結婚、出産、育休…部下のキャリア形成支援で、上司が気をつけたい3つのこと

2018年に共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上となり、女性の社会進出がますます注目されています。それに伴い、これまでは女性が主戦力となることが多かった家事・育児に関しても、夫婦で分担する家庭が増えてきました。

そのような変化を受けてでしょうか、部下のキャリア形成支援について、悩む上司の声をよく耳にするようになりました。そこで今回は、部下のキャリア形成支援において、上司が特に気を付けたい3つのことと、その対応策についてご紹介します。


上司がやってしまいがちなこと

著者が様々な企業の管理職にヒアリングをすると、今まで以上に出産や育児などのライフイベントを迎えた部下の育成や関わり方に、悩む上司が多いということがわかりました。

これは、経営や人事から、部下のキャリア形成支援についての要望が強くなっているにも関わらず、上司たちが知識やスキルを持ち合わせていないことが原因の一つとして挙げられます。

また、上司としてはキャリア形成支援の知識やスキルがない中でも、部下の立場を十分考慮して話をしているのに、部下からは理解を得られないことも多いといいます。場合によっては「キャリア形成を阻害された」と言ってトラブルに発展するケースも聞かれます。

なぜ上司は部下のキャリア形成につながりにくい関わり方をしてしまうことがあるのでしょうか。それは主に、上司の下記3つの行動が元になっています。

__\(1\) 目指したいキャリア像を持つことを強制し、問い詰めてしまう
(2) ライフイベントは一切聞いてはいけないと思い込んでしまう
(3) 配慮のつもりが、期待を伝えないまま排除になってしまう__

上司がしがちな“思い込み”

上司がしてしまいがちな行動、その一つ一つを見ていきましょう。

(1) 目指したいキャリア像を持つことを強制し、問い詰めてしまう

様々な問いを投げ掛けることで、部下のキャリア像が必ず明確になると思い込んでいる上司がいます。そのような上司は、明確にし辛い要因を、キャリアを自ら描こうとする意志の弱さ・描く経験の少なさの問題だと捉えている傾向にあります。

(2) ライフイベントは一切聞いてはいけないと思い込んでしまう

上司からすると、部下のライフイベントを聞くことはハードルが高いものです。場合によってはセクシャル・ハラスメントになりかねないからです。それであれば積極的に関わって嫌われるよりも、付かず離れずの対応に終始する方が、お互いにとって良いと考える傾向があります。

(3) 配慮のつもりが、期待を伝えないまま排除になってしまう

「彼/彼女は家庭のことで大変そうだから、責任ある仕事を任せるのは荷が重いだろう」といった考えです。一見、優しい印象ですが、成長機会のある挑戦的な仕事を与えないことになり、発展的なキャリア形成を阻害することにつながります。

上記3つに共通することは、上司は「良かれと思って」やっているのです。

部下との間に生まれる溝

一方、このようなキャリア形成につながらない関わり方をされた部下はどのように考えるのでしょうか。

(1) 目指したいキャリア像を持つことを強制されると、苦しく感じてしまう

ライフイベント、特に出産や育児に関することは不確定要素が多いものです。そのため、上司がキャリア像を明確にさせようとすればするほど、言質を取られているようで苦しくなります。

(2) ライフイベントについて聞かれなければ、共有する機会を失う

上司と部下の間でよっぽどの信頼関係が築けていない限り、ライフイベントの予定について部下自ら伝えることは少ないでしょう。何故なら、不確定なライフイベントを伝えることは、心理的ハードルが高いためです。

(3) 仕事から排除されたと感じ、不満が残る

部下としては、上司の関わりや任せられる仕事に不満があっても、すぐに異論を唱えることは少ないでしょう。部下が上司に対して、排除されていると感じている気持ちを伝えることは、とても勇気がいるものです。

しかし、この排除が重なっていくと、部下の不満は蓄積し仕事への意欲にも影響します。また内容によっては、ハラスメントに該当する可能性もあるのです。

“思い込み”を捨て、部下のキャリア観を大切に

では、上司はどのように対応すればいいのでしょうか。

(1) 目指したいキャリア像を問い詰めず、多様な選択肢を認め、提示する。

まず、上司が自身のキャリア観を手放し、多様なキャリア観を認めることが必要です。特に、部下のキャリアを現職の範囲に限定して関わることをやめましょう。

上司が、現職に限定して関わると、部下としては本音が言えず、上司が推奨するキャリア像に「合わせにいく」現象が起きます。これですと、部下のキャリア形成支援の目的である、部下の自律促進やパフォーマンスの向上とは程遠い関わりになるのです。

部下には就業だけでなく、多様な選択肢があることを前提として関わることが大切です。

次に、部下にキャリアの希望を問う前に、キャリア像の例を幅広く提示できるように準備しておくと良いでしょう。社内外問わず、様々なロールモデルを説明し紹介できるようにしておくことで、部下はライフイベントに応じた働き方をイメージしやすくなります。

そして、部下の発したキャリアイメージが上司にとって短いスパンで小さくとも、認め・受け入れましょう。部下が発したことを上司が受け入れて支援し、出来ることが増えていけば、その過程で目指したいキャリア像を見つけることができる場合があります。

(2) ライフイベントについての思い込みを捨て、部下の本音を把握する。

これも、まずは上司自身がライフイベントについての推測や思い込みを止め、部下の本音を把握することが大切です。

具体的な方法としては「中長期的なキャリア支援のために、会社に知っておいて欲しいライフイベントや事情はあるか」と聞きましょう。併せて、この質問はあくまでも仕事のためで、言いたくないことは言わなくて大丈夫だと伝えることが大切です。部下に安心感を持ってもらい、対話をはじめましょう。

可能であれば上司から、「自身で言うと」といった自己開示から始めると、部下も話しやすいでしょう。

(3) 配慮が排除にならないよう、期待を伝え本人の要望を引き出す。

排除にならないように、上司として期待を伝え、部下に要望を出すことが必要となります。時間や場所の制限があっても、周囲から求められる人材になる意識を持たせましょう。期待の伝え方としては、部下と任せるレベルを相談した上で、役割と責任を与えることを推奨します。

これまで、ライフイベントによる働き方の変化は、女性が担うことが主でした。しかし現在は男性やその他さまざまな事情を抱える部下に対しても同様に求められるようになっています。

部下のキャリア形成支援においては、自身のキャリア観で関わるのでなく、部下のキャリア観をきちんと聴き、認めることが重要です。

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