々を神仏の世界に導くための踊りや芸能が行われる場所ともなり、多くの人々が集まってくるようになりました。こうして「市」が生まれ、そこに住みつく人も出てきて「市」は「町」へと変わっていきます。

 室町時代以降、町となった河原は何度も水害や戦火にみまわれますが、その都度大きく復興し、今日の大都会へと発展したと考えられます。

 歴史学者と画家が、納得のいくまで意見を交わし合った末に出来上がった作品で、二人の中世史観がすみずみにまで描き込まれています。

(ぶどうの木代表 中村 佳恵)

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