税制改正で不動産投資のおける消費税還付が受けられない?その全貌と注意点を解説

不動産投資家にとって、令和2年10月1日に適用された税制改正は、大きなターニングポイントになりました。この改正で、事業目的による住居用物件の購入時にかかる消費税は控除の対象外となり、従来の消費税還付スキームは通用できなくなったのです。

ただ、還付の道が完全に閉ざされたわけではありません。決して安くはない税負担を少しでも軽微に抑えるには、税制改正の内容を注意深く読み取り、可能な対策を立てることが重要です。今回は、税制改正の概要と不動産投資において考えられる影響、還付を受けるための秘策、および注意点を説明します。

そもそも不動産における消費税還付とは?

不動産投資での資産運用を狙う方にとって、税や経費といった負担要素をいかに低減させていくかは重要な課題です。マンション相場が変動するのと同じで、税法や税率なども不変ではありません。変化に対応するために、常に対策を講じる必要があります。まずは、不動産投資における消費税と還付の仕組みについて詳しく説明します。

不動産投資における消費税

まず、消費税がどんなものなのか改めて説明します。商品の購入ならびにサービスの提供を受けたときに支払うのが消費税ですが、これには次の4つの要件を満たすものが該当します。

・国内取引
・事業者による事業取引
・対価が発生する取引
・資産の譲渡や貸付け、または役務(サービス)を提供する取引

個人であっても、収益目的で購入する行為は事業に相当します。個人事業主として賃貸物件を購入する際にも消費税は納めなくてはなりません。一方、上記4つを満たしても課税されない「非課税取引」もあります。土地、株券、有価証券、健康保険、火葬場代、賃貸住宅の賃料などがその対象です。上物のない土地の購入代金、あるいはマンションの賃料は消費税の課税対象外です。

物件を購入した際にも等しく10%の消費税が発生する

投資目的の不動産購入では、土地を除くアパート・マンションの購入費用に消費税10%が課税されます。これは、不動産の仕入れにかかる税金になります。普段の消費もそうですが、私たちは消費税を税務署に直接支払うのではなく、商品・サービスの提供者に支払っています。不動産購入においても同様で、消費税を支払う相手は物件の売り主です。この時点で購入者は納税したことになります。

マンション購入代金5500万円の内訳
・マンション代金:4950万円

このように、不動産投資も消費税の課税対象です。ただし納税には還付制度があります。払い過ぎた所得税や住民税、医療費が戻ってくる仕組みと同じく、余計に払った消費税も戻ってくる決まりです。令和2年10月にこの不動産投資における還付制度の改正が行われたのです。

消費税還付の仕組み

消費税還付を受けるには条件があります。売上時に預かった消費税(消費者が支払った分)を、仕入時に納めた消費税(不動産投資であれば物件購入時)が上回った場合が適応の対象になります。基本的に税の還付は、税金を払い過ぎたときに受けられるものです。

たとえば、A事業法人の消費税課税売上(主に消費者が支払った消費税)が700万円、仕入れなど必要経費で納めた消費税が500万円だった場合、その差額は、以下の通りです。

700万円×10%-500万円×10%=20万円

売上で発生した消費税が多いため、この場合は還付されないことになります。このように、消費税還付を受けるには、消費税にかかったものを特定し、細かく計上して課税売上と仕入税額との差額を出す必要があります。

この消費税還付の仕組みを不動産投資に当てはめた場合、先ほどの例でいえば、不動産購入時に支払った消費税が550万円です。この時点で購入者は550万円の消費税を納付しています。冒頭で説明した通り、住宅の賃料は非課税なので、不動産投資で売上にかかる消費税負担はありません。

課税の対象となる売上を「課税売上」といいます。不動産投資の場合、収益のほぼ100%を占める賃料が非課税のため、いくら消費税を納めたところで還付の必要条件は満たせないことになります。そのため、不動産投資で消費税還付と同程度の恩恵を受けるには、課税売上を生み出すスキームの構築が前提でした。そんな節税対策も、今度の改正で難しくなります。

消費税還付金スキーム封じ込めによる具体的な影響

不動産で資産運用を目指す投資家にとって、税制改正は鬼門です。平成22年、平成28年と2度にわたって行われた税制改正は、いずれも不動産投資における消費税控除の抜け道を塞ぐ趣旨ともいえる内容でした。それでも、投資家たちは何とか抜け道をつくって還付を受ける仕組みをつくってきました。課税売上を生み出し、仕入税額との割合を調整する「金地金購入スキーム」などがその代表例です。

それが、令和2年10月から適用となる3回目の税制改正において、さらなる工夫が必要となりました。以前まで通用した裏技が通用しなくなるかもしれません。この改正は不動産投資にどういった影響を与えるのでしょうか。

住宅用建物での消費税還付は不可能に

住宅用建物の取得時に支払った消費税は、消費税還付の適用外とすることが令和2年10月改正の税制で決まりました。これにより、従来の不動産投資における消費税還付は非常に厳しくなります。本改正の適用が令和2年10月からのため、改正前に購入した方はこれまで通り控除の対象です。以下で紹介する特別なスキームは使う必要がありません。

改正内容を簡潔にまとめると、次のようになります。

・1000万円以上の住宅用不動産の取得時に納めた消費税は、還付の対象としない
・改正の適用は令和2年10月1日以降取得の住宅用建物。ただし令和2年3月末までに契約した建物は除く
・本改正の適用物件でも、3年後の調整計算を行うまでに売却した場合、または住宅用以外の用途に転用した場合、還付のための調整計算に含めることができる
・金地金購入に関する規制はなし

本改正の適用は、令和2年10月以降に引き渡された住宅用物件が対象です。ただし、令和2年3月31日までに契約を済ませた物件は、引渡しが10月1日以降になっても適用されません。契約が4月1日以降の契約の場合も、9月30日までに引渡しがなされれば適用外となります。

・令和2年4月1日契約、引渡しが令和2年9月30日→適用外
・令和2年3月31日契約、引渡しが令和2年10月1日→適用外
・令和2年4月1日契約、引渡しが令和2年10月1日→適用

1000万円以上の賃貸マンションの購入が改正後なら、消費税の還付が受けられず消費税自体も納めることになります。税制に違反する行為はいかなる理由でも国税庁の指導が入るため、注意が必要です。

仕入税額控除の禁止

不動産投資を行う個人の課税事業者は、アパート・マンションといった高額不動産を仕入れ、それを貸し与えることで賃料を確保し、収益を得ます。改正前までは不動産取得時にかかる仕入税額が控除として認められていました。それが本改正により、賃貸用物件の購入時に支払う消費税そのものが控除の対象外となり、不動産投資では仕入税額が発生しないこととなりました。

消費税還付の可否は、課税売上と仕入税額の差で決まります。家賃収入が非課税のため、別の売上を立てることで課税売上を生み出す工夫が必要でした。代表的なスキームが、「金地金の売買」です。これで課税売上を立てることが可能となり、仕入税額との差額が還付されてきました。そのスキームも今回の税制改正で一変します。

ただし、金地金の売買は、これまで通り課税売上として認められます。これを利用したうえで、仕入れ税額控除が受けられるスキームを構築するには、従来の税制を活かす工夫が必要となります。

改正後でも還付を受けられる対象

本改正の適用対象は、住宅用の賃貸物件のみです。裏を返せば、住宅用以外の物件は通常通りの税控除対象になるため、購入時の消費税還付が受けられます。この点をうまく突いた手法であれば、改正後も不動産投資で税務署からの消費税還付は可能となります。

元から課税売上だった建物・設備

元から課税売上だった建物・設備には、店舗・事務所などのテナントビルや太陽光発電設備などがあります。これを購入して支払う消費税は全額仕入税額控除の対象となり、あえて還付スキームを使うこともありません。

店舗・事務所などのテナントビル

店舗やオフィスなどのテナントビルや、商業施設用の貸しビルなどは、「住宅の貸付けに使用しないことが明らかな部分」であるため、引き続き仕入税額控除の対象となり、還付されます。

では、住居用建物として購入した物件を、オフィスとして貸し与えた場合はどうなるのでしょうか。本改正を読むと、「課税期間の初日後3年以内に、住宅の貸付け以外の使用への切り替え、または譲渡した場合、仕入税額控除に加算して調整できる」との部分があります。つまり、転用のタイミング次第では還付も不可能ではなくなります。

太陽光発電設備

太陽光発電設備は今度の税制改正とは無関係のため、消費税還付の対象になる

太陽光発電は、不動産投資と並び安定したリターンが見込める投資手段として有名です。投資先を賃貸用物件にするか太陽光発電設備にするかで迷われる方も多いはず。太陽光発電設備は今度の税制改正とは無関係のため、消費税還付の対象です。太陽光発電投資は通常、以下のような方法で行います。

・土地を購入して発電装置を設置する
・土地と太陽光発電システムがセットになった発電所を購入する
・自分の土地に太陽光を設置する

売電収入にかかった消費税額を初期投資にかかった消費税額が上回れば、消費税が還付される仕組みです。

住宅の貸付けに使用しないことが明らかな部分

本改正には「住宅の貸付けに使用しないことが明らかな部分」との記載があります。事務所や店舗目的で貸す建物の仕入税額を認めるということで、納め過ぎた消費税が戻ってくることがあります。

ただし、不動産投資目的で購入するのは賃貸物件がメインです。消費税還付対策を考える場合、テナントビルとして購入した物件を住居用に切り替える、あるいは用途を店舗併用住宅の建物にするといったフレキシブルな対応が求められます。

店舗併用住宅の建物

店舗併用住宅については、店舗部分にかかる消費税は還付されます。「住宅の貸付けに使用しないことが明らかな部分」はどのようにして決まるのでしょうか。

本来なら、契約書に明確に書かれた建物用途がその判断の基礎となります。用途に居住用と書かれていれば賃貸住宅、オフィス店舗用と書かれていれば商業ビル。このように契約書に書かれていれば明白です。ただ、本改正では契約書に記載がなくても、建物の使用状況からして賃貸物件であることが明らかな場合、控除の対象外となります。

また、契約書にテナント用との記載があったとしても、実態を見れば明らかに賃貸物件である場合、消費税還付は受けられません。契約書より中身を見て判定される点に注意が必要です。

消費税還付を受けた後に住宅用の賃貸として使用した場合

すでに物件を購入している方は、今後ニーズに合わせて用途変更などがあるかもしれません。オフィスビルとして購入した物件を住宅用に切り替える事例は珍しくなく、その場合は今回の改正の影響を受けることになります。このようなケースを、「課税用から非課税用に転用した場合の調整」と呼び、購入時に発生した還付金の一部または全額返納しなければならないことがあります。

固定資産の取得後、3年以内なら還付金を一部返納

物件をテナント用として購入すれば、仕入税額控除の対象となり、払い過ぎた消費税が戻ってきます。しかし、その後に住宅用物件として投資運用をはじめた場合、還付消費税を返納しなければなりません。どれくらい返納するかは、転用のタイミングで決まります。固定資産の取得から3年以内であれば、還付金の3分の1を返還します。2年以内であれば、その3分の2。転用のタイミングがはやいほど、返還額は大きくなります。

1年以内なら全額返納で実質適応外

一部還付されるだけでもいいほうかもしれません。問題は、全額返還しなければならないケースです。オフィス用に固定資産を取得して消費税の還付を受けても、1年以内に住居用に切り替えた場合、還付金は全額返還となります。高額な費用を投じて物件を購入し、消費税の実質負担が何百万円にも上るケースでは、かなりの負担になります。税制改正の特徴を理解したうえで、損をしないような運用が望まれます。

すでに還付を受けている場合の注意点

本改正の影響を受けるのは、令和2年10月1日以降に居住用物件譲渡を受けた方です。すでに購入済みの方は対象外。また、税制改正以後に引渡しとなっても、令和2年3月31日までに契約を済ませた場合は消費税が還付されます。

ただし、還付が受けられるからといって万事OKとはなりません。消費税還付を受けるには、消費税の課税事業者であることが条件です。課税業者の届け出を出しておかないと還付は受けられません。また、課税事業者が1000万円以上の固定資産を購入した場合、購入後3年間は免税事業者になれない点も要注意です。

購入から3年間は、免税を受けず、課税事業者の状態を続けることになります。そのうえで消費税還付を受けるために注意したいのは、次の3点です。

・課税売上割合を50%以上減少させないこと
・なるべく他の物件の購入を避けること
・固定資産購入後、3年以内に物件を売却しないこと

以下、詳しく説明します。

課税売上割合を50%以上減少させない

課税売上を立てることが、消費税還付の条件でした。すでに還付を受けている方は金の売買で課税売上を立てている方も多いはず。現状のルールでは、課税売上が50%以上減少した場合、還付消費税を税務署へ返納しなければならないことになっています。本改正は、金の売買についての規制がないのがポイントです。引き続き、金の売買で課税売上の割合を維持または向上させることができます。

平成22・28年税制改正により、以下のことが決定しました。

・課税事業者になった者は3年間免税事業者になれない
・1000万円以上の課税不動産を取得した場合、必ず3年度分の調整計算の適用を受ける
・調整計算の適用では、計3年間の売上高で計算した課税売上割合が50%以上低下した場合、還付された消費税の一部を返納しなければならない

このようなルールがあることから、課税事業者になって免税を受けるまでの3年間は、課税売上を立て、かつその割合を50%以上に保つ必要があります。

なるべく他の物件を購入を避ける

収益拡大を狙うなら積極投資を視野に入れたいところですが、消費税還付を考えた場合、この間に物件を購入しないのが得策です。なぜなら、物件を購入して家賃収入が増えれば非課税売上が上がり、課税売上の割合が低下するためです。その分を補うための金売買が必要となり、調整がかなり複雑になってしまうため気をつけましょう。

購入するなら別法人で

別法人での購入なら、 課税事業者届も別に出すことになり、還付のための調整も切り分けられる

第2、第3の投資をするのであれば、別法人での購入がおすすめです。法人名義が別であれば課税事業者届も別に出すことになり、還付のための調整も切り分けることができます。手間はかかるものの、手堅く消費税還付を受けたいのであればこの戦略は欠かせません。

固定資産購入後、3年間は物件を売却しない

3つめの注意ポイントは、固定資産取得後、3年間は物件売却を控えることです。還付を受けるには3年間課税事業者の立場を貫く必要があります。この間に物件を売却すると、建物の売却に消費税が発生。建物購入で消費税が還付されたにもかかわらず、売却代金から再び消費税が引かれてしまいます。税額は建物の売却代金の10%。3000万円で売れた場合、300万円を引かれることになります。しかもその税金は還付されません。

取得した不動産で手堅く収入を確保するなら、手放すのは3年待ってからにすることをおすすめします。3年後であれば免税事業者となり、消費税の還付が受けられます。この「取得後3年は売却を控える」は、住宅用物件に限らず、テナントビルや太陽光発電設備の購入にもいえることです。このケースでも消費税還付を受けるために、免税事業者ではなく課税事業者になっておく必要があります。

テナントビルの所有者や太陽光発電設備の購入者はいつでも免税事業者になれ、消費税の還付も毎年受けられます。ところが、購入後3年以内に物件や設備を売却すると、立場は課税事業者となり、売却代金に消費税が発生。せっかく還付を受けたとしても、売却のために消費税が引かれます。そのため、この場合でも3年間は物件売却を待ったほうがいいといえます。

何度も改正されたことで、消費税還付の仕組みは複雑化しています。たとえ還付を受けたとしても結果的に損をする可能性も少なくありません。税の還付と物件売却の間で迷われたときは、税理士への相談をおすすめします。

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