[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.42 激化する1,000gアラウンドのドローン

DJIが2017年ぐらいから拡張戦略の中心に据えていたPublic Safety(警察や消防など)を始めとした現場での1人1台の施策が現実化し始めており、Public Safetyでの現場検証、災害調査などだけではなく、報道撮影、工事現場での進捗管理、各種点検、測量、農地や森林調査など、空からのデータ取得を中心にその活用が拡がってきている。

そういった内容において、その中心にあった機体はDJIのMavicシリーズであった。前回のコラムにも記したように特に米国を中心に、Public Safetyという分野において安全保障上の理由で「中国機体の排除」という文脈が出てきたこともあり、欧米でいわばMavic対抗という形で機体開発がなされ、今年に入って有力な製品がリリースされてきた。

まず、DJI Mavic 2 Proと、Parrot ANAFI USA、Skydio 2 Enterprise、AUTEL EVO IIを比較してみた(各社の仕様書などから引用してきているが、もし間違いなどある場合はご容赦いただきたい)。

DJI Mavic 2 Pro Parrot ANAFI USA Skydio 2 Enterprise AUTEL EVO II

発表時期 2018年8月 2020年6月 2019年12月 2020年1月

機体重量 907g 500g 775g 1127g

対角寸法 354mm 467mm 353mm 552mm

最大飛行速度 20m/秒 14.7m/秒 16.1m/秒 20m/秒

最大飛行時間 31分 32分 23分 40分

最大風速 10.6m/秒 14.7/秒 11.1m/秒 Level8

動作環境温度 -10℃~40℃ -35℃~43℃ 不明 -10℃~40℃

動作周波数 2.400~2.483GHz 2.400~2.483GHz 2.400~2.483GHz 2.400~2.483GHz

GNSS GPS+GLONASS GPS+GLONASS+GALILEO GPS+GLONASS GPS+GLONASS+VIO+ATTI

内部ストレージ 8GB 不明 不明 8GB

検知システム 全方向障害物検知 なし 自動トラッキングシステム 全方向障害物検知

その他

IP53(防塵・耐水)

バッテリー容量 3850mAh 3400mAh 4280mAh 7100mAh

電圧 15.4V 11.55V 11.4V 11.55V

正味重量 297g 195g 280g 365g

カメラセンサー 1”CMOS 1/2.4”CMOS ×2(x32 Zoom) Sony 1/2.3”CMOS 1/2”CMOS

レンズ FOV:約77°
35mm判換算:28mm
絞り:F2.8–F11
撮影範囲:1m~ 不明 35mm判換算:28mm
絞り:F2.8
撮影範囲:1m~ FOV:約79°
35mm判換算:28mm
絞り:F1.8
撮影範囲:1m~

ISO感度 動画:100~6400
写真:100~3200(オート)
100~12800(マニュアル) 100~3200 100~3200 100~3200

シャッター速度 電子シャッター:8~1/8000秒 電子シャッター:1~1/10000秒 電子シャッター:1~1/1920秒 電子シャッター:8~1/8000秒

静止画サイズ 5472×3648 21MP 4056×3040 8000×6000

動画解像度 4K:3840×2160
24/25/30p
2.7K:2688x1512
24/25/30/48/50/60p
FHD:1920×1080
24/25/30/48/
50/60/120p 4K/FHD/HD 4K UHD:3840×2160
at 24/30/48/60fps
FHD:1920×1080
at 30/60/120fps

7680*4320:p25/p24
5760*3240:p30/p25/p24
3840*2160:p60/p50/p48/
p30/p25/p24
2720*1528:p120/p60/p50
/p48/p30/p25/p24
1920*1080:p120/p60/p50/
p48/p30/p25/p24

最大ビデオビットレート 100Mbps 不明 100Mbps 120Mbps

写真フォーマット JPEG/DNG(RAW) JPEG,DNG(RAW) JPEG,DNG(RAW) JPEG/DNG/
JPEG+DNG

動画フォーマット MP4/MOV
(MPEG-4 AVC/H.264、
HEVC/H.265) MP4(H264) MPEG 4
(AVC/H.264,
HEVC/H.265) MOV/MP4(H.264/H.265)

対応SDカード 最大容量128GBのmicroSDに対応。UHS-Iスピードクラス3に対応したmicroSDカードが必要 データ暗号化(AES-XTS,512-bit) 最大容量128GBのmicroSDに対応。UHS-Iスピードクラス3に対応したmicroSDカードが必要 Standard:32 GB,max.support 256GB

その他

サーマルカメラ:FLIR BOSON
320x256 resolution
-40°C to +150°C
temperature range
Thermal Sensitivity: ▶[Reviews]Vol.25 Parrot ANAFIの実力はいかに?DJIユーザも気になるところとは?

ここの記事の比較にもあるように、この機体はMavic Airを意識したものであったように感じる。Mavic Airが空撮機体として活用するシーンがあるものの、当初SDKのサポート外であったこともあり(現在はサポートしている)、そのほかの産業用途で使われるケースも少なかったことと同様で、この「ANAFI」もあまり産業用途で使われることが少なかった。

そんな中でこの「ANAFI」をベースに、Parrotは米陸軍向けのドローン開発を受注し、近距離偵察(SRR)ドローンを開発した。

そのSRRでの開発を活かすかたちで、「ANAFI USA」を今年6月に発表した。

機能的な特徴でいけば、トリプルカメラでの32倍デジタルズームやサーマルカメラなど産業用途での要望に沿っているだけでなく、防塵・防水や米陸軍基準に準じたハイエンドのセキュリティ、耐久性、画像処理能力を備えている。

また、データ暗号化とプライバシー機能は、欧州連合の一般データ保護規則(GDPR)に準拠しており、機密性の高いミッションにもクラス最高のプライバシーとセキュリティを提供しており、今後の産業用ドローンのセキュリティ基準のベース機体となっていくことも予想される。

また、ドローンサービス企業やユーザがカスタマイズするための開発キット(SDK)も用意しており、ParrotグループであるPix4D社のPix4Dreact(2D mapping)や、そのほか産業用途で使われているSurvae(intelligent video, image, and data platform),DroneLogbook(operation and fleet management),Kittyhawk(security andcompliance for enterprise UAS operations),Dronesense(the all-in-one platformfor public safety operations),Planck AeroSystems(landing on moving vehicle)and Skyward,A Verizon company(aviation management platform)など多くのサービスやソフトウェアでの利用が可能になっているのも強みとなってくるだろう。

Skydio 2 Enterprise

SkydioはDJIとは異なる技術で対抗している。それは資本参加も受けているNVIDIAのSLAM技術を活用したSkydio Automy Engineと名付けられた高度なアルゴリズム処理を行うAIでコンピュータ・ビジョンをリアルタイム処理する技術だ。この技術を搭載したセルフィードローン「Skydio R1」を2018年に発表した。

その進化系である「Skydio 2」を2019年に発表し、日本でもジャパン・インフラ・ウェイマークやNTTドコモ・ベンチャーズといった企業がパートナーシップ契約や出資を行う中で、日本オフィスも設立され、日本向けに最適化された「Skydio J2」が展開されている。

「Skydio J2」は、DJI Mavicシリーズとの差別化戦略として、Skydio Automy Engineを利用した非GPS環境が伴う点検や監視などでの活用が期待されている。そういった意味では、現場では「Skydio J2」は、ブルーイノベーションが取り扱う「ELIOS」やリベラウェア「IBIS」などが競合製品となるだろう。

また、SkydioはParrotと同様に米国国防総省「Blue sUAS」プロジェクトに採択されており、性能向上とともにセキュリティ強化した内容が製品に活かされてくる。

そういった中で既に、様々な機能を強化した「Skydio X2」シリーズを発表している。

AUTEL EVO II

先日のJapan Drone 2020でも話題の中心であったのは「AUTEL EVO II」であった。AUTEL Robotics社は中国AUTELの米国子会社であり、初めてのJapan Drone開催時には完全に中国企業として出展していたのだが、現在では中国色を極力弱くし“Made in USA”を前面に打ち出して展開している。

このAUTEL EVOシリーズが、DJI Mavicシリーズと一番正面から競合している製品だ。その姿勢を最初に示したのがCES2018であった。

そして、CES2020で「AUTEL EVO II」を発表した。

この「AUTEL EVO II」が1000gアラウンドのドローンにおいて初の8Kカメラを搭載したものとなった。日本でもKMTがAutel Robotics社との代理店契約を締結し、EVO IIシリーズの販売を開始している。そういった中で、様々なレビューがなされ、その評価も高いものとなっており、注目が高まっている。

また、AUTELはDJIと同様にアプリケーション開発パートナーを増やすためのSDK戦略を敷いており、DJIからこの小型ドローンの領域でのシェアを着々と奪ってきている。

DJIはどうするのか

その拡張戦略の中心にあった1人1台の領域において、Mavicシリーズをターゲットに欧米各社は追従し、セキュリティ要件といった内容も加えながら、徐々にDJIのシェアは奪われてきている。ここはDJIにとってもメインストリームであり、今後の巻き返しをどうしていくのかが問われてくる。

機能面でいえば、小型化・安定化・長時間をともに向上させるといったストレートな機体制御性を高めるといったこともあるだろう。また、DJIの強みでありM300 RTKに搭載してきたハイブリッドマルチセンサーソリューションZenmuse H20のようなデバイスをMavicに搭載してくるといった動きも考えられる。

そして、Skydioが展開しているような非GPS環境下のソリューションをどういった形で実装していくのか気になるところだ。また、日本を含む欧米でのシェアを回復していくには、各国政府が示すセキュリティ要件に対して丁寧な対応を行っていくことが必要だろう。

国産ドローンの課題

前回のコラムで触れたセキュリティに関する政府方針の動きで「国産ドローン」の機運が高まっている。

しかし、そのセキュリティへの対応そのものもここに挙げたような機体に比べて遅れている。また、各社がユーザビリティを有した機体制御および機体管理アプリケーションをきちんと提供していることも社会実装にとって、とても重要なことだ。自社の機体活用を拡げるために、開発パートナーや業務用にカスタマイズするためのSDKも用意しているということも拡張戦略上、非常に重要だ。

ドローンをシステムとして捉え、本体だけでなくエコシステムをきちんと構築していくためのリソース強化や連携を進めていかないと、「中国」から「欧米」にその流れがシフトするかたちになってしまうだろう。

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