DeNAバッテリーが振り返る「会心の1球」 捕手・戸柱の「忘れられない球」とは?

DeNA・戸柱恭孝【写真提供:(C)YDB】

10月16日の本拠地・巨人戦、9回2死から吉川尚輝を仕留めた膝元ストレート

シーズンを通じて、捕手は数多くの投手を相手に何千球という球を受ける。投げ込まれる球は投手によって多種多彩。試合状況を加味すれば、全く同じ球が生まれることは2度とない。それぞれの球が様々な意味を持つ中で、バッテリーの心に鮮烈な印象を残す「会心の1球」とは……。

DeNAの5年目捕手、戸柱恭孝が忘れられない1球に挙げるのは、10月16日、本拠地・巨人戦で試合を締めくくった最後の1球だ。守護神・三嶋一輝が、巨人・吉川尚輝に投じた時速153キロのストレート。ハマの同級生バッテリーが揃って「会心の1球」と話す、このボールについて戸柱、三嶋、それぞれのストーリーをお届けする。まずは、戸柱の話に耳を傾けてみよう。

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首位を独走する巨人を横浜スタジアムに迎えた3連戦の初日。DeNAは4位ながら、2位の中日と2.5ゲーム差、3位の阪神と1ゲーム差という拮抗した状況にあった。ここまで対巨人戦は6勝12敗と分が悪かったが、2位争いにとどまるために、勝ち越しておきたいカードだった。

試合は7回まで0-0の均衡を保ったが、8回に試合が動いた。坂本勇人の犠飛で巨人に1点先制されたDeNAは、その裏、先頭・佐野恵太のソロ弾ですぐさま同点に追いつくと、2死二塁から大和がライトへ勝ち越し二塁打を放ち、逆転に成功する。

そして、迎えた9回。マウンドに上がったのは、今季途中から守護神となった三嶋だ。だが、先頭・田中俊太に1-1から投じた3球目外角スライダーはライトへの三塁打。いきなり、無死三塁という同点のピンチを迎えた。

戸柱は当時の状況を、こう振り返る。

「打球を前に飛ばされたら、点が入る確率が高まる。なので、続く大城(卓三)選手の時は、しっかり三振を狙いにいきましたね。それに三嶋が応えてくれたのが一番よかった。まずは、大城選手をフォークで空振り三振にして、立岡(宗一郎)選手もまた決め球をフォークで空振り三振にしましたが、次のバッターも攻め方や決め球は絶対に見ているわけであって……」

「バッターの特徴と、三嶋のその日の球の状態、前のバッターの状況を考えました」

大城はストレート2球で追い込み、3球目の外角フォークで空振り三振。立岡はフォーク中心の攻めで2-2とした後、5球目低めのフォークで空振り三振。左打者2人に対し、連続でフォークを決め球とし、バットが空を斬った。2死三塁。ここで迎えた吉川尚も同じく左打者。戸柱は頭の中で冷静に状況を判断していた。

「吉川(尚)選手は追い込まれたら変化球マークが強くなるバッター。そういうバッターの特徴と、三嶋のその日の球の状態、前のバッターの状況を考えました。吉川選手には最初、スライダーを一塁側にファウルされて、2球目の高め真っ直ぐもファウルになった。この時、真っ直ぐで差し込まれていたので、僕は『次も真っ直ぐでいけるな』と思いました。前のバッターはフォークで三振しているのは、吉川選手の頭の中にある。確率の問題になるんですけど、僕の選択は迷わず『インコース真っ直ぐ』。無駄球は使いたくない思いもありました」

そして三嶋が投げたのは、吉川尚の膝元に刺さるストレートだった。この日、最速153キロが針の穴を通すかのようにストライクゾーンいっぱいに決まった時、打席の吉川尚は全く動けず。ただボールが通り過ぎた空を見つめるしかできなかった。

「あの球を投げきったピッチャーがすごい。ただ、構えたところに思った通りの球がきたということは、三嶋も多分、同じように反応をみていたんじゃないかと思いますし、実際に試合が終わった後、そういってくれていました。ピッチャーとキャッチャーが噛み合えば、一番いい球がいきますし、思い通りにいく。いろいろな試合がありましたけど、あの試合のあの1球は、今シーズン忘れられない1球になりました」

同じチームで何度バッテリーを組んでいても、投手と捕手の考えが完全に一致することは「ほとんどないに等しいと思います」と、戸柱は言う。だからこそ、試合中はもちろん、試合以外の場面でもコミュニケーションを重視する。

「こっちの思いもしっかり伝えて、ピッチャーの投げたいボール、ピッチャーの思いもしっかり聞く。そういう共同作業だと思うんです。この日だけじゃなくて、普段の積み重ねがこういう成功に繋がる。失敗することもありますけど、こうやって一致した時は報われた気持ちになりますね」

吉川尚を3球三振に仕留めた瞬間、戸柱と三嶋は揃って大きなガッツポーズ。会心の1球に思わず感情が溢れ出たが、戸柱は「三嶋に関しては、甲子園で優勝したみたいになってましたけど」と笑う。

同級生キャッチャーから見る守護神・三嶋の変化とは

入団した年こそ、社会人を経験した戸柱より三嶋が3年早いが、2人は1990年生まれの同級生。それだけに包み隠さず意見を言える間柄でもあるし、互いに対する信頼も厚い。三嶋は今季途中からクローザーを任されるようになったが、戸柱は「頼もしくなった」と変化を語る。

「今年は、今まで以上にバッターをよく見るようになっていますね。バッターの反応や特徴について、前よりも踏み込んだ話ができるようになってきたと思います。三嶋に対しては任せっきりというか『このバッターはこれでいこう』って入り方を一言二言話せば、しっかり抑えてくれる。今までもしっかり準備をするピッチャーでしたけど、抑えという大役を任されるようになってから、今まで以上に打者を見ていると思いますし、メンタルの部分でも頼もしくなったって感じがしますね」

捕手がバッテリーを組むのは、大勢の個性が違う投手たちだ。誰一人として同じ個性の持ち主はいない。打者の細かい情報が必要な投手、試合中でも冗談を言うリラックスムードが好きな投手、強めの口調で叱咤激励されるとスイッチが入る投手……。「自分の引き出しの1つとして、ピッチャーによって接し方は分けています」という戸柱が、コミュニケーションを取る上で大切にしているのが「聞く耳を持つこと」だという。

「ベイスターズは若い投手が多いので、自分の意見だけを100パーセントぶつけるのは辞めています。やっぱりコーチや先輩に言われたら、若い選手は『はい』くらいしか言えないじゃないですか。自分の意見はなかなか言いづらいと思うので、逆にこっちから『どんな感覚?』『あれはどうやった?』と聞いて、話をさせるようにしています。そうすると、普段は口数が少ないピッチャーほど、案外そういう時に『ちゃんとした考えを持っているんだな』と感じることがあるんですよ。だから、話しやすい環境を作ることが一番大事だと思います」

人の言葉に耳を傾けることは、簡単なようで難しい。「僕は元々喋りたい、発言したいタイプなんで、メチャクチャ難しいですよ。聞き上手って憧れますよね」と笑うが、そういう努力もあるからこそ、会心の1球が生まれた時の感覚は格別なのだろう。

戸柱が語る「会心の1球」を、はたして三嶋はどんな思いで投げたのか。(11日の後編に続く)
(Full-Count編集部)

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