2020年IPO市場が過熱 初値平均2.4倍と高騰する魅力はどこに?

2020年の新規上場(IPO)の初値が好調です。2020年は直近、10月30日に東証マザーズへIPOしたRetty(7356)までの62銘柄をみますと、公開価格に対する平均初値上昇率は2.4倍となっています。

2010年以降の最高値は2013年の2.2倍ですから、人気の高さがうかがえるでしょう。なぜ、IPOが好調なのでしょうか。


IPOが好調なワケ

人気が高い要因は、魅力的な銘柄が多いことがあると考えられます。さらに、もともとIPO銘柄の公開価格は、本来の価値から割安に設定される傾向にあります。IPOディスカウントや、プライマリーディスカウントと呼ばれます。

IPO銘柄への馴染みに薄さ、投資家の理解力の低さなどが背景にありますが、ディスカウント率は通常30%程度と言われます。それを考えますといくら魅力的であったとしても、2.4倍は相当な過熱感があると言わざるを得ません。

そもそも公開価格を大幅に上回る初値が付くということは、その初値で買ってもさらに株価が上昇するという期待があるからです。果たして実態はどうでしょう。IPO銘柄には初値天井のイメージが付きまといますが、それを払しょくできないのでしょうか?

初値が天井という定説は真か

今のところ、そうした固定観念は覆されています。

IPO 62銘柄の初値と、11月6日終値を比べてみましょう。ここでは便宜上、セカンダリー投資と呼称しますが、1銘柄平均で34.6%のプラスです。重ねて言いますが、初値が2.4倍となって、さらに34.6%上昇しているわけです。

銘柄数でいえば、62銘柄中、30銘柄がセカンダリー投資でプラスです。銘柄によって比較する期間の長短の差はあるものの、初値のみならずセカンダリー投資でも一定の成果が出ています。

グラフは初値上昇率とセカンダリー上昇率を月ごとに併記したものですが、興味深い点がいくつかあります。先ずは、初値上昇率が低ければ、セカンダリー上昇率が高い傾向にあること。当たり前のように思えますが、特に3月、4月に注目です。IPO銘柄数は3月が24銘柄、4月が1銘柄ですが、3月は4銘柄、4月は6銘柄がIPOを延期しました。

新型コロナウイルス蔓延に伴う、株式市場の不透明感に対する措置が主な要因です。結果、3月の初値上昇率は7.6%、4月は7.9%のマイナスとなりました。3月はプラスではあったものの、24銘柄中、17銘柄の初値が公開価格割れとなりました。

つまり、「もともとディスカウントが働いている公開価格であるにもかかわらず、コロナ禍が初値形成を歪めた」 ⇒ 「コロナ禍の影響が薄れるに伴い、セカンダリー投資で実力を発揮し始めた」 ⇒ 「以降のIPO銘柄の初値投資が強気に傾いた」 ⇒ 「直近のセカンダリー投資の成功体験から、初値投資が強気に傾いたIPO銘柄のセカンダリー投資でも、成功するケースが出てきた」と考えることができます。

こうした見方が正しいならば、本年12月IPOには期待が持てるでしょう。例年、12月のIPO銘柄は、銘柄数が多いうえに、年末に向けて機関投資家や外国人投資家が手薄となるシーズンとあって、注目を集めやすいからです。

今月から上場基準が変更

しかしながら、気になる面もあります。

東京証券取引所は11月1日から、市場区分を再編する一環で、第1部への上場・市場変更の基準を統一しました。

これまでは東証マザーズや東証2部へ上場している企業は、時価総額40億円、純資産10億円などを満たすことで、東証1部への市場変更がかないました。

それが1日からは時価総額が250億円必要となるほか、収益・財務面でも50億円の純資産や、直近2年の経常利益が計25億円か、売上高100億円かつ時価総額1000億円をそれぞれ上回ることが必要となります。東証1部に直接上場する際と同一基準であり、市場変更のためのハードルが一気に引き上げられました。

12月IPO銘柄に注目

これまで東証マザーズや東証2部へIPOしてきた銘柄は、短期間で東証1部への指定替えを目指す思惑が働いていたとしても不思議ではないでしょう。

けれども、そのバイパスルートが断たれました。今年の12月IPO銘柄は、例年通りの数が出てくるのでしょうか?

別の見方もできます。これから東証マザーズや東証2部へIPOする銘柄は、単に東証1部を目指しているわけではない、成長路線の過程にあって人材や資金が必要であるからIPOする、といった期待も持てるのはないでしょうか。

<文:投資情報部 宇田川克己>

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